若林が部屋から出て行くのを見送ったシュナイダーは、ひとまずベッドに腰を下ろした。恋人の家に来てお預けを食わされるのは、今日が初めてだ。しかしシュナイダーの顔には、セックスを拒絶された事に対する落胆の色は見えない。
 「今夜は聖夜。今日は特別・・・」
さっき言った言葉を口の中で繰り返しながら、シュナイダーは意味ありげな笑みを浮かべた。そして顔から付けヒゲを外し、身にまとったサンタのコスチュームを脱ぎ始める。脱いだ服をベッドに置きながら、シュナイダーは独り言を呟く。
 「サンタクロースっていうのは、夜中子供が寝ている間にプレゼントを届けに来るんだよな。ちゃんと判ってるぜ、若林・・・」
 シュナイダーは若林に言われた台詞を、言葉通りには受け止めていなかった。別々の部屋で寝ようというのは、サンタクロースの訪問になぞらえて夜這いを掛けて欲しい、という意味だと解釈していたのだ。
 今夜はクリスマスだから、いつもと違うやり方をしてみたい。しかし事前に段取りを打ち合わせをするのは興醒めだから、雰囲気でそれと察して欲しい・・・ シュナイダーは、今日一日の若林の振る舞いから、若林の考えをこのように推理していた。
 浮かれきった気分で身支度を整え直すと、シュナイダーは頃合を見計らって客間から出た。目指すは勿論、若林の眠る寝室だ。

 眠りが浅かったのか、自室のベッドで寝入っていた若林がふいに目を開いた。間近に人の気配を感じて、若林は暗闇の中で目を凝らす。闇の中にぼんやりと白っぽい物が浮かんで見えて、若林はそれがサンタのコスチュームについているファーだとすぐに気付いた。
 「シュナイダー? おい、今夜は・・・」
文句をつけようとする口の前に革手袋をはめた指先を押し当てられ、若林は言 葉を飲み込んだ。
 「判ってる。プレゼントを渡しに来たんだ」
 「プレゼント?」
プレゼントのパジャマなら、とっくに受け取って今も身につけているのに一体何の事かと若林は訝しむ。
 パチッ。
小さな音がして、ベッドの脇のランプが明かりを灯した。シュナイダーがスイッチを入れたようだ。黄色い光がぱぁっと辺りを照らし出し、闇に目が慣れていた若林は思わず目を細めた。明るくなると同時に若林の視界に、ぼんやりとしか見えていなかったシュナイダーの姿がはっきりと飛び込んでくる。
 目を細めていた若林は、驚きの余り目を見開いた。
 「! シュナイダー、その格好・・・」
暗闇の中では細部が見えず、サンタの衣装を着ているように見えていた。いや、確かにサンタの衣装は着ているのだが、そのコスチュームは不完全だった。
 付けヒゲは外しているが、帽子に手袋、革ブーツは先刻と同じように身につけている。しかし前を閉めずに羽織るように着ている赤コートの下からは、色白の素肌が覗いていた。肌が見えるという事は、即ち服を着ていないという事だ。セーターやシャツはもちろん、コートとお揃いの赤いズボンや下着も履いていない。
 つまりシュナイダーは帽子などを別にすると、全裸の上に赤いコートを羽織っただけの痴漢スタイルだったのだ。
 「気に入った? 若林専用サンタクロースの正装だ」
 「・・・シュナイダー、変態みたいだぞ」
 「お前を抱けると思えば、誰だって変態になるさ」
変態呼ばわりをされて気分が萎えるという事もなく、むしろ嬉しそうにシュナイダーは言い返す。白いファーに縁取られたコートの合わせ目からは、半勃ちになった一物が先端を覗かせていた。早くもあの状態では、やらないことには収まりがつくまい。計画が上手くいったと思ったのは、どうやら早とちりだったようだ。
 若林は観念した。身体を起こしてベッドの上に座り込むと、自らパジャマのボタンに手を掛けて服を脱ぎ始める。するとシュナイダーの腕が伸びてきて、若林の両手首を掴んでしまった。若林は困惑して、シュナイダーの顔を見上げる。
