いつものように練習場へ向かう途中、シュナイダーはカルツと道でばったり出くわした。目的

 地が同じなので、そのまま連れだって一緒に向かう。シュナイダーとカルツの家は近いので、

 特に待ち合わせをしなくても、こうして合流してしまう事がよくある。もっとも、シュナイダーが

 遅刻をしなかった場合に限られるが。

  ロッカールームの前まで来て、ドアを開けようとしたとき、中から大きな話し声が聞こえてき

 た。先に来て着替えを始めていた、チームメイトたちの声だ。

  「・・・・・・悪い奴じゃないんだけどな」

  「・・・・・・変わってるよなぁ」

  「・・・・・・ちょっと、妄想癖があるんじゃないの」

 一斉に笑い声があがる。ドアの外のシュナイダーとカルツは、互いの顔を見合わせた。

  「・・・・・・確かに、あいつはかなり上手いと思うけど」

  「・・・・・・他の奴らはわかんねえよ」

  「・・・・・・どうせ、ザコばかりだろ」

  「・・・・・・日本のワールドカップ優勝なんて、絶対あり得ないって」

 そしてまた笑い声。カルツがシュナイダーに言った。

  「源さんのことらしいぜ」

  「ああ」

 シュナイダーは勢いをつけて、ドアを大きく開け放った。ドアが壁に当たり、バァン!と派手な

 音をたてる。中にいたチームメイトたちは一様に首をすくめ、噂話をぴたりと止めた。

  シュナイダーとカルツを見て、軽くあいさつをする。

  この二人が若林と親しいのは周知の事実なので、誰もさっきの会話の続きを始めようとしな

 い。カルツがわざと隣にいたチームメイトに聞く。

  「あれ、源さんは?」

  「・・・若林なら、いつも通り、一番乗りで練習を始めてるよ」

 ばつの悪い表情で、もぞもぞと答える。カルツは一際大きな声で言った。

  「ああ、そうだっけ。俺たちも日本人に負けてらんねえな!」

 周りの連中が、居心地悪そうに顔を見合わせる。シュナイダーは吹き出しそうになった。




  一日の練習が終わり、解散の時間になった。しかし若林はいつものように居残り練習を続

 けるらしかった。そしてシュナイダーも、いつものようにその練習に付き合う。

  「おまえら、ほどほどにしとけよ。じゃーな!」

 カルツがひと声掛けて帰っていった。残っているのは若林とシュナイダーだけになった。

  「今日も頼むぜ、シュナイダー!」

 若林がシュナイダーの所にボールを集めながら言った。次々と転がされてくるボールを足で

 受け止めながら、シュナイダーはロッカールームの前で聞いた話を思い出していた。

  日本のワールドカップ優勝。

  冷静に考えてみれば、とても可能性のある事とは思えない。だが、この練習熱心な日本人

 キーパーが目を輝かせて語っているのを見ると、あながち有り得ない事とも思えなくなってく

 る。若林なら、本当に日本を優勝に導くかもしれない。


  日本が決勝でドイツと当たることも・・・。


  まさか。予選ブロック落ちがいいところだろう。