11月某日。夕餉の卓で妹のマリーが何気ない口調で兄に尋ねた。
「ねぇ、今年はゲンゾーの誕生日どうするの?」
突然思わぬことを聞かれて、シュナイダーは口に入れていたザウアークラウトを吹き出しそうになった。慌ててビールを口に運び、咽喉に流し込むようにして息をつく。
「お兄ちゃん、何を慌ててるのよ。もしかしてゲンゾーの誕生日、忘れてた?」
「え? ・・・ああ。忘れてた」
本当は忘れてなどいない。大事な恋人の誕生日なのだ。しかし若林の強い意向で、二人の交際を周りには伏せている為、妹の前でも用心してとぼけて見せたのである。それにしても何故マリーは急に、若林の誕生日の事など言い出したのだろう?
「駄目ねぇ。ゲンゾーの誕生日は12月7日よ。ずっと前にお祝いしたじゃない」
シュナイダーの言葉を信じたマリーが、笑いながら言った。
若林がシュナイダーと同じチームにいたハンブルクJr.ユース時代、家族と離れ離れになっている若林を気遣って、シュナイダーの家で若林の誕生パーティーを開いた事があった。マリーも母も若林を気に入り、当時は家族ぐるみで若林と親しく付き合っていた。
その後シュナイダーはハンブルクを離れBミュンヘンに移籍、シュナイダーの父もBミュンヘンの監督を務めることになって、一家はミュンヘン市内に引っ越した。そのためマリーたちと、ハンブルクに留まった若林とは自然と疎遠になっていた。サッカーを通じて接触の続いていたシュナイダーだけは、親交を通り越し今では恋人としてのお付き合いを続けているが。
「そういえば、そんな事もあったな」
「もう〜、今年からゲンゾーとお兄ちゃんは同じチームでしょ? 何か聞いてないの?」
「聞いてない」
シュナイダーはわざと興味なさそうに答えた。
マリーの言うとおり、若林は今期からBミュンヘンに移籍し、再びシュナイダーのチームメートになっている。しかし試合や練習の時の若林は、雑談をほとんどしない。サッカーを抜きにして恋人として二人で会っている時にも、若林が来月に迫る自分の誕生日について語ることはなかった。今度のデートでシュナイダーの方から、そろそろ予定を聞きだそうと思っていたところだ。
「ゲンゾーは一人暮らしでしょ? 大勢お友達を呼んで、賑やかにお祝いするんじゃない?」
「いや、多分あいつはそういう事はしないな」
「それなら子供のときみたいに、うちにゲンゾーを招いてパーティーをしましょうよ」
「うちで?」
それもいいか、とシュナイダーは思った。今は二人の関係を隠しているが、いつかは家族に恋人として若林を紹介したいと思っていた。その時の為の布石になるかもしれない。
「いいわねぇ。私も久し振りにゲンゾーに会いたいわ」
子供たちの話に耳を傾けていた母親が、嬉しそうに言った。
「それじゃ今度、若林に都合を聞いてみるよ」
シュナイダーがそう請け負うと、マリーと母親は、もうパーティーが決定したかのように喜ぶのだった。
「こういう訳なんだ。だから今年は俺の家にこないか?」
家族の間で若林の誕生日が話題になった数日後、シュナイダーは若林の家を訪ねた折に聞いてみた。しかし若林の反応はつれない。
「嬉しい話だけど、わざわざ俺の為にパーティーを開かなくても・・・」
「マリーも母も、久し振りに若林に会いたいのさ。好きでやるんだから、大変だとか負担だとかは思ってないよ」
「俺も会いたいけど・・・」
「けど?」
若林の歯切れの悪さに、シュナイダーが聞き返す。
「・・・バレないかな。俺たちのこと」
「あぁ、それが気になるのか」
日頃から言動に気をつけているのは判っているが、仲のいい家族の前に恋人を連れて行くのだから、気の緩みが出ないとは言い切れない。勘のいい女性陣には、それと察せられてしまうのではないか・・・
