秘密
寝入りかけていた若林は、股間に違和感を覚えて闇の中で目を開いた。背後から伸びてきた手がベッドの中でもぞもぞと蠢きながら、こちらの下着の中に入り込もうとしているのだと判り、若林はうんざりする。
今日は疲れているからすぐに眠ろう、とさっき約束したばかりなのに。
若林は伸びてきた手を押し戻すと、寝返りを打ってシュナイダーに向き直った。
「よせよ。今日は眠いんだって」
「判ってる。若林がスッキリした気分で安眠出来るように、一回抜いてあげるだけだよ」
若林がこちらを向いたのを幸いとばかりに、シュナイダーの両手は遠慮なく若林のパジャマと下着を脱がせにかかっている。毛布の中で露出させられた陰部にシュナイダーの指が絡まるのを感じて、若林が堪らず甘い息を漏らした。触れると火傷しそうな程に熱を持った肉棒を両手で愛おしそうに包み込みながら、シュナイダーが若林の耳元に囁く。
「な? 俺に触られてると気持ちいいだろ? 俺に任せとけって」
付き合いの長い恋人は、どこをどうすれば若林が悦ぶのかを知り尽くしている。ペニスを可愛がるにしても、いきなり竿を扱くのではなく、裏筋や袋も含めて時間を掛けてじわじわと刺激を与え、若林が感じ始めたのを確かめてからゆっくりと擦り上げる。
確かにシュナイダーにして貰うと気持ちいい。だが、こちらの意思を無視して玩具にされるのは面白くない。若林は乱れそうな息を必死に整えながら、シュナイダーに言い返す。
「う・・・、別に・・・シュナじゃなくっても、こんなモン誰が触ったって・・・変わんねーよ」
口答えが返って来た事に、シュナイダーは苦笑する。止めろと言うのに悪戯を仕掛けられているのが癪で一言文句をつけたいのだろうが、若林の恋人として今の言葉は聞き捨てならない。先走りの汁でねとねとしてきたペニスを尚も擦り続けながら、シュナイダーは若林に言い返す。
「俺以外に、こうやって若林に触れる奴なんていないだろ」
竿を撫で擦りながら、じんわり濡れてきた亀頭を指先でクリクリとこね回すと、刺激に耐えかねるように若林の腰が揺れる。若林の息遣いはいよいよ荒くなってきた。
「それとも何か? 他の男にこうやってペニスを弄られた経験でもあるのか?」
見透かしたようにシュナイダーが嗤う。童貞だった若林を一から仕込んで、男を受け入れて悦ぶ身体に仕上げたのは自分だ。若林に自分以外の男などいる筈がない。その確信があった上での、余裕の発言だった。
「・・・あ、ある」
シュナイダーにとって、予想外の答だった。
「何だと?」
若林の限界が近いのを知りながら、シュナイダーはわざと根元を強く握り込み、射精を妨害した。売り言葉に買い言葉で言い返しただけの出鱈目にしても、性質の悪い発言だ。こういう時は、ちゃんとお仕置きをしなくては。
「ほう、そいつは初耳だな。相手は誰だ? 正直に言わないと、達かせてやらないぞ」
文字通り急所を握られて、若林が苦しげに息をついた。今のは嘘だと一言言えば、シュナイダーはすぐに若林を解放するつもりだったのだが、若林はきつく唇を噛んで苦痛に耐えている様子だった。若林の頑なな態度に、どこまで片意地を張る気だと半ば呆れながらシュナイダーが言った。
「あぁ、念の為言っておくけど、子供の頃にパパにお風呂でオチンチンを洗って貰った、なんていうのは数に入らないからな」
わざと厭味っぽく話すシュナイダーの声を聞きながら、若林は枕に顔を押し当てる。忘れようとしても忘れられない、あの記憶が彼の脳裏にまざまざと蘇っていた。
ドイツへの留学が決まった事を、若林は岬を見送った直後の翼に報告した。岬に続いて若林も旅立ってしまうと知り、翼は驚きを隠せない様子だったが、それでも若林の新たな挑戦を我が事のように喜んでくれた。その数日後、若林は足の怪我が完全に治ったベストの状態で、再度翼と一対一の勝負をした。旅立ちの前にもう一度翼と勝負する事が出来て、若林には日本に思い残す事はなくなった。
(俺はプロになるまで日本には帰らない。次に翼に会うときは、全日本でだ!)
