悪いこどもたち

 トレーニングジムでの自主トレを終えた若林は、降り積もった雪に足を埋めるようにしながら帰宅した。ドアを開けようとして、そこに何かがぶら下がっているのに気付く。
 きらきらした飾りをまとった緑色の小さなリース。
 この時期にはどこの家にも飾ってあるクリスマスの定番飾りだが、若林の住む家には昨日まで無かった。若林が飾ったわけではないから、同居している見上コーチがやったのだろう。
 「去年はこんな物、飾らなかったのになぁ」
室内に入ると、そこにも見慣れない物があった。小さなおもちゃのクリスマスツリーが、飾り棚の真ん中に載せられている。
 「おう、源三。帰ったか」
珍しく先に帰宅していた見上が、奥から姿を見せた。
 「ただいま、見上さん。コレ、どうしたんですか?」
若林がツリーを指差しながら尋ねる。
 「いいだろう? マルクトで買ってきたんだ。去年はクリスマスらしい事は何にもしなかったからな」
見上は椅子に腰を下ろすと、若林に話し続ける。
 「俺は来年帰国するから、源三と一緒にいられるのもあと僅かだ。今年のクリスマスは、ちょっとくらい賑やかに祝おうじゃないか。イブの夜にはケーキや料理を買っておくから。もちろんプレゼントもだ。期待してろよ」
 見上は楽しそうに話しながら、若林の反応を見る。
 ドイツに来てからの約二年間、若林の生活はサッカーが全てだった。若林をドイツに連れてきた張本人の見上は、仕事が忙しくて殆ど若林を構ってやれなかった。しかし若林はハンブルクJr.ユースチームに籍を置き、コーチとしての見上が傍にいなくても、一人練習に励んでめざましい上達を見せていた。今では若林はチームの正GKである。
 それはそれで嬉しい結果だが、若林の面倒をあまり見てやれなかった見上は、若林に対して申し訳ない気分だった。そこでせめて今年のクリスマスを、若林の為に楽しく祝ってやろうと考えたのである。サッカー抜きのイベントはこれが初めてだから、きっと喜んでくれる筈だ。そう思っていたのだが、何故か若林の表情は冴えず、言葉を濁している。
 「別に大袈裟にしなくてもいいんじゃないですか。クリスチャンでもないんだし」
 「おいおい、日本人は宗教に関係なくクリスマスを祝うもんだぞ」
もしかして源三は、自分に負担を掛けるのを気にしているのかもしれない。見上はそう思い、こんな話をする。
 「源三、知ってるか? サンタクロースってのは、誰にでもプレゼントをくれるわけじゃないんだぞ。一年間いい子にしてたらプレゼントを貰えるけど、悪い子の場合は罰を与えられるんだそうだ」
 「はぁ・・・」
 「源三は今年一年どころか、いつもいい子にしてたからな。たまにはご褒美を貰ってもいいんだよ」 
 「俺は・・・いい子じゃありません!」
急に若林の語調がきつくなり、見上は驚かされた。「いい子」という言い方が、子供扱いされてるようで気に障ったのかと思い、言い方を変える。
 「今のは例え話だよ。要は源三にも息抜きというか、気分転換が必要だと思ったんだ。それとも、俺と二人でクリスマスを祝うのは嫌か?」
 「とんでもない。嬉しいですよ。・・・でも俺、予定があるんです」
 「予定?」
見上はオウム返しに聞き返す。若林がその予定とやらを説明した。
 「シュナイダーの家では、クリスマスにお母さんの実家に帰るそうなんです。でもシュナイダーはお母さんの実家の人たちと気が合わないから、一人で留守番するって言ってました。だから俺、クリスマスにはシュナイダーの家に泊まってやろうと思って・・・」
 「なんだ、そう言う事ならシュナイダーをこっちに呼べばいいじゃないか」
 「!! だ、駄目です。えぇっと、俺が行くって、もう向こうに言ってあるし・・・」
若林が慌てた口調で、見上に反論した。クリスマスにはまだ間があるのだから、これから先方へ掛け合えば予定の修正は充分可能だと思ったが、見上はそれを口にしなかった。
 若林の必死な様子から、どうやら煩い大人がいない所でシュナイダーと気楽に一晩遊ぶ気だったのだろう、と察しをつけたのである。
 (俺といるより、友達と気兼ねなく遊ぶ方が源三には嬉しいだろう)
 「わかった。向こうに泊まってきなさい。部屋を散らかしたりして、あちらさんに迷惑を掛けるんじゃないぞ」