若林はそう言って、暗にシュナイダーの申し出を断ってきた。シュナイダーとこういう関係になってしまってからも、若林は「男同士で恋愛はおかしい」という観念を捨てきれないようで、徹底的に二人の関係を隠そうとする。いつもの事なので、シュナイダーも慣れっこだ。
そして、二人の関係が露見するのが困る、という事だけが若林がパーティーを嫌がる理由ではなかった。若林が力説する。
「大体、誕生日なんて、特に目出度いとも思わない。祝う必要は無い」
「そうかなぁ」
「年なんて誰だって取るんだから、わざわざ祝うことじゃないよ」
幼い子供の成長を親が祝うとか、長寿を祝うとか、そういう場合は別だが、自分たちの年代では特に目出度いと祝う事ではないと思っているのだ。
「よし。じゃあ適当に理由をつけて、うちでのパーティーは断るよ。でも、俺だけならここに来てお祝いしてもいいだろう?」
「お祝いとか大袈裟な事言うなよ」
「でも、俺は祝いたいんだ。だから7日は空けておいてくれ」
「・・・わかったよ」
絶対に祝わないと主義を通しているわけでもない。そこまで言ってくれるのなら、ありがたく好意に甘えよう。若林はシュナイダーの申し出を受けた。
時間は流れ、12月7日当日を迎えた。約束の時間丁度に家に来たシュナイダーを出迎え、若林は目を丸くする。シュナイダーは自慢の愛車でやって来たのだが、そのトランクから中身の詰まった大きな容器を次々と取り出したのだ。その数の多さに若林が驚く。
「そんなに沢山、何を持って来たんだ?」
「それが・・・」
シュナイダーは、若林を家に招く気でいるマリーに、何と言って断ったらいいのかを考えていた。それにシュナイダーは若林の家に行き、泊りがけで誕生日を祝うつもりなので、その点もフォローしなければいけない。
そこで「誕生日には仲のいい男友達が若林の家に集まって、朝まで飲み明かすことになった」と説明した。だがこの言い方で、つまみも碌に無い粗野な飲み会を連想されてしまったらしい。それなら向こうで皆で食べてくれと、マリーと母が料理やらケーキやらを作って持たせてくれたのだという。マリーからは料理のほかに、誕生日のプレゼントの包みも託されていた。話を聞いて若林が申し訳無さそうに言う。
「却って悪いことをしたな」
「二人とも、こうやって世話を焼くのが好きなんだ。気にするな」
若林に気を使わせないように、シュナイダーが笑っていなした。
「へぇ〜、美味しそうだな。それにしても、すごい量だ」
容器から料理を取り出し、皿に並べながら、若林が言った。
「若林は人気者だから、友達も大勢来ると思ったんだろう」
「そんなに作らなくていいと、一言言ってくれれば良かったのに」
「言っていいのか? 『招かれているのは若林と深いお付き合いをしている友人一人だけだ』って」
シュナイダーがからかうように言う。
「それは・・・言ったらまずいな」
手を休めずに食卓を整えながら、若林が苦笑いを浮かべた。
シュナイダーが持って来た料理と若林が用意していたワインとで、二人きりの晩餐が始まった。こういう経緯だったので、話題はもっぱらシュナイダーの家族の近況報告になってしまった。会話が弾み、料理も酒もすすんだ。もっとも料理の方は数人分を想定して作られていたので、かなり余ってしまったのだが。
食事が済み、シュナイダーに促されて若林がプレゼントの包みを開ける。先にマリーがくれたものを見てみると、それはマリーのお手製と思しき人形だった。ちょこんとキャップを被り、BミュンヘンのGKユニを着ている。シュナイダーが説明する。
「若林のつもりらしいぜ。ユニフォームのロゴを刺繍するのが、細かくて苦労してたみたいだ」
