約束
若林はハンブルク、シュナイダーはバイエルン。ほんの数ヶ月前に友人から恋人へと関係を昇華させた二人は、所属チームが違う為に遠距離恋愛を余儀なくされていた。ブンデスリーガがウィンターブレイクに突入して、これで一ヶ月の間は毎日一緒にいられるかと思いきや、そう上手く事は運ばない。それぞれのチームを代表する人気選手である二人は、試合がなくても取材やらイベントやらの予定を詰め込まれており、それに自主トレに費やす時間も加わって、結局シーズン中と変わらぬ忙しい日々を送っていた。会えない寂しさを埋めるように、二人は毎日のように電話で連絡を取り合った。そしてシュナイダーは必ずと言っていい程、Jr.ユースチームで一緒だった時の話を持ち出すのだった。 「すると今度会えるのは、俺の誕生日か。結構先だなぁ。ハンブルクにいた時が懐かしいぜ。あの頃は毎日若林に会えるのが普通だった。チームの練習が終った後も、二人だけで居残り特訓して・・・」 『うん。もっとも当時は、それが恵まれた状況だって判らなかったけどな』 電話の向うで若林が笑う。若林がシュナイダーを恋愛対象として意識し始めたのは、シュナイダーがバイエルンへ移籍してチームを去っていった後の事だ。Jr.ユース時代の若林は、シュナイダーを恋の相手とは見做していなかった。 「あの頃から付き合ってたら、毎日好きなだけ出来たのに惜しかったな〜」 前のデートで若林を抱いた時のことを思い出しながら、シュナイダーが残念そうに言う。 「俺、昨日も寝る前に一人で抜いてた。若林の顔を思い出しながら・・・」 『また? シュナイダー、発情期じゃねぇの? よく毎晩出来るな』 「人をケダモノみたいに言うな。自分だってやってるくせに」 『お、俺はそんな事はっ・・・』 「してないって言うのか? それは心外だな。若林にとって俺は、離れていても特に恋しくもならない、その程度の男だという事か」 慌てた様子の若林をからかうように、シュナイダーがわざとらしく嫌味を言う。 「若林って、結構薄情だよなぁ。俺はこんなにも、若林を愛してるっていうのに・・・」 『絡むなよ。俺は、その・・・毎日はしてないってだけで・・・』 思わず口をついて出たこの言葉に、シュナイダーが思い切り食いついた。 「やってるのか!? 若林も俺の事を思い出しながら、一人でやってるんだな!」 嬉しそうに念を押されて、若林は恥ずかしいのか急に小声になって肯定する。 『毎晩じゃないけど・・・たまに、な』 たちまちシュナイダーの脳裏に、下着を半脱ぎにしてシーツの上で一人悶える若林の姿態が思い浮かんだ。俺のいない所で俺の名を呼び、俺を求めながら一人我が身を慰めている若林・・・ 「・・・見たい!」 『え? 何を?』 「若林のオナニー」 照れもなくキッパリと言い切られて、若林は顔から火が出そうになる。 『バカか、お前は! 何でお前の見ている前で、俺がそんな事しなきゃなんないんだよ? 大体二人一緒にいるって時に、そんな真似するのは無意味だろう』 若林の反論は至極尤もだった。だがシュナイダーは引き下がらない。 「もちろん、セックスだってするさ。その前に、若林が一人でしてる所を見たいんだ。俺が見たいと言ってるんだから、無意味な行為じゃないぞ」 『おまえなぁ・・・』 見たいと言い張るシュナイダーに対し、若林はとにかく嫌だと撥ね付ける。二人の会話は平行線を辿っていたが、やがてシュナイダーがこんな提案をした。 「こうなったら、試合で決着をつけよう。ウィンターブレイク明けの初戦、バイエルンとハンブルクが当たるだろ」 『ああ。それが?』 「若林、この試合で俺達を完封してみろ。それが出来たら俺は潔く諦める。但し、一点でも入れられたら・・・」 『なるほど、言いたい事は判った』 不毛な言い争いに疲れ果てていた若林の声が、にわかに生気を帯びる。若林は今期の両チームの戦績を思い返していた。 首位のバイエルンと二位のハンブルクの勝ち点はここまで全くの互角、得失点差でゴール数が多いバイエルンが首位に立っているだけだ。二位に差をつけたいバイエルンは、直接対決での勝利に闘志を燃やしている事だろう。 そんな強敵を相手にゴールを死守し、完封する。・・・面白い、やってやろうじゃないか! 前半戦でバイエルンと対戦した時は、0-0の引き分けだった。