 「はい! ありがとうございます」
ホッとした顔で礼を述べる若林を見て、見上はこの外泊許可が若林にとって一番のプレゼントになったと感じるのだった。

 イブの当日、若林はシュナイダーの家を訪問した。
 シュナイダー家の玄関には、若林の家に飾られたのより何倍も大きいリースがぶら下がっている。
 「よう、若林。待ってたぜ」
シュナイダーに迎えられ、若林はシュナイダーの家に上がりこんだ。窓には白紙を切り抜いて作った雪の結晶がぺたぺたと貼られ、窓枠や戸棚など部屋のあちこちにツリーやサンタの小さな飾りが置かれている。一番広い居間にはきらびやかなクリスマスツリーが、どっしりと鎮座していた。
 おもちゃのツリーとリースしか置いてない自宅を思い出し、若林が感心したように言う。
 「家中クリスマス一色だな」
 「俺も少し手伝わされたけど、ほとんどは妹が率先して飾りつけてるんだ。毎年そうさ」
シュナイダーに勧められ、若林はツリーに一番近い椅子に腰掛ける。
 「そういえば俺ん家でも・・・あ、日本の家な。クリスマスの時はでっかいツリーを飾ってたよ。庭師たちが庭木にも電飾を巻いてくれて、結構派手にしてたっけな。こっちに来てからは、何もしてないけど」
 そう言ってから、今年は見上がクリスマスのお膳立てをしてくれようとしていたのを思い出す。
 「・・・悪かったかな」
 「何が?」
シュナイダーに問われて、若林は数日前に見上と交わした会話を説明した。
 「今年は見上さんが、色々用意してくれるみたいだったのに」
 「仕方ないだろう。俺との約束のが先だ」
 「うん、判ってる。それに・・・」
若林は見上に言われた言葉を思い出す。『源三はいい子にしてたから、ご褒美を貰ってもいいんだよ』 そんな感じの台詞だったが、見上に対して秘密を持っている若林には耳が痛いことこの上なかった。
 見上の目には若林の日常は、明けても暮れてもサッカーばかりの生真面目な生活に見えていただろう。休日に遊びに出掛けることもなく、ガールフレンドもいない。いくらサッカーが好きで、それに打ち込んでいるといっても、もう少し息抜きをした方がいいのではないか。多分見上はそう思っていた筈だ。
 だが若林は見上の目の届かないところで、充分すぎる息抜きをとっていた。チームメートのシュナイダーと恋に落ちていたのである。恋の相手が同性である事が若林の心に重くのしかかっていたが、シュナイダーと愛を語らい、キスを重ね、時を過ごしているうちに、ついにシュナイダーと一線を越えてしまった。
 愛し合っているのだからセックスするのは当然だ、とシュナイダーは言った。だがシュナイダーを受け入れる時の痛みは耐え難いほどに大きく、若林はシュナイダーに抱かれる度に自分が過ちを犯している気がした。自分たちが男同士なことに加え、未成年であることも罪悪感を増大させていた。
 シュナイダーを愛しているし、こうなった事を後悔してはいない。だけど自分たちの関係は、堂々と周りに触れ回れる事じゃない。ましてや、自分を信頼して疑わない見上コーチには絶対に知られてはいけない。
 (俺はいい子なんかじゃない。俺が貰えるのはご褒美じゃなくて、罰のほうだ)
見上に隠し事をしている後ろめたさから、若林は自分がのうのうとクリスマスを祝ったりしてはいけない気がしていた。シュナイダーとの約束がなくとも、若林は見上の提案を断っていただろう。
 ふと、若林の胸に疑問が浮かぶ。若林はシュナイダーに尋ねた。
 「あのさ、おまえん家、クリスチャンだよな」
 「ああ」
 「じゃあさ・・・俺と付き合うのって、抵抗感じなかった? キリスト教って同性愛禁止だろ?」
よくは知らないが確かそんな教義があったと思い、若林は聞いてみた。信仰心のない自分でさえ、後ろめたさを感じていたのだ。当然シュナイダーにも葛藤があっただろう。
 「そういう考えは確かにある。でも心配するな。聖書の解釈は一通りだけじゃないんだ。同性愛を容認しているクリスチャンも大勢いる」
 シュナイダーはそう言ったが、若林は何となく納得出来ない。俺と違ってシュナイダーは、全くやましさを感じていないのだろうか。自分だけが背徳心を抱いているのかと不安な気持ちになる。若林は質問を続けた。
 「おまえの家は? お母さんとか、同性愛容認派か?」