「よく出来てるなぁ。手作りなんて嬉しいよ。マリーちゃんに礼を言わなきゃな」
若林は人形をソファの肘掛けにもたれさせるように置いた。それからシュナイダーがくれたプレゼントを開ける。中身はセーターで、よく見れば今日シュナイダーが着てきたものと同じデザインだった。その事に気付き、若林は笑う。
「おまえとペアルックかよ。こりゃ外には着ていけないな。部屋着決定だ」
「服ぐらいお揃いだっておかしくないだろう。試合のときなんか、お前以外全員お揃いだぞ」
「バカ言ってんじゃねぇよ!」
酒で気分が高揚しているのか、つまらない冗談に若林が機嫌よく笑った。
離れて座っていたシュナイダーが、急に身体を若林の方に乗り出した。
そして若林の顔を自分の方に向かせて、やわらかなキスをする。笑っていた若林はすぐに大人しくなり、自らもシュナイダーに身体を寄せた。
「若林、誕生日おめでとう」
シュナイダーはそう囁くと、若林の身体をソファにきつく押し付けるようにして、更に深いキスをする。歯列をこじ開けるようにして舌を這いこませ、若林の舌を捉えて逃がさない。
若林も抗いはせず、大人しくディープキスに応じている。
(付き合い始めた当初は、頬へのキスすら許して貰えなかったっけ・・・)
当時の事を思い出し、シュナイダーは今の幸せを噛み締める。
告白した時には冗談だと思われて笑い飛ばされた。
信じてもらえた時には、「そんな趣味は無い」とキッパリ断られた。
それでも諦めずに口説き続け、漸く付き合って貰える事になった時は、もう死んでもいい!と思うくらいに嬉しかった。
その後も色々あって、ここまでくるのは並大抵ではなかったけれど・・・
今では若林は俺のれっきとした恋人だ。
大好きだ。
絶対に離さない。
「おい、痛ぇよ」
抱しめる腕に力を入れ過ぎたらしく、若林が文句を言った。シュナイダーはすぐに力を緩め、若林に詫びる。
「ごめん。嬉しくって、つい」
「何が嬉しいんだ?」
「・・・・・・若林が、ここにいることが」
シュナイダーの答に、若林が頷く。
「そういえば不思議だよな。俺たち生まれた国も違うし、普通だったら会うことすら無い筈なのに、今はこうして一緒に過ごしてる。・・・これって、サッカーのお陰か?」
若林がドイツに来たのは、サッカー留学の為。本場ヨーロッパでサッカーを学ぶ為に、シュナイダーの在籍していたチームに編入したのがそもそもの出会いだ。
「どちらかがサッカーやってなかったら、俺たちが出会うことはなかったな」
「・・・そうだな」
「出会っただけでなく、シュナイダーが俺の事を好きになって、それで付き合うようになって・・・」
「ああ。でも俺が言いたいのは、その事じゃない」
シュナイダーが若林の言葉を遮った。何を言うつもりなのかと興味を引かれ、若林はシュナイダーの顔を見る。
「・・・若林が、若林源三という人間がこの世に生まれてなかったら、俺が若林に会うことも、恋することもなかった。こうして二人で過ごすこともなかった」
大仰な言い方に、若林は照れたように混ぜっ返す。
「そりゃそうだ。そんなの当たり前だろ」
「当たり前かもしれないけど、素晴しいことじゃないか。俺は今日、この日を心から祝いたい。若林という人間を、この世に生み落としてくれた神に感謝したい」
俺を産んだのは神じゃなくて俺の親だ、と茶々を入れようとして、若林は口をつぐむ。シュナイダーの表情が本当に幸せそうで、からかうのが悪いような気がしたのだ。
(でも別に、シュナイダーの為に生まれてきたわけじゃ・・・・・・)
そう思いかけ、ふと若林は考え直す。
シュナイダー以外に、自分をこれほどまでに愛してくれる相手に会ったことはない。
もしかして、俺がここにいるのは神とやらに定められたことだったのだろうか。