今度も必ず完封してみせる! 『その話、乗った。俺は相手が誰だろうと、絶対にゴールはやらん』 「大した自信だな。このルールだと、若林は俺以外の奴にゴールされても負けになる訳だが、それでもいいのか?」 話をサッカーに絡めた途端、若林が乗り気になったのが判って、シュナイダーは苦笑する。若林は本当に昔と変わらない。 『構わない。もし点を取られたら、俺は何でもお前のいう事を聞く』 そう答えた若林は、ふと以前にも同じような約束をした事があるのを思い出す。あれはシュナイダーがチームメートだった、ハンブルクJr.ユース時代のハノーファー戦だったっけ。 その時はシュナイダーの為に相手チームを完封してみせるという約束で、若林は見事それを果たしていた。若林はその時のことを引き合いに出して、シュナイダーを挑発する。 『今回もあの時と同じだ。俺は絶対に完封してみせる!』 「それはどうかな。俺はハノーファーJr.ユースの連中とは違うぜ」 かくして二人は、決して他人には言えない約束を取り交わしたのだった。 そして時は流れ、ウィンターブレイクが明けて両チームが対戦する日を迎えた。何が何でも勝って二位に差をつけておきたいバイエルンは、若林の予想通り猛烈に攻めてきた。しかし若林は決してゴールを許さない。鉄壁の守護神の前には、肖もレヴィンもシュートを決められなかった。 だが、シュナイダーのゴールにかける執念は凄まじかった。僅かな隙も見逃さず、普段にも増して鋭い攻撃を仕掛けてくる。シュナイダーが放つシュート本数は他の試合の倍以上に登り、若林を苦しめた。しかし若林も一歩も引かない。際どい場面が幾度も訪れたが、若林がゴールを奪われることはなかった。激しい攻防にも関わらずスコアレスドローのまま、時間だけが過ぎていく。 試合が動いたのは、後半ロスタイムに入ってからだった。 ロスタイムも残りあと1分というギリギリのタイミングで、シュナイダーの放ったファイヤーショットが決まった。とうとう若林からゴールを奪ったのだ。シュナイダーが得点したその直後に試合終了のホイッスルが鳴り、スタジアムが大歓声に包まれる。 試合時間が残り1分を切り、もう大丈夫、守りきったと確信した、その僅かな気の緩みを突かれてしまい、若林は呆然とする。その若林の耳に、追い討ちのようにシュナイダーの声が飛び込んできた。 「若林、約束を忘れるなよ!」 そうだった。この試合にはチームの首位争い以外に、もうひとつ意味があったのだ。 試合から数日後。若林はやや緊張の面持ちで、シュナイダーの家を訪問した。 時間通りに訪ねて来た若林を、シュナイダーは笑顔で家へ招き入れる。ぎゅっと愛情のこもった抱擁をして、歓迎の気持ちを素直に表すと、若林の顔を見てしみじみと呟く。 「若林、来てくれたんだな」 「当たり前だろ。約束してたんだから」 「だからだよ。あの約束があるから、土壇場になって逃げられるかと思った」 若林をリビングに通し、くつろいでくれと言い残すと、シュナイダーはキッチンに行って二人分のコーヒーを淹れた。湯気の立つカップをトレーに乗せて部屋に戻ると、ソファに掛けていた若林がこちらに視線を向けた。若林はソファに浅く座り、背筋を伸ばして、両の拳をキチンと膝の上に置いている。くつろぐどころか、むしろ緊張しているのが丸判りで、シュナイダーは苦笑する。 「ほら、コーヒー」 「ああ、サンキュ」 カップを受け取り静かに口を付ける若林に、シュナイダーが尋ねた。 「若林。本音じゃ、今日は来たくなかっただろ?」 「いいや」 「嘘つけ」 「本当だって。まぁ、あの約束が気にならないと言えば嘘になるけど、来たくないとか逃げたいとかは思ってないぞ」 若林はコーヒーカップをテーブルに置くと、真面目な口調で言った。 「今日はお前の誕生日じゃないか。一緒にいたいに決まってるだろう?」 当たり前のように言われて、シュナイダーは胸の中がじわじわと熱くなってきた。今までも若林はシュナイダーの誕生日を祝ってくれた。だがそれは飽くまでも、友人としてのお祝いだった。こんな嬉しい事を言ってくれたのは今回が初めてだ。 「若林・・・」 「聞きたいんなら、本音を言おうか? 俺、あの試合で完封できたとしても、今日はお前の望む事なら何でもするつもりだったんだぜ」 「!?」 意外な発言にシュナイダーは驚く。