 「・・・・・・いや、違う」
シュナイダーが小さく肩をすくめて見せた。
 「蛇蝎のごとく忌み嫌ってるって訳じゃないけど。でも出来れば自分の身近にはいて欲しくない、って感じかな」
 「それじゃ、俺たちのこと、親には言えない・・・よな」
 「いずれは話すと思うけど、今はまだ言えないな。母は俺を精神的に頼りにしているようなところがあるし」
 「やっぱ、シュナイダーも『悪い子』か」
若林がホッとしたように笑った。シュナイダーが自分と同じ様に悩みを抱え、親に隠し事をしているのが判って気持ちが安らいだ。しかし何の気なしに言った若林の言葉に、シュナイダーが噛み付いた。
 「何が悪いって言うんだ? 俺たちは何も悪いことはしていない。周りに伏せているのは、余計なトラブルが起きるのを事前に避けているだけだ」
 シュナイダーが若林の肩を掴み、自分のほうに向き直らせた。
 「好きな人と愛し合ってるだけだ。それの何が悪い?」
 「それはわかってるよ。俺が言いたかったのは・・・俺たちはサンタからプレゼントを貰える『いい子』じゃない、って事」
シュナイダーの視線を真っ向から受け止めて、若林が答えた。この返答に、シュナイダーは目を丸くする。
 「急に何の話だ?」
 「だからサンタの話だよ。俺たちはサンタにプレゼントをもらえると思うか?」
シュナイダーは考えてみた。
 悪いことはしていないと言い切ったものの、サンタのプレゼントを待ち望んで一年間いい子にしている純真な子供たちと比べたら、セックスを覚えて親の目を盗んで逢引している自分たちはとても『いい子』とは言えない気がした。
 「・・・そんなプレゼント、俺はいらない」
シュナイダーは顔を近づけ、若林の顔を見つめた。
 「俺はプレゼントより、若林の方がいい」
 「・・・俺も」
二人はクスクス笑いながら顔を押し付けあうようにしてじゃれあった。しかし楽しそうな笑い声はすぐに止んだ。
 互いの唇をぴったりと重ね合わせていては、笑うことは出来ないのである。

 シュナイダーが使っているベッドは、二人で寝そべるとちょっと狭かった。しかし日頃二人が利用するのは、無人のロッカールームの固いベンチだったり、トイレの個室の冷たい便器の上だったりするので、普通にベッドが使えるだけで若林は嬉しかった。
 ベッドから落ちないように窮屈に身体を寄せ合っているのが、むしろ楽しくてたまらない。いつもは下半身だけを露出させて慌しく事を済ませているが、今日は二人とも全裸で、身体を寄せると互いの体温を肌で感じる事が出来る。誰かに見つからないかと声を押し殺す必要もない。
 「いっぱい、かわいがってあげる」
若林を仰向けに寝かせて、シュナイダーが耳打ちした。真っ裸でベッドに入るのは初めてなので、若林は背中や臀部にシーツの感触があるのを、ちょっと不思議に感じた。シュナイダーは恋人の身体に覆い被さり、若林の顔に何度もキスを繰り返す。
 「若林、好き・・・」
キスの合間にシュナイダーが甘い声で囁きかける。シュナイダーの声を聞くだけで、若林の身体は芯から火照り出す。
 シュナイダーが若林の耳朶から首筋にかけて、舌先でなぞった。若林はピクリと身体を震わせ、下唇を噛む。セックスの時に声をあげないようにする癖がついているのだ。若林がいつものように唇を強く噛んでいるのに気付き、シュナイダーが声を掛ける。
 「今日は声出していいんだぜ」
 「・・・あ、そうか・・・」
若林が照れたような笑顔を見せた。人目を憚りながらの忙しないセックスばかりしてきたので、若林がこんな風に笑顔を見せてくれるのが新鮮で、シュナイダーの胸がときめく。
 「若林、こういうのは?」
シュナイダーが唇を更に滑らせて、若林の乳首を甘噛みする。それが妙にくすぐったくて、若林は屈託ない笑い声をあげる。
 「何やってんだよ〜。おまえ、オッパイ好きなのかぁ? 真っ平らでつまんねーだろ?」
 「オッパイじゃなくて、若林の胸が好き」
 「ばっかじゃねーの」
セックスの時にこんな軽口を叩けるのも初めての事だ。文句は言うものの本気で嫌がってるようではないので、シュナイダーは更に乳首を弄ぶ。
 舌先でつついたり、転がしたり、ちゅうちゅう吸ってみたり。胸ばかりを可愛がってると、徐々に笑い声が静まってきて、終いには若林がか細い声で懇願した。
