若林に悪気がなかったこと、着ぐるみのスタッフに怪我がなかったこともあって、俺たちは警
備員に説教されただけですぐに放免された。若林が申し訳なさそうに、俺に詫びる。
「悪かったな。おまえまで怒られちまって」
「いいさ。ここに来たのは、俺の頼みを聞いて貰ったからなんだし」
俺は若林を慰めた。実を言うと内心では、ちょっと嬉しい気分だった。これで若林にひとつ貸し
が出来た。この貸しは今後、色々と役に立ってくれるかもしれない。
「それにしても、あの着ぐるみは何で俺のカメラを取ろうとしたんだろう?」
若林が不思議そうに言う。俺は説明してやった。
「あれはそういうキャラクターなんだよ。客の持ち物を取り上げて見せて、しばらく逃げて見せ
てから、持ち物を返して記念撮影に応じるんだ」
「へぇ、そうなのか」
若林が感心したように頷く。が、すぐに表情を強張らせて、俺に詰め寄った。
「ちょっと待て! じゃ、シュナイダーは、あの着ぐるみがカメラを取ろうとするのに、気付いて
いたのか?」
「ああ。見ていたからな」
「どうして、言ってくれなかったんだよ! おまえが一言、その事を言ってくれていたら、あんな
事にならなかったのに!」
若林が本気で怒っているらしいので、俺は焦った。
「だって、あれは誰でも知ってるパフォーマンスだぞ。まさか若林が本物のスリと間違えて、蹴
りを喰らわすなんて思いも寄らなかった」
「悪かったな! 誰でも知ってることを知らない、おっちょこちょいで!!」
若林は俺にカメラを押し付けると、出口に向かって歩き出した。
「俺は無知だから、この遊園地のルールが判らないんだ。後はおまえ一人でやってくれ!」
俺は若林を必死になってなだめすかしたが、若林の機嫌は直らなかった。結局、若林は俺を
置いて、一足先に帰ってしまった。カメラ片手に遊園地に取り残された俺は、ため息をついた。
「なんで、こうなっちゃったんだ・・・」
バッドエンド 5

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