俺はシュナイダーと結ばれる為に、生まれてきたのだろうか・・・。
「若林」
シュナイダーの腕が、若林の肩を抱き直す。
「ありがとう。生まれてきてくれて」
何と答えていいのか判らず、若林はただ曖昧に頷いた。若林が照れていると思ったのか、シュナイダーは若林の身体を慈しむように優しく抱しめてくれた。
シュナイダーに身体を預けていると、心から安心できる。以前は恥ずかしいような、照れ臭いような感じがあったが、恋人として肌を重ねるようになってからは安らぎだけを感じられるようになった。
「シュナイダー・・・」
若林はシュナイダーの顔を見た。青い涼しげな瞳の中に、深い愛情が湛えられているのが判る。
俺はこの男に愛されている。
そう思うと、若林の胸に幸福感が湧き上がる。
「俺、生まれてきてよかった。そんで・・・シュナイダーに会えてよかった・・・」
若林の素直な愛情表現を聞き、シュナイダーが喜びに満ちた笑みを浮かべる。
自然と二人は顔を近づけ、長い長い接吻を交わした。
シュナイダーは先にシャワーを済ませ、ベッドで若林を待っていた。一緒にシャワーを浴びて、若林のあんなところやこんなところを洗ってやりたいといつも思うのだが、若林にはそうした行為がとてつもなく恥ずかしく思えるらしい。シュナイダーには先にシャワーを浴びさせて、自分は後から浴室に鍵を掛けた上でゆっくり身体を洗うのが常だった。
それにしても、今日は特に時間を掛けているようだ。ベッドで一人待たされて、シュナイダーは退屈する。
「そうだ。もう一人若林がいたな」
シュナイダーはベッドを抜け出して居間に行くと、若林がソファに置いた人形を持ち出した。そして人形を若林が寝るべきスペースに寝かせて、素知らぬ顔で若林を待つ。
程なくしてバスローブを羽織った若林が寝室に姿を見せた。すぐにベッドに寝ている人形に気付き、苦笑いを浮かべる。
「なにやってんだよ?」
「若林がいなくて寂しいから、代役を持って来た」
そう言って人形を抱き上げ、これ見よがしにキスして見せる。すぐに若林の腕が伸び、人形を取り上げた。
「よせよ。冗談でも、なんか感じ悪い」
「こいつに嫉妬した?」
人形を指差しながら、シュナイダーがからかう。
「そうじゃなくて・・・なんか、マリーちゃんに見られてるみたいで後ろめたい」
若林はそう言って、人形をクローゼットの中に仕舞いこんだ。
「人形にも、見られたくないって訳か。本当に隠したがり屋だな」
「なんとでも言え」
若林が部屋の明かりを消した。シュナイダーの視界が闇に閉ざされる。しかし目が見えなくても耳は聞こえる。
若林がベッドへ近づいてくる足音。
足音はベッド傍で止まり、続いてかすかな衣擦れの音がする。若林がバスローブを脱いでいるのだ。
そして小さくスプリングがきしみ、僅かにベッドが揺れる。
自分の隣に若林が身体を横たえているのが、気配でわかる。
シュナイダーは身体をすり寄せ、若林の身体を抱しめる。湯を浴びたばかりの熱を持った肌。筋肉が引き締った、その手触りは滑らかで心地良い。髪は乾ききっておらず、シャンプーの匂いがする。髪だけでなく、身体全体から清潔な石鹸の香りがした。
(俺のために、磨き上げてくれたんだ)
若林の首から背筋、腰骨から臀部へとシュナイダーの手が滑り落ちていく。ベッドで待たされたせいか、いつものように若林をじっくり可愛がってやる余裕が無くて、性急な手つきで尻の谷間に指を這いこませる。
くちゅ。
湿った音をたてて、思いの外スムーズに指が穴の中へと入り込んだ。
シュナイダーは驚いた。ここは固く窄まっていて、前戯で丹念に解してやらなければ指先すら入らない筈なのに。この柔らかさはどうしたことだろう?