 「も・・・もうやめろよ・・・コレ、変だよ・・・」
 「変じゃなくて、感じてるんだよ」
シュナイダーは一旦唇を胸から離し、同時に若林の下半身をまさぐった。
 中心にある肉の棒が固くなり始めているのが、指先にしっかりと伝わった。急に敏感な部分を握られて、若林が呻く。
 「あ・・・おまえ、どこ触って・・・」
 「ほら、触ってなかったのにちょっと勃ちかけてる」
 「マジ・・・?」
若林は首だけ起こすと、自分の状態を確認するように目線を向けた。だがその時にはもう、シュナイダーのしなやかな指が、若林自身を激しく擦りあげていた。突然の刺激に、若林が堪らず声を漏らす。
 「あっ・・・あんっ・・・シュナ・・・」
 「いいよ。もっと声出して」
手の中で確実に成長を遂げているペニスをいとおしげに撫で擦りながら、シュナイダーは若林の顔を覗きこむ。
 「いつも時間が無くて出来なかったけど、こうやってじっくり可愛がってあげたかったんだ。痛い思いだけじゃなく、若林に気持ちよくなってもらって、若林のいい声が聞きたい・・・」
 「あ・・・あ、はぁっ・・・はぁん・・・・」
ペニスに指を絡めたまま、再びシュナイダーが若林の胸元に顔を伏せる。固く尖り出した乳首を少しきつく噛まれた時、若林のペニスから透明な汁が漏れ出した。
 若林にはもう自分を抑える事が出来なかった。
 「シュナ・・・イダー・・・俺、もう・・・もう・・・!」
すっかり形を変えた男根が、シュナイダーの手の中でピクッと震えた。シュナイダーが手の位置を変えて先端を握りこむようにすると、その直後に熱い精液が溢れ出し掌を満たした。
 シュナイダーは上半身を起こすと、果てたばかりの若林を見下ろした。両腕を身体の脇に力なく放り出し、脚を大きく開いている。シュナイダーは若林の顔に注目した。頬が紅潮し、薄く開いた目元には涙がにじんでいる。
 セックスの時の若林は、痛みをこらえるあまり眉を寄せ、いつも辛そうな顔をしていた。だけど今は表情が緩みきっていて、それが例えようもなく色っぽい。
 (かわいい・・・若林、なんてかわいいんだろう・・・)
 「シュナイダー・・・おれ、ちょっとヤバイかも・・・」
若林が定まらぬ視線のまま、小声で言った。
 「ヤバイ?」
可愛がったつもりが、何か不愉快な思いをさせていただろうかと、シュナイダーは焦る。だがそれは杞憂だった。
 「・・・今の、すげー気持ちよかった」
 「本当に!?」
 「マジだって。コレ、クセになるかも・・・」
そう言いながら、若林はのろのろと左手を自分の乳首に、右手をペニスへと持っていった。その様子を見て、シュナイダーは慌てて若林の両手首を掴む。
 「俺がいるんだから、一人でやるなよ。それに今度はこっちだろう」
シュナイダーは若林の身体をうつ伏せにすると、精液でぬるぬるに濡れている指を、若林の尻の穴にぷちゅっと突っ込んだ。途端に若林の全身に緊張が走り、筋肉がピクッと張りつめるのが判った。
 「うっ・・・」
 「今日は痛くないように、ちゃんと慣らしてあげるから」
指を挿れ易いように、若林に少しばかり尻を浮かさせると、シュナイダーはゆっくりと指を動かし始めた。
 「痛かったら言えよ」
そう言って、シュナイダーは緩慢なリズムで指の抜き差しをする。指を包み込む肉の感触が少しずつ柔らかみを増していくのを確かめながら、一本ずつ挿入する指の本数を増やしていく。
 「は・・・はぁ・・・」
若林の咽喉からは、ペニスを可愛がった時の様ないい声は出なかった。押し殺したような息遣いが聞こえるだけだ。だが指の本数が増えていっても、若林が痛みを訴えることは無かった。
 とうとう四本目の指が、中に入り込んだ。
 今までよりもっと穴を押し広げられる感覚に、若林は一瞬息を止めた。そしてそれが奥深くまで入り込んでくる感触は、若林に痛みではない何かをもたらしていた。
 (なんだ、これ・・・ゾクゾクする・・・)
だがそう思ったのは束の間、束ねるように重ね合わせた指はすぐに入口の方へと抜けかけていく。若林が叫んだ。
 「あっ、シュナイダー・・・」
 「よくなかったか?」
シュナイダーはすぐに指を引き抜いた。しかし若林の口からは意外な言葉が出た。
 「ちがう・・・もっと、奥に・・・欲しい・・・」
