「あっちに並ぼうか」
俺はお一人様優先案内の列を見た。列は明らかにこちらの方が短く、進みも速い。若林が頷
く。
「そうだな。じゃあ、俺はあの辺りで、おまえがコースターに乗ってる姿を写すから」
若林はコースターのレールが接近している、鉄柵の方を指差した。
「え? 若林は来ないのか」
「当たり前だ。二人バラバラにコースターに乗ってたら、おまえの写真が撮れないだろう」
柵の傍に来たら両手を挙げろよ、と言い残して若林は行ってしまった。仕方がない、俺が言い
出したことだ。俺はお一人様優先案内の列に並んだ。
コースターは二人掛けなので、奇数人数のグループが乗ると席がひとつ余る。そこにスタッフ
が効率よく、一人の客をあてがっていく。すぐに俺の番が来た。俺の座る席の隣にいたの
は・・・・・・すごいデブのおばさんだった。おばさんはホホホと陽気に笑いながら、俺に挨拶し
た。
「あら、坊や、よろしくね」
「・・・どうも」
席に着くと安全バーが下ろされ、すぐにコースターが動き出した。最初はゆっくりと、段々にスピ
ードを増し、急傾斜の山をいくつもいくつも駆け抜けていく。かなりの迫力だ。しかしコースター
の迫力を上回るものがあった。
「いやーーーっ! きゃあーーーっ! ひいいぃーーーっ!!」
隣のおばさんだ。その立派な体格にふさわしい、すばらしい声量だ。コースターがカーブや下り
坂に差し掛かる度、悲鳴をあげている。・・・・・・うるさい。
「うほーーーっ!ひゃああーーーっ!!」
・・・・・・そろそろ若林が待っていると言った柵の傍を通る。俺は下方に見えてくる筈の、若林の
姿を探した。どんどん地表が迫ってくる。いた。問題の柵の周りには大勢人がいて、コースター
に乗っている連れに手を振っていたが、その中に確かにカメラを構えた若林がいた。俺は約束
どおり、両手を上げようとした。
コースターが柵に接近して、大きなカーブを描き出した。
「ひええええぇぇーーーーーーーーっ!!!」
隣のおばさんが一際大きな悲鳴をあげる。そして何を思ったか腕を伸ばし、俺の頭をグイッと
抱き寄せた。
「こわいわぁーーーっ! 誰かぁーーーっ!!」
身体が安全バーに固定されているのに、頭だけ引っ張られて、俺はくらくらしていた。しかもこ
のおばさんの腕・・・体臭がきつい!俺は吐き気をもよおした。若林・・・若林は・・・。
「ぎゃああああぁぁーーーーーーーーーっ!!!」
俺の頭を掴むおばさんの腕に力が入った。俺の眼の前が急速に暗くなった。

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