指を動かすと、動きにあわせながら若林が気持ち良さそうに息を吐く。シュナイダーが慣らしてやるまでも無く、すっかり身体が出来上がっている。
「若林・・・おまえ、さっき風呂場で何やってたんだ?」
「え・・・・・・・」
指を根元まで入れてぐりぐり掻き回してやると、若林が息を弾ませながら答えた。
「別に、何も・・・あっ・・・ただ、ちゃんときれいにしておこうと、思って・・・丁寧に、あらった、だけ・・・・・・んんっ!」
「丁寧に洗っただけ?」
シュナイダーは可笑しくなった。多分若林は「丁寧に洗う」つもりでやり過ぎてしまい、結果として一人でしてしまったのだろう。道理で時間が掛ったわけだ。
「初心だと思ってたら、誕生日を迎えた途端に、随分オトナになったもんだな」
シュナイダーは指を抜いた。そして身体をずらし、顔を若林の尻に近づけると、さっきまで指を飲み込んでいた穴に舌を這わせた。
「うあっ!?」
熱くうねる舌の感触に、若林が驚く。そして起き上がろうとしたが、若林の尻はシュナイダーの両手で強く押さえ込まれていて、体勢を変えられない。
「なにしてんだっ? あ・・・やめろ、き・・・気持ちわるい・・・」
若林は抗議の声をあげたが、言葉の内容とは裏腹に感じてしまっているのが息遣いではっきり判る。若林が本気で嫌がっていないと見て、シュナイダーはぺちゃぺちゃと音をたてながら舐め回す。
前からこうしてみたいと思っていたが、恐らく若林が嫌がるだろうと思い躊躇していた。だがいざ実行してみると、若林の反応は決して悪くない。恥じらい拒絶しているようで、その実身体は新しい刺激に悦んでいる。
若林の恥部を文字通りさんざん味わってから、シュナイダーはようやく顔を離した。ぞくぞくするようないやらしい感触から開放されて、若林が顔を紅くしながら文句を言う。
「何考えてんだ・・・あんな汚い所、よく舐められるな?」
「汚くはないさ。『丁寧に洗って』あるんだろ? それに・・・」
シュナイダーの手が若林の股間に伸びる。首をもたげ固くなりかけているそれを握られて、若林が小さく呻く。
「若林だって、気持ちよかっただろう?」
隠す事も誤魔化す事も出来ず、若林はただ黙って頷く。ちょっと擦ってみると棹は更に固くなり、先端からは汁が溢れ出した。
「おい、まだイくなよ。これからがいいところなんだから」
仰向けになった若林に脚を大きく広げさせると、シュナイダーは唾液に濡れたアナルへ自分の一物をあてがった。
ずぷっと亀頭を捻じ込むと、若林の腿がビクリと引き攣るように動いた。ずりずりと焦らすようにゆっくりと挿入すると、若林が苦しげに呻く。
「うっ、ん・・・・・・」
じっくり慣らされているとはいえ、若林の中はかなり狭い。指よりはるかに太いモノを挿れられ、無理矢理に広げられて苦しくない訳が無い。
「大丈夫か?」
シュナイダーが声を掛けると、若林が首を縦に振るのが闇の中でうっすらと見て取れた。
「動くぞ」
シュナイダーは若林の両脚を脇に抱え込み、前後に腰を揺さぶった。
「あっ・・・!」
若林が一声叫び、シュナイダーをきつく締め付けた。もしやと思いシュナイダーは腰を揺すりながら、若林のペニスに手を伸ばす。最前まで逞しく勃ち上がっていたそれは、今はうなだれ汁にまみれていた。まだそれほど激しく動いていないのに、どうやら若林は先に達してしまったようだ。
「若林、後ろに挿れられただけでイっちまったのか?」
「あ・・・だって・・・んん・・・」
シュナイダーはまだまだ果てる気配が無く、力強く抽送を繰り返している。若林は突かれる度に、切なげな息を漏らしていた。達した直後でも、アナルからの刺激は快感になって伝わっているらしい。
「仕方ないな。いつから、そんなに早くなった?」
「な、何を・・・あぅ・・・あっ、あぁ!」