シュナイダーの身体を興奮が駆け巡る。若林からねだってきたのは、今が初めてだった。
 「・・・奥に、欲しいんだな」
シュナイダーは小さく口を開いた若林のアナルを見つめながら、自分のペニスを力強く擦りあげた。若林への愛撫を続けているうちに半勃ちになっていた肉棒は、すぐに大きく反り返って禍々しい勇姿を現した。
 シュナイダーは若林の尻を両手で掴み、穴を広げるようにしてから亀頭を押し込んだ。
 めり、と熱い肉壁の中に先端が埋め込まれる。
 「どうだ、辛くないか?」
いつもは若林に痛みがあるのを承知の上で、我慢しろとだけ言って一方的に突き上げていた。誰かに見つかるかもしれない所でやってるせいで、相手を気遣う余裕が無かったのである。せめて今日くらいは、若林に辛い思いをさせたくない。
 「い・・・痛くない・・・早く、奥に・・・」
犬のように手足をベッドについた若林が、シュナイダーを振り仰ぎすがるように言った。どうやら丹念な愛撫が功を奏したらしい。シュナイダーは遠慮なく、腰を突き出しじわじわと若林の中を責めた。
 「あっ、あぁ・・・シュナ・・・」
何度も味わった、腸壁を押し広げられ、圧迫される苦しみ。だが今日は、その苦しみを凌駕する新しい感覚が芽生えつつあった。
 「もっと、もっと・・・」
そうねだりながら、若林は無意識に自ら腰を振っていた。若林が積極的なのが嬉しくて、自然とシュナイダーの動きも激しくなる。若林の腰をしっかと押さえつけ、若林の望み通り奥の奥まで突き進んだ。指では届かなかった箇所を荒々しく掻き回され、若林は快楽の波に呑み込まれていた。
 シュナイダーを深く捉えようと腰を揺すり、それだけでは足りなくて自慰を始めている。
 「あっ・・・いいっ、すごい気持ちいいっ・・・!」
若林の声はシュナイダーをますます興奮させる。若林の中はいつも気持ちいいが、今日は若林もよがっているせいか、また格別の締り具合だ。
 「俺も、すげぇ、イイ・・・若林、もっと言って」
 「いいっ、シュナイダー・・・シュナ・・・」
感じている若林の顔が見えないのが勿体無くて、シュナイダーは途中で体位を変えた。若林を仰向かせて高々と両脚を掲げさせると、丸見えになったその中心部に再挿入する。
 「あぁーっ!!」
若林が身体を仰け反らせるようにして射精した。恋人が目の前で精を吹き上げるさまを見て、シュナイダーのペニスも噴出してしまった。
 シュナイダーが張りを失ったペニスを引き抜くと、若林のアナルから大量の白濁した汁がとろとろと流れ出し、シーツに染みを作った。

 深い悦楽を共有したあと、二人はどちらからともなく腕を伸ばし、恋人の身体をひしと抱きしめていた。
 「シュナイダー・・・俺、今のは全然痛くなかった」
シュナイダーの胸に頬を寄せるようにして、若林が呟く。
 「ちょっとは痛かったけど、でもいつもと全然違ってた。滅茶苦茶気持ちよくって・・・なんていうか・・・あの・・・」
セックスの痛みによって、毎回呼び覚まされていた罪悪感。それが全く起きなかった。シュナイダーにそれを告げると、シュナイダーがニッコリ笑った。
 「だからさっきから言ってるだろう。俺たちの関係は何も間違っちゃいない。好きな相手と愛し合う、当たり前の事をしているだけなんだ。性別や年齢は関係ない」
 そして若林の顔を自分の方に向かせ、冗談めかした口調で言う。
 「適齢期になってから異性の恋人を作るのが『いい子』の条件なら、俺は『悪い子』でよかったと思うよ。もし俺が『いい子』だったら、若林と愛し合う事はなかったんだから」
 「うん、そうだな・・・」
若林がシュナイダーの瞳を見つめながら頷く。
 「俺も『悪い子』でよかった。心からそう思う」
ふと見上の話していた、悪い子には罰が与えられるという話が頭をよぎる。
 (いつか俺には罰が当たるのかもな。でも・・・どんな罰でも、シュナイダーが一緒なら・・・)
 「どうした、若林? なんで笑ってるんだ?」
 「なんでもない」
そう言うと若林は、不思議に思ったシュナイダーが何か言いかけるのを、キスで遮ってしまった。
 悪いこどもたちの火遊びは、夜通し続きそうな気配だった。
おわり


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