若林はそう思っていたのだが、勝負の日からそれほど間を置かずして、翼から若林の家に電話が掛かってきた。
『若林くん、今は出発準備で忙しいだろうけど、もし時間があったら一度、俺の家に来ない?』
「翼の家に? どうしてまた急に?」
『だって若林くんがドイツに行っちゃったら、もう当分会えないんだろ。最後にもう一度、ゆっくり会いたいと思って』
忙しいなら別にいいから、と付け加える翼の気遣いを嬉しく思いながら、若林は答える。
「じゃあ、今からでもいいか? 長居は出来ないけど、少しくらい話す時間ならあるから」
数十分の後、若林は翼の家を訪れた。南葛SCのメンバーと共にこの家に来た事は数回あったが、一人での訪問は初めてだ。
「いらっしゃい、若林くん! 俺の部屋においでよ」
「ああ、邪魔するぜ」
そういえば翼の部屋に通されるのも初めてだったなと思いながら、若林は部屋へ足を踏み入れる。壁や天井にサッカー関連のポスターや切り抜き、ステッカーなどが所狭しと貼り付けられた様子に、若林は感嘆の声を漏らす。
「すげぇな〜。よくこんなに集めたもんだ」
「だろ? 自慢の部屋だもんね。若林くんにも一度見て貰いたかったんだ」
貼り付けられたポスターや切り抜きの中には、ドイツの選手もいた。若林がこれからドイツへ行く事もあって、自然と話題は海外サッカー事情へと流れる。二人であれこれ話が盛り上がってるところに、翼の母親がジュースを運んできてくれた。礼儀正しく頭を下げる若林を見て、ジュースの乗ったお盆を手にしたまま愛想よく微笑みかける。
「若林くん、よく来てくれたわね。翼から聞いたけど、ドイツへ行くんですって? すごいわね〜。日本にいられるのも、あとちょっとでしょう? 今日は自分の部屋にいると思って、ゆっくりしていってね。そうそう、頂き物だけど美味しいお菓子があるのよ。若林くん、和菓子は好きかしら? 羊羹と最中、どっちがいい? それとも両方持ってきましょうか?」
ニコニコと話しかけてくる母親からお盆を受け取りながら、翼が若林の代わりに答える。
「和菓子は美味しくないからいらないよ〜。若林くんはあんまりゆっくり出来ないんだから、お母さんは邪魔しないで!」
「はいはい、判りました。邪魔者はいなくなるから、安心しなさい」
戸口でお盆を翼に手渡しながら、母親は茶目っ気たっぷりに言い返す。ドアを閉めて母の姿が見えなくなると、翼が若林に向かって照れたように笑った。
「うちのお母さん、おしゃべりだから。ごめんね」
「謝る事ねーよ。明るくて優しそうで、いいお母さんじゃないか」
「へへっ、まーね」
ジュース入りのコップが二つ並んだお盆を手に、翼が若林の傍に戻って来た。ところが、そのお盆を絨毯の上に置こうと膝を屈めた時、急にバランスを崩した。お盆で足元の視界が遮られていた為に、転がっていたペンケースを誤って踏んでしまったのだ。
「あっ!」
「うわっ、冷てっ!!」
よろけた拍子にコップの一つが、胡坐をかいて座っていた若林の上に落ちてしまった。氷入りの冷たいジュースが股間にかかってしまい、若林は思わず声を上げる。翼は慌てて落ちたコップを拾い上げると、それをお盆と一緒に勉強机の上に置いた。
「若林くん、ごめん!」
「いいって。それより、何か拭く物ないか?」
若林がそう尋ねると、翼は慌てて室内を見回した。そして通学カバンの中に母親から持たされたハンカチが入れっ放しなのを思い出し、すぐさまそのハンカチを取り出した。
「ごめんね、すぐ拭くから」
翼は手にしたハンカチで、若林の股間をズボンの上からゴシゴシと擦り始めた。
「!!」