電話で話した時はえらく嫌がっていたので、心の中でそんな殊勝な事を考えてくれていたとは想像もつかなかったのだ。 「シュナイダーの誕生日だもんな。それも付き合いだしてから初めて迎える誕生日だろ。だから今日だけ、特別サービス・・・っつうか・・・あー、もう何言ってんだ、俺は!」 話しているうちに恥ずかしくなってきたらしく、若林は急に言葉を切り上げてしまった。照れ隠しのつもりか、口の端を持ち上げてぎこちない笑みを作っている。そんな若林がいじらしく思えて、シュナイダーは若林の唇に軽くキスを落とした。 「ありがとう、若林。お前の心尽くしのプレゼント、今日はたっぷりと楽しませてもらうぜ」 今すぐで構わないかと聞くと若林が頷いたので、シュナイダーは若林を寝室へといざなった。 「今日は俺の望む事は何でもしてくれるんだよな。じゃ、最初はやっぱり・・・」 「アレか?」 若林が股間の前に緩く握った右手を持っていき、軽く上下に振るようにしてマスの真似事をすると、シュナイダーが嬉しそうに大きく頷いた。 「若林はベッドがいいよな。じゃ、俺はここで見てるから」 シュナイダーは若林にベッドを勧めると、自分はベッドの真横に椅子を持ってきてそれに腰掛ける。しかし若林の方はそうテキパキとは始められず、脚を広げてベッドに座ったまま居心地悪そうにシュナイダーを見る。 「そんな近くで見るのか?」 「ああ。遠くちゃ見えにくいからな」 「明かりも点けっ放しで?」 「当然だ。暗くしたら見えないじゃないか」 「・・・判ったよ。そこで見てろ。でも途中で話しかけたり、邪魔したりすんなよ」 若林は諦めたように息をつくと、ズボンのファスナーに手を掛けた。シュナイダーの方を見ないようにしながら、ゆっくりと性器を露出させる。そして棹に右手を添えると、上下に扱き始めた。 (なんで、シュナイダーに見られながらこんな事を・・・) 視線を上げるとシュナイダーの姿が見えてしまうので、若林は俯き目を閉じた。だが見られていると思うと恥ずかしくて、擦っているペニスだけでなく身体中が火がついたように熱くなる。とにかく早く終らせようと、強く擦っているうちに柔らかだったペニスが固くなり、勃ちあがってきた。 「ん・・・ふぅ・・・」 見られている事を意識しないように、若林は目を瞑ったまま自慰行為そのものに神経を集中させた。棹を扱き陰嚢を揉みしだいていると、亀頭から透明な汁が漏れ始める。垂れた汁が右手を濡らし、扱くたびにちゅくちゅくと濡れた音がした。近い。もうすぐ達けそうだ・・・でも・・・・ ・・・何か足りない・・・ 「あっ・・・あ・・・」 息を押し殺していた若林の咽喉から、とうとう声が漏れ始めた。瞬きするのも忘れ、椅子から身を乗り出して若林を見守っていたシュナイダーの耳に、この声は刺激が強過ぎた。若林が目を閉じていてこっちを見ていないのをいい事に、シュナイダーは自分も前をくつろげると勃ちかけのペニスを引っ張り出し扱き始めた。若林の手元を食い入るように見つめながら、シュナイダーも同じペースで一物を扱き続ける。 シュナイダーも始めている事には気付かず、若林は一層手を早く動かした。どうやらフィニッシュが近いらしい。だが、とろとろと先走りの液は漏れているのに、何故か射精にまでは至らない。達きそうで達けないもどかしさに、若林は息を弾ませ辛そうに眉を寄せる。 固唾を飲んで若林の痴態を見守っていたシュナイダーも、若林の異変に気付いていた。しかし話しかけるな邪魔をするなと言われているので、気になりつつもただ若林を見守る事しか出来ずにいる。 (どうしたんだ? もうとっくに達ってもおかしくないのに・・・?) ベッドに座って自慰に耽っていた若林が、急に体勢を変えた。もどかしげにズボンと下着を脱ぎ捨てると、ベッドの上で身体を丸めるような格好になる。 そしてシュナイダーの見ているその前で、若林は先走りで濡れた指先を己のアナルに突っ込んだ。指を抜き差しする度に、かすかに湿った音が漏れる。 「あっ、あぁ・・・シュナぁ・・・」 ペニスを扱いていただけの時よりも、数倍艶っぽい声が若林の咽喉から漏れた。 (若林、もしかして・・・!?) シュナイダーは気付いた。若林はペニスを刺激するだけでは達けないのだ。 「若林!」 邪魔するなと言われたのも忘れて、シュナイダーはベッドに上がりこんだ。