俺は言葉を失った。どう見ても、俺が若林によからぬ事を仕掛けているようにしか見えな

 い。事実その通りなので、言い訳の仕様がない。

  「忘れ物を取りに帰ってみれば、この有様か? 源三、酒を持ち出したのはおまえか!?」

  ・・・なんだ、そっちか。俺は胸を撫で下ろした。

  「おい、源三、起きろ。・・・・・・駄目だ、完全に酔い潰れている」

  若林は寝入ってしまって、見上が戻った事にも気がつかないようだ。見上は、若林が起きな

 いので、俺に話しかけてきた。

  「何があった?」

  「俺が酒を飲みたがったんで、それで若林がボトルを持ってきてくれて。若林は飲まないっ

  て言ったんですけど、俺が無理に勧めて、そしたら若林が酔い潰れて・・・」

  俺は正直に事情を説明した。酔い潰れた若林に対して、いけない気を起こした事は勿論

 伏せてある。俺は素直に謝った。

  「全部、俺のせいです。申し訳ありませんでした」

  「源三に、どれぐらい飲ませた?」

  「ほんの、ワンフィンガー」

  見上が溜め息をつく。

  「子供の頃、粕漬けや甘酒で酔っ払っていた子だからな。この有様も仕方あるまい」

  見上は若林を抱え起こすと、寝室へ連れて行って寝かしつけた。それから居間に戻ってく

 ると、俺にジロリと白い眼を向ける。どうやら酒を飲んだ事に対するお説教が始まるようだ。

  見上が口を開いた。

  「で、シュナイダー。君は源三を酔わせて、何をする気だったのかね?




 やべぇ、バレてる!!





  心臓が口から飛び出しそうになった。俺はしどろもどろになって、必死に言い訳した。

  「・・・酔わせるなんて。若林が、あんなに早く酔っ払うなんて、思わなかったから・・・。さっき

  だって、俺、介抱してたんですよ」

  「介抱してたか、襲おうとしてたか、見れば判る」

  キッパリ言い返されて、俺は二の句が告げなくなる。

  「まあ、いい。情緒不安定な少年期には、酒の勢いで魔が差すこともあるだろう。今回は結

 局、何もなかったようだし・・・」

  ここで見上は言葉を切って、俺のことを鬼の形相で睨みつけた。

  「しかし、今後は我が家への君の出入を、一切禁止する! 試合や練習の時以外、源三に

  近付くんじゃない!」




  翌日。チームの練習に現れた若林は、見るからに顔色が悪く、ふらついていた。二日酔い

 だという事が容易に判る。俺は若林に聞いてみた。

  「昨日は悪かったな。見上に叱られただろう?」

  「別に。叱られなかったけど、ヘンなこと言われた」

  「ヘンなこと?」

  「見知らぬ男には気を許すなとか、よく知っている相手でも用心しろとか、特に親しい友人

  だと思っている奴が一番危ないとか・・・なんなんだろう?」

  み、見上の野郎〜!

  「それから俺、外泊禁止になった。やっぱり、酒飲んだのがまずかったんだな」

  外泊禁止!? 見上め、予防線張りやがったな!

  「それに、今日から見上さんが帰りに迎えに来るって。やだなぁ、すっかり子供扱いだよ」

  ・・・・・・轟沈。

  自分のせいとはいえ、若林のガードが鉄壁になってしまった。

  ああ、俺の想いが若林に伝わる日は来るのだろうか・・・?




バッドエンド 4   



  あとがき
 そりゃあ、保護者があんな現場を見たら、放っとくわけないでしょう。シュナ、哀れ・・・・・・(笑)