若林は焦った。シミを拭き取ろうとする翼の手つきは、あたかも若林の性器を包み込むような具合になっている。なので翼の手が動く度に、ペニスが妙な具合に感じてしまうのだ。服の上からとはいえ、一番敏感な部分に容赦なく刺激を加えられて、若林は慌てて翼の手を払いのける。
「やめろ! 自分で拭くから、変な所に触るな!」
「あっ!?」
翼はビックリした顔で、若林の股間を見下ろしている。つられるように己の股座を見下ろした若林は、そこが大きく膨らんでしまっているのを見て肝を冷やす。
(やべぇ・・・コレって、アレの時と同じだ・・・)
若林は一ヶ月ほど前から、自慰を覚えていた。朝起きた時に下着が変な具合にべとついてる時があって、一体我が身に何が起きたのかと原因究明の為にペニスを弄くっているうちに、オナニーの快感を知ってしまったのである。
だが他人の手による刺激で勃起してしまったのは初めての経験で、若林は戸惑った。このままペニスを擦っていれば、一番気持ち良くなった時に白い汁が出て、勃起していたペニスが元に戻るのは判っているのだが、翼の見ている前で自慰をするわけにもいかず途方に暮れる。
友人の目の前で、その友の手に触られて勃起してしまうという椿事に取り乱している若林の頭には、トイレを借りて自己処理をするという考えは浮かばなかった。何とか押さえ込むだけでペニスが元に戻らないかと、若林は己の股間をぎゅうぎゅうを抑えつけるが、あまり効果はないようだ。
真っ赤な顔で必死に股間を抑え込もうとしている若林を心配して、翼がハンカチを持つ手を差し伸べようとする。これ以上翼に触られるのを恐れて、若林は慌てて怒鳴った。
「な、なんでもないっ! なんでもないから触るな!!」
「なんでもない事ないよ! こんなに膨らんでて、変だって」
翼は尚も若林の股間へと手を伸ばす。若林は反射的に、翼の手を払いのけた。
「やめろって言ってんだろーが! このスケベ!!」
「スケベって・・・」
翼にはスケベ心はもとより、若林をからかう気持ちすらなかった。ただ、若林の股間が急に膨らんだのが何らかの異常にしか思えず、それなら恥ずかしがっていないですぐに然るべき手当てをするべきではないのかと思っただけなのだ。
(どうしたら若林くんに、恥ずかしがらないで貰えるんだろう・・・あ、そうか!)
パッと名案(?)が閃いた翼は、若林の傍から離れて立ち上がった。翼が諦めてくれたのだと安心したのも束の間、若林は翼を見上げてギョッとする。
翼は若林の目の前で、半ズボンとブリーフを脱ぎ捨てて下半身裸になっていたのだ。目の前にぷらんと垂れ下がった小さなペニスに、若林の視線は吸い寄せられる。
「ほら、俺も脱いだから。お互い見せっこなら恥ずかしくないだろ? だから若林くんも手をどけて、脱いで見せてよ」
捨て身の態度でこうまで言われては、若林ももう嫌だとは言えなかった。自分も腰を浮かせると、ぎこちない手つきでズボンとトランクスを一緒くたにして、膝の辺りまでずり下ろす。途端に勃ちかけのペニスがぷるんと首をもたげたのを見て、翼は思わず声を上げた。
「若林くん、それ、どうしたの!?」
「どうしたって言われても・・・急に、こうなって・・・」
「これ、絶対変だよ? お母さんに言ってお医者さんを・・・」
「嫌だ!! それだけは絶対に止めてくれ!」
フルチンのまま部屋を出て母親を呼びに行こうとるする翼を、若林が血相変えて引き止める。
「これは何でもないから! 翼がちょっと後ろ向いててくれれば、すぐに治るから。だから誰も呼ぶな!」
「・・・それ、本当にすぐに治るの?」