そして目の前で揺れている尻を、穴を広げるように左右にぐいと鷲掴みにする。ずっと目を閉じていた若林が、驚いて目を見開いた。 「シュナイダー!?」 「達けないんだろう? 俺が達かせてやる」 シュナイダーはそそり勃った長大なペニスの先端を、ずぶりと若林のアナルに突き刺した。若林が自ら慣らしたそこは、ぬるっと柔らかくシュナイダーを呑み込む。そのまま奥まで貫かれて、若林の全身にしびれるような快感が走った。足りなかった物を受け入れる事が出来て、若林は満足げに息をつく。 「あぁっ・・・シュナイダー・・・」 若林は尻を突き出すようにして、自らも大きく腰を揺すった。若林が悦んでいるのが判り、シュナイダーも夢中で腰を振る。太く熱い肉塊に大きく腸壁を押し広げられ、更に前立腺を中からごりごり刺激されて、若林は堪らない。 「あっ、すご・・・い・・・シュナっ、おれ、い、達く・・・あ、あぁーっ!」 反り返っていた若林のペニスからぼたぼたと精液が滴り落ちる。だが若林が達った後も、シュナイダーは衰えを見せなかった。一旦若林の中からペニスを抜いたかと思うと、若林の身体を仰向かせ両脚を大きく広げさせて再挿入する。ペニスにねっちりと絡みつく肉襞の感触に、シュナイダーは目を細めて快感を貪る。 「若林、気持ちいい・・・お前、すげぇ、最高だっ!」 「あ・・・シュナ・・・あ、あ・・・すき・・・」 突き上げられ続けてぐったりしていた若林が、両腕をシュナイダーの方へ差し伸べた。そして彼の顔を引き寄せるようにして、自分からキスをする。 「んっ・・・ふぅん・・・」 キスの間もシュナイダーが動きを止めないので、二人は身体を揺らしながら接吻を続ける。歯がぶつかり唾液が漏れるのも構わず、若林はシュナイダーに揺さぶられながらキスを続けた。 「んんーっ・・・!」 若林の中で好き勝手に暴れまくっていたペニスが、遂に果てた。若林は体内に熱い物がじわじわ満ちてくるのを感じながら、尚もシュナイダーの唇を求めていた。 やがて放出を終えたシュナイダーが、若林の中から我が身をずるりと抜いた。その感触がまた気持ちよくて、若林は小さく声をあげる。 若林に話しかけやすいようにと、シュナイダーは自分も若林に並んでベッドに横たわった。 「若林、お前いつの間にかコッチの方がよくなってたんだな」 「・・・ああ。そうみたいだ・・・」 息を弾ませながら若林は力なく頷く。 「なんか・・・カッコわりぃな、俺。シュナイダーがいないと、一人でマスもかけないなんて・・・」 若林は顔を赤らめ溜息をつくが、シュナイダーには自分が若林に必要とされているという事実が嬉しくてたまらない。 「カッコ悪いもんか。俺だって若林がいなきゃ、何も手につかない。もしも若林と別れるような事になったら、俺は腑抜けて二度と立ち直れないだろう」 「大袈裟だな」 自分を励まそうとしてこんな話をしているのだと思い、若林は小さく笑った。 「大袈裟なもんか。俺達はそういう関係なんだよ」 シュナイダーが若林の手を優しく握り締める。すると若林が空いた手を添えて、シュナイダーの手を握り返してきた。情事の後の心地良い開放感に浸りながら、二人は愛する者と共にいられる幸せを噛み締めるのだった。 暫しの沈黙の後、シュナイダーが思い出したように口を開く。 「・・・ところで若林。今日は俺のいう事を何でも聞いてくれるんだよな?」 「ああ」 「それじゃ・・・今度は若林の事を、ちょっと縛ってみたいんだけど・・・」 「はぁっ!?」 驚きの余り若林は、素っ頓狂な声を出してしまった。 「あ、さすがにコレは駄目かな。いや、いいんだ。言ってみただけだから」 若林の機嫌を損ねたくなくて、シュナイダーは慌てて言葉を取り繕う。 「いや、シュナイダーがやりたいんならいいけど」 「いいのか!?」 「ああ。約束だし、それに・・・」 若林は一旦言葉を切ると、重ね合わせていたシュナイダーの手を強く握った。そして何を言ってくれるのかと期待に満ちた目で自分を見つめているシュナイダーと、真っ直ぐ視線を交わす。若林はシュナイダーに暖かい笑みを向けながら、はっきりと告げた。 「今日はシュナイダーの・・・俺の一番大切な人の誕生日なんだから」 おわり
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