12月7日、若林の誕生日当日。この日もいつもと変わらず、若林はシュナイダーと二人だけでの居残り練習をしていた。そして練習が終わった後、ロッカールームでの着替えが済んだところで、シュナイダーは若林に呼びかけた。 「若林、誕生日おめでとう!」 シュナイダーの祝いの言葉を聞き、若林は嬉しそうに顔を綻ばせた。 「ありがとう、シュナ。俺の誕生日なんか、てっきり忘れてると思ったぜ」 「まさか! 俺が忘れるわけないだろう」 だが若林は笑顔のまま、シュナイダーにこんな事を言う。 「本当に? それにしちゃプレゼントを持ってきてないみたいだな」 本音では、若林はプレゼントなんてどうでもいいと思っている。しかし前にシュナイダーから誕生日のプレゼントについて聞かれたのを思い出したので、こちらから水を向けてみたのである。案の定、待ってましたというニュアンスでシュナイダーが答えた。 「これから渡すんだよ。 ちょっと目を瞑っててくれ」 「目を? なんか大袈裟だな〜」 口では文句をつけながらも、若林は素直に目を閉じる。どうやらシュナイダーは演出に凝るつもりらしい・・・と思いながらそのままじっとしていると、自分の両肩にシュナイダーの手が置かれたのが判った。 (両手を俺の肩に置いてるって事は、シュナイダーはどうやってプレゼントを渡すつもりなんだ?) と、疑問に思ったのも束の間。 ちゅっ、という小さな音と共に、鼻の頭に何か柔らかい物が触れた。 「えっ!?」 ビックリして若林が目を開けると、その目の前10cmも離れていない位置にシュナイダーの顔があって、若林は更に驚く。弾かれたように飛び退ってシュナイダーから離れると、目の前でニコニコ笑っている相手を問い詰めた。 「何だよ、今のは!」 「プレゼント。ちょっとした"おまじない"さ」 「おまじない・・・? 嘘つけ!」 若林は無意識に自分の鼻に触りながら、さっき鼻に感じた柔らかな感触と、同時に聞こえていた小さなを思い出す。 「あれ・・・キスじゃねーのか?」 若林の質問に、シュナイダーは更に顔を緩ませて大きく頷いた。 「ああ、そうだ。キスのおまじない。大人になっても若林の鼻が低いままだったら嫌だろうと思って、鼻が高くなるおまじないをしてあげた」 「低くて悪かったな!」 「他にもあるんだぞ。頬を叩かれても怪我しないおまじないとか、唇が荒れないおまじないとか・・・」 「うるさいっ!」 シュナイダーの言うプレゼントが、全ておまじないにかこつけて自分にキスする事だと気付き、若林は顔を赤くしてそっぽを向く。確かにプレゼントの希望を聞かれた時に「くれるもんなら何でもいい」とは言ったが、まさかこんなプレゼントをされるとは思っていなかった。 「ったく、シュナには付き合ってらんねーな。もう帰るぞ!」 ベンチの上に放り出してあったスポーツバッグを引っ掴むと、若林は足早にロッカールームから出て行こうとする。ところがドアの前でぴたりと足を止めると、くるりと後ろを振り向いてシュナイダーに言い放った。 「シュナイダーの誕生日には仕返ししてやるからな。覚えてろよ!」 仕返しという言葉に、若林を怒らせてしまったかとシュナイダーは焦る。だが、若林の顔には楽しそうな笑みが浮かんでいた。突然のキスに驚きはしたものの、本気で怒りを感じているわけではないのだ。その事が判ってシュナイダーは胸を撫で下ろした。 部屋を出て足早に廊下を歩く若林を追いかけて、シュナイダーは後ろから声を掛ける。 「待てよ。仕返しって何を考えてるんだ?」 「まだ考えてない。でも、絶対にキスよりもっとスゴイ事してやるからな! 覚悟しとけ」 若林の言うスゴイ事とは「思いもつかないような意外なイタズラ」の事なのだが、シュナイダーには「キスよりもっとスゴイ事」といえば、そっち方面の事しか頭に浮かばない。 「ああ、楽しみにしてるよ」 若林に追いついたシュナイダーは、若林の肩に手を掛けると愛おしげにその身をぎゅっと抱き寄せた。 「邪魔だぞ、離れろよ」 これまた不意打ちの抱擁に、若林が焦った声を出す。しかしシュナイダーは腕を緩めない。 「駄目。これは若林がサッカーで怪我をしないおまじないだからな」 「また、おまじないかよ?」 呆れた声を出しながら、若林がシュナイダーの顔を見る。目が合った拍子に何だか可笑しくなってきて、どちらからともなく声をあげて笑い出してしまった。若林は口では邪魔だと言うものの、シュナイダーの腕を振り解こうとはしない。二人はそのまま身体を寄せ合って、出口へと向かうのだった。 おわり
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