 「焦るなよ。服を脱ぐまで待っててくれ」
 「脱がなくていい。いや、脱がないで、そのまま着ていてくれ」
 「え?」
相手の意図が判らず、若林は呆気に取られる。シュナイダーは若林の手を握ったまま、ニッコリ笑って言った。
 「俺の贈ったパジャマだ。今夜はずっと着ていてくれ」
 「でも、着たままでやったら、シワや汚れが・・・」
恋人に贈られた品だからこそすぐに汚すのが嫌で、若林は抵抗を試みる。しかしシュナイダーは手を離してはくれなかった。そのままベッドの上に押し倒され、上から覆い被さるようにして唇を塞がれる。若林はもう何も言えなくなってしまった。
 手首を押さえられたまま幾度も唇を重ねられているうちに、段々若林の気分も高まってきたようだ。
 固くつぐんでいた唇を薄く開き、執拗に唇を嘗め回していたシュナイダーの舌を口内に受け入れた。互いの舌を絡ませるような深い口づけを続けながら、シュナイダーは若林の手首から手を離す。そして今度は若林のパジャマの下に、黒手袋をはめたままの手を掻い潜らせる。
 「ふっ・・・う・・・」
シャツの下で乳首を摘まれて、若林が呻く。革の固い感触が、素手で弄られる時よりも刺激を強くしていた。シュナイダーの手は若林の肌を滑り、胸から腹、そしてズボンをずり下げるようにしながら股座へと伸びていく。パジャマのズボンを腿の辺りまで中途半端にずり下げた格好にすると、シュナイダーは露出した若林のペニスをぎゅっと握った。身体の中で一番敏感な部分をごわごわした革布越しに掴まれて、気持ちがいいのか悪いのか若林本人にも判らない。
 シュナイダーがそのまま手を上下に動かすと、若林は腰を浮かせるようにして身悶えた。
 「あっ・・・ま、待って・・・手袋、外して・・・くれ」
 「ん? このままだと痛いか?」
シュナイダーが手を止めて、若林に尋ねる。すると若林は力なく首を振った。
 「違う・・・直に、シュナイダーに直に触ってほしいんだ・・・」
今にも涙が零れそうな潤んだ瞳で見上げられ、シュナイダーは背筋がぞくりとした。シュナイダーはすぐに若林から手を離し、じっとり濡れてきていた革手袋を外すと両方ベッドの下へ投げ捨てた。若林の望み通りに素手で彼自身を握ってやると、若林が甘い息を漏らすのが判った。
 「・・・源三くんは素直ないい子だね。もっと、して欲しい事を言ってごらん」
若林のペニスを焦らすようにゆっくりと扱きながら、シュナイダーが戯けて囁きかける。こんな時にもサンタクロースごっこかと、快感に喘ぎながらも若林は可笑しくなった。
 若林は手を差し伸ばし、目の前のコートの中で息づく逞しい肉体に手を這わせた。その指先がシュナイダーのペニスに触れると、固く反り返った肉棒をそっと握り締める。言葉を発せずとも、この積極的なアプローチが嬉しくてシュナイダーは興奮する。
 「源三くんは、これが欲しいのかい?」
息を弾ませながらコックリ頷く若林があまりにも可愛くて、シュナイダーは堪らない。シュナイダーは若林から一旦手を離すと、彼にうつ伏せの姿勢を取らせた。そして尻だけを持ち上げるような格好にさせると、中途半端にずり下げられたズボンから形のいい臀部がぷりんと丸見えになった。実に刺激的な光景だ。
 全裸で同じ姿勢をとった時よりも、こうして服の隙間から裸が覗く方が一層いやらしく見える。シュナイダーはそう感じた。
 シュナイダーはコートのポケットから潤滑液の小瓶を取り出すと、それを手に取って若林のアナルへと塗りつけ始めた。ローションに濡らされた冷たい指先にアナルを弄くられ、若林は堪らず声をあげた。
 「あっ・・・あぁ・・・」
 「可愛い声だね、源三くん・・・もっと聞かせて・・・」