疑わしそうに聞き返しながら、翼は若林のペニスへと顔を近づけ、勃ちかけの一物をまじまじと見つめた。翼の息がかかるのがかすかに感じられて、若林は興奮する。すると翼の目の前で若林のペニスがピクッと震えた。
「あ! また少し大きくなった!」
「見るな! 頼むからもう見ないでくれ!!」
若林は股間を両手で覆うと、翼に強い口調で言った。
「これは本当に何でもないんだ! でも翼に見られてると治せないから、ちょっとだけ後ろを向いててくれ。頼む!」
「でも・・・」
「頼むから、後ろを向いてくれ! それで、俺がいいって言うまでは絶対こっち見るなよ!」
顔を赤くして捲くし立てる若林の剣幕に押されて、翼は渋々頷いた。そして下半身丸出しのまま、若林にくるりと背を向け、その場で体育座りをする。
「これでいい?」
「・・・ああ。絶対振り向くなよ」
翼に念を押すと、若林は自分も後ろを向いて絨毯の上に座り直した。翼とは丁度背中合わせになる格好だ。そして脚を広げると、目を閉じてそろそろとペニスを扱き始めた。声を出すまいと唇を噛んでいたが、翼に擦られて勃起してしまった事、翼にペニスを見られてしまった事、後ろを向いて貰ってるとはいえ翼と同じ部屋でオナニーをしている事を思うと、異様に興奮してしまって抑えようとしてもかすかに声が漏れてしまう。
「っん、・・・んんっ・・・」
乱暴に磨き上げるように右手を動かしていると、手の中のペニスがぐんぐん固くなっていくのが判る。
もうすぐ、もうすぐ終わる・・・。
ところが若林がフィニッシュを迎える直前。思いもよらぬ近距離から、翼の声が聞こえた。
「若林くん、何やってんの??」
口から心臓が飛び出しそうなほど驚いた若林が振り返ると、5センチと離れていない間近に翼の顔があった。翼は見るなと言われたものの、好奇心に負けて若林の肩越しに、若林のしている事を覗き見てしまったのだった。見られていたと判った瞬間、若林の頭に血が上る。そして同時に握っていたペニスの先端からは、ぴゅるっと白濁した汁が吹き上がった。
「あぁっ・・・」
見られていると判ったのに堪えきれずに射精してしまい、若林は恥ずかしさに眉を寄せる。そんな若林の様子を、翼は呆然と見つめていた。
ペニスを握ったままで俯いていた若林が、やがて口を開いた。
「翼・・・見るなって言ったのに・・・」
「ごめん。でも若林くんの声が苦しがってるみたいに聞こえたから、つい・・・」
謝る翼の前で、若林は己の手を性器からどけた。先程までは固く膨らみ天を仰いでいたペニスが、今は先端から汁を垂らしながら力なくうなだれている。
「ほら、もう何ともねぇだろ。だから俺の事は心配しなくていいから」
「・・・うん。あ、でもちょっと待って」
トランクスを履き直そうとする若林を押し止めて、翼がティッシュペーパーの箱を持ってきた。
「先っちょから膿みたいなのが出てるから、拭いたほうがいいよ」
「ああ、ありがとう・・・あっ、おい! 止めろって!!」
ティッシュの箱を渡してくれるのかと思いきや、翼はティッシュを手に取ると自ら若林のペニスを拭い始めていた。若林のペニスを握り、空いた方の手で亀頭部分をティッシュで拭っている。拭き難いのか、竿を何度も持ち直すのが絶妙な刺激になってしまい、若林は喘ぐ。
「うぁっ、ばかっ、そんな擦ったら・・・う・・・」
「あっ!! 若林くんのオチンチン、また大きくなってきたよ?」
「つ、翼が触るからだろうが!!」
「これって、さっき若林くんがやってたみたいにすれば、また膿が出るのかな」
