反則なのは承知の上で、シュナイダーは下戸の若林に酒入りのドリンクを勧めた。 あらかじめ近所のファーストフード店で、二人分のコールドドリンクを買っておいた。そして片方のカップにだけ、少しばかり酒を垂らしてある。シュナイダーは店の手提袋から二つのドリンクカップを取り出すと、酒を仕込んだ方を若林に渡した。 「コレ、若林の分」 「おう、サンキュ。で、話ってのは何だ?」 カップを受け取った若林は、それには口はつけずにシュナイダーを促した。 「ちょっと長い話になる。まぁ、飲み物でも飲んでくれ」 そう言うとシュナイダーは若林に疑われないように、自分の分のドリンクに口をつけた。 もう悠長に若林を口説いている時間は無い。とにかく恋人としての既成事実を作ってしまわなければ。 だが屈強な若林が、押し倒されて大人しくしている筈が無い。そこで少々卑劣な手段だが、若林を酔わせて動きを封じる事にしたのだっだ。 シュナイダーにつられるように、若林がドリンクを飲んだ。 よし、計画どおりだ。シュナイダーはドリンクを飲みながら、当たり障りの無い話を始めた。話が長引くうちに、聞き役の若林も飲み物に口をつける回数が多くなった。そのうちに、若林が話しかけてきた。 「・・・なぁ、俺、もうホテルに戻りたいんだけど」 「まだ話が途中だ」 「悪りぃ。なんか急に眠くなってきて・・・俺、今日は帰って寝るよ」 若林がベンチから立ち上がった。しかし足元がどことなくふらついている。シュナイダーはすかさず若林を支えてやった。 「眠いんじゃなくて、具合が悪いんじゃないのか。俺が送ってやるよ」 「・・・う・・・そうか・・・ありがとな、シュナイダー」 シュナイダーに支えられながら、若林が潤んだような瞳で礼を言った。シュナイダーの背筋が期待でゾクゾクする。 (よし、今なら若林は俺の言いなりだ!) 若林を抱き抱えながら、シュナイダーは人目につかない場所に移動しようとした。 「源三ー! どこだー! げんぞーっ!!」 どこかで聞いたような声に、シュナイダーは慌てた。視線を向けると、案の定そこには若林の保護者だった見上がいた。見上はシュナイダーに支えられた若林を見て、大急ぎで駆け寄ってきた。 「自由時間でもないのに外出したと言うから、探しに来たんだぞ。どうした、何かあったのか?」 「・・・すみません。見上さん。なんだか急にだるいような眠いようなかんじになって・・・」 「熱でもでたのか? とにかく、ホテルに帰ろう」 見上はシュナイダーになおざりな礼をいうと、若林に肩を貸しながらホテルへと引き上げていった。 為す術も無く二人を見送りながら、シュナイダーは作戦が失敗したことを痛感していた。 (酒なんか飲ませるんじゃなかった・・・) もっと他の方法をとればよかったと、シュナイダーは後悔し溜息をついた。 おわり
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