「若林も一緒に写ってくれるのなら・・・」
 「俺? 俺はいいよ。恥ずかしい」
 「おまえ、それはないだろう! 俺だって恥ずかしいぞ!」
二人で怒鳴り合っていると、若林の背後に一人(一体?)の着ぐるみが近づいた。いたずら者
のドラ猫のキャラクターだ。ドラ猫は若林の持っているカメラを、おどけた仕種で取り上げようと
していた。このキャラクターはいつも客の持ち物を取り上げて、しばらく逃げて見せた挙句、記
念写真に応じてくれるのだ。だから俺は、ドラ猫のやる事を黙って見ていたのだが・・・。
 「何しやがる!!」
ドラ猫がカメラのストラップを引っ張った途端、若林の後ろ回し蹴りが鮮やかに決まった。蹴っ
た瞬間、相手が何者なのか判ったらしく、若林が「しまった!」という表情を見せた。
 しかし時既に遅く、蹴りをぼってりした腹に喰らったドラ猫は、無様にすっ転んでしまった。そ
の拍子に被り物の巨大な頭が外れ、周りにいた子供がそれを見て泣き出した。若林が慌てて
被り物を拾い、着ぐるみを着たスタッフに駆け寄った。
 「すみません、スリかと思って・・・」
 「・・・ひでえなぁ、もう」
頭の取れたドラ猫が、頭を受け取りながらぼやいた。あっという間に、周囲に人だかりが出来
た。警備員が近寄ってきて、若林に言う。
 「一応、こちらで話を伺って宜しいですか?」
言葉は丁寧だが、有無を言わさぬ強い調子だ。若林と俺は顔を見合わせて、警備員について
行った。