ティッシュを丸めて放り出すと、翼は両手で若林のペニスをシコシコと擦り始めた。布越しに擦られただけで勃起してしまったのに、今は性器を直に扱かれてしまい、若林には到底我慢など出来はしなかった。他人の手が与えてくれる刺激はペースが読めず、自慰で感じる快感など比べ物にならない。
(なんだよ、これ・・・すごい、気持ちいいっ・・・つばさ、つばさ・・・ぁ・・・)
友の手に握られながら、若林のペニスはぐんぐん固さを増し天を仰ぐ。絨毯の上に裸の尻をついてぺったり座り込んでいた若林は、翼にペニスを握らせたまま脚を大きく広げた。更に両手を腰の後ろについて大きく仰け反り、翼の手の動きに合わせてハァハァと息を弾ませる。
だが若林の両腕は、股間から押し寄せる快感に耐え切れなかった。翼の見ている前で、若林の上半身はそのまま絨毯の上に仰向けに崩れ落ちた。若林の変調に気付き、手を休めた翼が心配そうに声を掛ける。
「若林くん、大丈夫?」
「あ・・・ああ。そのまま、続けて・・・くれっ・・・」
大の字になって寝そべった若林は、熱に浮かされたように翼に愛撫をねだる。翼は素直に若林のペニスを扱き続けていたが、ふいにその手を止めた。
「すごい、若林くんのオチンチン、すごく固くなった」
翼は手を離すと、顔を近づけて若林のペニスをつぶさに観察した。擦り始めるまでは自分のモノと同じく、すっぽり皮を被って項垂れていた若林のペニスが、勃起した今は別のモノのように変貌し汁を垂らしながらプルプルと震えている。
「あっ、翼・・・やめ・・・やめるなっ! もっと、あ・・・」
「もっと、って、もっと早くって事? これでいい?」
再度若林自身を掴んだ翼が、激しく右手を上下に動かした。
その直後、若林の全身を快感の波が駆け抜ける。
「あ、あぁ・・・あーっ!」
ビクンッと若林の身体が大きく震えた。若林が四肢を突っぱねるのと同時に、翼にしっかと握られた若林のペニスからは白濁した汁が迸る。若林の鈴口からぴゅるぴゅるとザーメンが噴出すのを見て、翼が嬉しそうに言った。
「出た! 出たよ、若林くん」
「あ、ああ・・・」
「すごい。さっきより一杯出たみたい。まだこんなに膿が溜まってたんだ」
むき出しになっていた若林の下腹部や太腿に飛び散った精液を見て、翼が呟く。手を離してみると、固さを失った若林のペニスはぺたりと力なくうなだれた。
大きく息を弾ませながら、若林がのろのろと身体を起こす。そしてティッシュを手に取ると、べとついたペニスを拭い、身体のあちこちに飛び散っていた精液を拭き取った。そして翼にまた何か言われる前に、そそくさと濡れたままの下着とズボンを履き直した。
「若林くん、もう大丈夫なの?」
下半身裸のままの翼が、若林を気遣うように尋ねる。若林が翼のペニスに目を向けると、それは小さく垂れ下がったままで、全く性的興奮の兆候が見られない。その事に気付いた途端、快感に流されて忘れかけていた羞恥心が若林の胸に湧き上がった。
(こいつ、自分は全然何も感じてないのかよ・・・)
純真無垢な翼に淫らな行為を手伝わせてしまったという事実が、深い罪悪感となって若林を責め立てる。若林は顔を赤らめたまま翼に詫びた。
「翼、ごめん。変な事させちまって」
「え? あぁ、俺は全然気にしてないから平気だよ。それより、若林くんのオチンチンが治ってよかった!」
笑顔を浮かべながら、思い出したように下着とズボンを履き始めた翼に向かって、若林は真剣な顔で言った。
「翼、今日の事は誰にも言うなよ」
「内緒にするの? どうして?」
「どうして・・・って、恥ずかしいし、カッコ悪いじゃねーか。チンポが急にでかくなったのを、翼に扱いて貰って治したなんて、誰にもバレたくねぇよ。翼だって、俺のチンポに触ったなんて誰にも知られたくないだろ?」