シュナイダーの指先は若林の粘膜を掻き回すように、無遠慮に動き回る。前立腺を探り当てられ、中からきつく押されて、勃起した若林の先端からはとろとろと汁が漏れ始めた。気持ちいいのに、決定的な刺激が貰えなくて、若林は辛くなってきた。無意識のうちに尻を揺らし、若林は男にねだっていた。
 「あ・・・シュナ・・・焦らさないで、早くっ・・・」
 「判ってるよ。プレゼントだね」
シュナイダーは指を抜いた。そしてすっかり勃ちあがっている自分自身を、若林の入り口にぐっと押し付ける。
 「源三くんはいい子だから、たっぷりプレゼントをあげるよ・・・」
シュナイダーはそのまま腰を沈めた。狭い腸壁を押し広げるようにして、特大のプレゼントがずぷずぷと入り込む。身を裂かれる痛みと、それに付随する快感に若林が堪らず悲鳴をあげた。
 「あっ、あぁーっ!」
 「悦んで貰えた?・・・でも、プレゼントはこれだけじゃないぜ」
根元までぎっちりと若林に挿入した後で、シュナイダーは腰を大きく振り始めた。潤滑液で濡れた穴の中をにちゃにちゃと音をたてながら、長大なペニスが激しく行き来する。凄まじい官能の波が若林を襲った。
 「あっ、はぁっ・・・シュ、シュナぁ・・・っ!」
若林はきつく目をつぶり、枕に顔を伏せるようにして恋人の名を叫ぶ。彼が今、自分の中で激しく息づいているという事実が、肉体的な快楽だけでなく精神の上からも若林を煽っていた。若林は股間に手を伸ばし、己のペニスを掴むと、シュナイダーの動きに合わせるようにきつく扱き始める。途端に若林は達してしまった。皺くちゃのシーツの上に精液がぴゅぴゅっと迸る。
 エクスタシーを感じた瞬間、若林のアナルはきつく収縮していた。
 「ううっ!」
荒々しく若林を突き上げていたシュナイダーが、若林の尻肉をギュッと掴んだかと思うと身体を硬直させた。若林に締め付けられて、シュナイダーもまた達してしまったのだった。

 精を放った開放感と、大量の精を受け入れた異物感が綯い交ぜになり、若林はベッドに突っ伏したまま動けなかった。局部には痺れるような快感が残っており、寝返りを打って姿勢を変える事すら億劫だった。
 このまま眠ってしまいたい・・・若林はそう思った。だが性に対して貪欲なシュナイダーは、このまま眠らせてはくれまい。数分の後には二回目の愛撫が始まる事だろう。
 しかし、そう覚悟を決めた若林の耳に意外な言葉が聞こえてきた。
 「源三くん、プレゼントは悦んで貰えたかな? それじゃあ、また来年まで御機嫌よう!」
 何とシュナイダーはサンタクロースになりきって、この部屋から出て行ってくれるつもりらしい。今日はこれで開放してもらえるのかと、若林は顔を上げてシュナイダーを見た。ベッドを下りたシュナイダーが、こちらに向かって微笑みかけているのが判り、若林も口の端を持ち上げて笑みを返した。
 だが、すぐに部屋から出て行くのかと思いきや、シュナイダーはその場に佇んだままだった。そして羽織っていた赤いコートと帽子を脱いで全裸になると、脱いだ物を傍にあった椅子の上に置き、当然の如く若林の寝ているベッドに上がり込む。
 別れの挨拶をした直後に、部屋を出ようともせずベッドに舞い戻ってきたシュナイダーに、若林は不審そうな目を向ける。
 「おまえ、さっき『来年まで御機嫌よう!』って言ったよな?」
 「さぁ? 何の話だ?」
空っとぼけてシュナイダーがうそぶく。
 「若林専用サンタクロースが次に来るのは、来年のクリスマスだと思うけど・・・俺はサンタじゃなくて、カール・ハインツ・シュナイダーだからな」
 「・・・・・・」
ツッコミを入れるのも馬鹿馬鹿しくなって、若林は無言で枕に顔を埋めた。
おわり
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