反則なのは承知の上で、シュナイダーは若林に某ルートで入手した媚薬入りのドリンクを勧めた。 あらかじめ近所のファーストフード店で、二人分のコールドドリンクを買っておいた。そして片方のカップにだけ、たっぷりと無味無臭の媚薬を垂らしてある。シュナイダーは店の手提袋から二つのドリンクカップを取り出すと、媚薬を仕込んだ方を若林に渡した。 「コレ、若林の分」 「おう、サンキュ。で、話ってのは何だ?」 カップを受け取った若林は、それには口はつけずにシュナイダーを促した。 「ちょっと長い話になる。まぁ、飲み物でも飲んでくれ」 そう言うとシュナイダーは若林に疑われないように、自分の分のドリンクに口をつけた。 もう悠長に若林を口説いている時間は無い。とにかく恋人としての既成事実を作ってしまわなければ。 だが屈強な若林が、押し倒されて大人しくしている筈が無い。そこでこの上なく卑劣な手段だが、若林からその気になるように、裏技を使う事にしたのだった。 シュナイダーにつられるように、若林がドリンクを飲んだ。 よし、計画どおりだ。シュナイダーはドリンクを飲みながら、当たり障りの無い話を始めた。話が長引くうちに、聞き役の若林も飲み物に口をつける回数が多くなった。 頃合を見て話を止めると、シュナイダーは若林の様子を窺った。 若林は俯き、身体を小刻みに震わせている。 「どうした? 具合でも悪いのか」 シュナイダーがわざと訊いてみた。若林が顔を上げる。顔色が上気して真っ赤だった。瞳が妖しく濡れて、見るからに色っぽい。 「シュナイダー・・・おれ・・・身体が、おかしい・・・」 「そうか。幸い俺はそういう症状には詳しいんだ。俺が若林を治してやろう」 「・・・う・・・そうか・・・ありがとな、シュナイダー」 シュナイダーに身体を寄せながら、若林が潤んだ瞳で礼を言った。シュナイダーの背筋が期待でゾクゾクする。 (よし、今日こそ若林は俺のものだ!) まずはキスをと顔を近付けかけたときだった。 「若林くーん! わかばやしくぅーん!!」 若林を呼ぶ大声に、シュナイダーは慌てた。視線を向けると、なんとそこには、あのオオゾラ・ツバサがいた。ツバサはシュナイダーに抱き抱えられている若林を見て、大急ぎで駆け寄ってきた。 「若林くんがいないから、今みんなで探してるとこだったんだよ!」 「・・・つばさ。・・・ごめん」 「若林くん、顔が真っ赤だよ。熱でもあるの?」 「わからない・・・おれ、急に変な気分になってきて・・・」 「とにかく、すぐにホテルに帰ろう。みんな心配してるよ!」 以上の会話は日本語で行われたので、シュナイダーには理解できなかった。それに気づいて、若林が通訳してくれた。 「シュナイダー。つばさがきてくれたから、おれ、つばさとホテルに帰るよ」 「ツバサとホテル!? だ、駄目だ! 若林は俺と一緒にいるんだ!!」 「・・・おまえ、何言ってるんだよ? おまえも早く帰ったほうがいいぞ」 「若林くん、立てる? さ、早くホテルに行こう」 ツバサはシュナイダーに構わず、若林を抱き抱えるようにして、さっさとホテルに帰ってしまった。 為す術も無く二人を見送りながら、シュナイダーは作戦が失敗したことを痛感していた。 「媚薬なんか飲ませるんじゃなかった! これじゃ、ツバサが美味しい思いをするだけじゃないかー!!」 月に向かって吠えながら、もっと他の方法をとればよかったと、シュナイダーは地団駄踏んで口惜しがるのだった。 おわり
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