若林の問い掛けに、翼はうーんと首を傾げる。
「俺は別に・・・っていうか、若林くんのに触ったって、どっちかっていうと自慢になりそう! 若林くんは石ノ湯に来た事ないから、若林くんのオチンチンはまだ誰も見た事ないもんね」
「つ、翼ーっ!!」
「あはは、冗談だよ〜。誰にも言わないから安心して」
ケラケラと無邪気に笑う翼に繰り返し念を押すように口止めをして、若林は逃げるように翼の家から立ち去った。
しかし忘れてしまいたいと思う記憶に限って鮮明に残り続けるもので、その後若林は翼の手で達かされる淫夢を幾度も見るようになった。夢に見るだけならまだいいが、目覚めた時には生々しい夢精の痕跡が必ずと言っていいほど下着に残っており、思春期の若林を大いに悩ませた。
ドイツに渡り、シュナイダーと付き合うようになってから翼との淫夢を見る回数は格段に減ったが、それでもあの時の記憶が薄れる事はなかった。
ベッドの中で、シュナイダーの指が若林を執拗に責め立てる。あと少しで達する事が出来るのに、シュナイダーはわざと若林の根元をきつく握り込み、射精を許さない。
「言えよ。誰にコイツを可愛がって貰ったんだ?」
「あ、あぁ・・・それは・・・」
「言ったら達かせてやるぜ」
達きそうなのに達かせて貰えない、中途半端な状態でなぶられ続けて若林の意識が霞む。
言えば楽になれる。ならば、いっそ言ってしまおうか。
他人の手で達かされる快感は、シュナイダーと知り合うずっと前に覚えてしまっていた事を。恋人と身体を重ねて愛し合う前に、友人の手で肉欲を満たした経験がある事を。
(・・・ダメだ!)
翼の名前が咽喉まで出掛かったところで、若林は言葉を飲み込む。あれは俺と翼の、誰にも言ってはならない二人だけの秘密だ。しかも、翼に散々口止めをしたのは自分なのだ。軽々しく喋っていい事じゃない。
若林は枕に伏せていた顔をシュナイダーの方へ向けると、途切れ途切れに話し始めた。
「あ・・・あの、ガキの頃に兄貴たちと風呂入ってて・・・それで、兄貴が俺のチンポも洗ってくれて・・・」
苦しまぎれの言い訳だったが、シュナイダーはお気に召したらしい。クックッと小さく笑いながら、ペニスの根元を握る力を緩めたかと思うと、そのまま竿を先端に向けて優しく扱いてくれた。途端に若林の中から、抑え込まれていた熱い精液が迸る。待ち望んでいた開放感を味わいながら、若林はガックリと枕に顔を伏せた。若林の精液で濡れた手をペロリと舐めながら、シュナイダーがニヤニヤと笑う。
「そんな事だろうと思ったぜ。妙な見栄を張らなければ、もっとすぐに気持ちよくなれたのに」
「・・・てめぇ、好き勝手やりやがって」
若林は布団の中に頭から潜り込むと、シュナイダーの下着を膝までずり下ろした。そしてシュナイダーの男根を口に含み、舌で丁寧に愛撫する。身体の向きを変えてベッドに仰向けになったシュナイダーは、嬉しそうに息をついた。
「若林、仕返しのつもりか? こっちは願ったり叶ったりだぜ」
正直なところ、仕返しとは少し違う。問われたからとはいえ、シュナイダーに愛撫されながら翼にして貰った時の事を思い出していたのが後ろめたいのだ。だから自分からシュナイダーを求める事で、この疚しい気持ちを忘れてしまいたかったのである。
シュナイダーに奉仕を続けるうちに、鮮明に呼び覚まされていた翼との甘酸っぱい記憶は、若林の意識から少しずつ追いやられていく。いつしか若林の頭の中は、恋人を如何に気持ちよくさせられるか、その一点だけに集中していた。
「・・・上手いぜ、若林」
蕩けるような舌使いに、シュナイダーが低く呻いた。