精液の飛び散った若林の腹を撫で回してしたシュナイダーの手が、再び若林自身を握りこんだ。そのまま上下に勢いよく扱かれて、若林は身体を捩って身悶える。シュナイダーの手の中で、若林はもう一度勃ちあがりつつあった。
「今度は、先にイくな」
若林を完全に勃起させると、シュナイダーは自らの腰を叩きつけるようにして、激しく若林の中を突き上げた。
長大なペニスを根元まですっぽり呑み込まされ、若林の目に涙が浮かぶ。
「シュナッ、お、おれ・・・もう、もうっ・・・!」
「待て、若林っ・・・俺も、もう・・・すこし・・・」
唾液にべっとり濡れた熱い肉の壁にきゅうきゅうと締め上げられ、さすがのシュナイダーも限界が近づいていた。シュナイダーは若林の上に覆い被さり、上体を倒れこませるようにして、早く激しく腰を振る。
シーツに爪を立てるようにしていた若林が、急にシュナイダーの顔を引き寄せた。
身体を激しく揺すられているため、顔がぶつかるようになりながらも、若林はシュナイダーの唇に自分の唇を重ね合わせる。
唇が触れ合った瞬間。
シュナイダーの腹に挟まれるようになって勃起していた若林のペニスから、白い精液が迸った。
ほぼ同時にシュナイダーも達しており、若林の中を熱い汁で満たしていた。
「若林、起きて」
シュナイダーに呼び掛けられ、深い眠りに落ちていた若林はハッと目を覚ます。寝室には明るい陽が差し込んでおり、すでに朝になっていた。
「嘘・・・俺、寝過ごした?」
自己管理が徹底しており早起きが習慣化しているため、若林は情事の翌朝でも必ずシュナイダーより早く目覚めていた。当然今朝も早く起きて、いつも通りシュナイダーが起きる前に朝食の支度を済ませておくつもりだったのだが・・・
室内に漂うコーヒーの香りに気付きサイドテーブルを見ると、そこにはトレイに乗せられた二人分の朝食が既に用意されていた。若林は、ガウンを着てベッドの端に座っているシュナイダーに詫びた。
「悪い。客に朝飯の支度なんかさせて」
「気にするな。今回は若林の誕生祝のために来たんだからな。若林はそのままゆっくり休んでてくれ」
「それで食事をここに持って来たのか」
若林が朝食を作る時は、毎回きちんとダイニングに用意している。寝室でベッドに入ったまま朝食というスタイルは、けじめがつかないというか怠惰な感じがして、若林は正直好きではない。しかし折角のシュナイダーの心配りなので、今日だけは好意に甘えることにした。
「じゃ、早速コーヒーでも貰おうか」
しかしシュナイダーは若林にコーヒーやトレイを渡そうとしない。どうしたのかと問うと、シュナイダーは頭を掻きながら説明を始めた。
「あのさ・・・さっきまでは、二人一緒にベッドで朝食をとりたいと思ってたんだけど・・・」
シュナイダーの視線は、ベッドから上半身を起こした若林に注がれている。昨夜愛し合った時のままの全裸、その肌にはあちこちにキスマークが浮かび、情事の余韻を色濃く漂わせている。
「・・・俺、朝飯より、若林が食べたくなった」
「・・・・・・・・・・・・しょうがねぇなぁ」
幾分呆れた様子ではあるが拒んではいないと見て、シュナイダーはガウンを脱ぎ捨てベッドに舞い戻った。若林の顔にキスを繰り返しながら、シュナイダーが呟く。
「実はちょっと意外・・・てっきり若林に怒鳴られると思ってた」
シュナイダーの言葉に若林も頷く。いつもの自分なら、朝っぱらから起き抜けにセックスをしようなどとは絶対に思わない。だけど何故か今日はシュナイダーの言うがままに振舞ってみたくなったのだ。
自分が本当にシュナイダーと出会い結ばれる為に、この世に生を受けたのだとしたら
その最愛の人が望むことを何でも叶えてあげたい
そんな気持ちになっていた。だがこの想いを正直に打ち明けるには、朝陽が眩しすぎてどうにも照れ臭かった。なので若林は冗談めかして、こう答えた。
「たまにはいいだろう? 俺は1歳オトナになったんだから」