夢オチ
12月25日の夜、若林はシュナイダーの家を訪れていた。 若林は年末年始に帰国する予定を立てている。故に今日は、今年最後のデートというわけだった。帰国といっても単なる里帰りなので、年が明ければシュナイダーにはまたすぐに会える。そう判っているのだが、若林は柄にもなくしんみりした気持ちになっていた。たった10日かそこらの別離が憂鬱で仕方がない。 そんな若林の気持ちを察したのか、シュナイダーが励ますようかのように明るく声を掛ける。 「そうだ、まだクリスマスプレゼントを渡してなかったな。今持ってくるよ」 「あ、俺も」 若林は屈み込み、テーブルの下に置いておいた大きな紙袋を取り出す。シュナイダーも別室から綺麗にラッピングされた箱を持ってきて、プレゼントの交換になった。若林がシュナイダーの為に選んだのは、フード付きのダウンジャケット。何が欲しいか希望を聞いても教えて貰えなかったので、あれこれ考えた末に決めた品である。袋を開けたシュナイダーが大喜びで早速ジャケットを羽織って見せたので、若林も嬉しくなった。 続いて若林がプレゼントの箱を開けにかかった。若林はシュナイダーに、何でも良いけど日本でも使える物を、とリクエストを出していた。なのでシュナイダーが何を選んでくれたのか、プレゼントの中身が楽しみだった。 グリーンの包装紙を破り、若林が箱を開けた。 「ん・・・? これは・・・」 一見しただけでは、若林にはプレゼントが何なのかよく判らなかった。アクセサリーのような物が、ふわふわのクッション材の中に多数詰め込まれているようだ。若林は中身を一つずつ、取り出してテーブルの上に並べてみた。そんな若林の様子を、シュナイダーは期待に満ちた目で見つめている。 箱の中身を全て取り出した若林に、シュナイダーが声を掛けた。 「どうだ、気に入ったか?」 「・・・シュナイダー」 「ん?」 「お前、本っ当に最低だな!!」 バンッとテーブルを掌で叩き、若林が怒鳴った。顔を真っ赤にして、シュナイダーの事を睨みつけている。 「何なんだ、これは! これがクリスマスに恋人に贈るプレゼントか!?」 「ああ。実用的でいいだろ?」 怒りの形相の若林と対照的に、シュナイダーが涼しい顔で言った。 シュナイダーが若林に贈ったのは、いわゆる大人のオモチャの数々だった。若林がアクセサリーかと見誤ったのはニップルクリップ。コロンか何かかと勘違いしたのは、ご丁寧にもアナル専用と書かれたラブローション。正体が判らなかった数珠みたいな物はアナルビーズ。そして誤解のしようがなかった代物が、特大サイズのバイブだった。 「これだけあれば、日本に行っても寂しくないだろ。身体が疼いたら浮気なんかしないで、コレを使えよ。サイズは俺のより小さいけど、一番振動のキツイのを選んだから多分気持ちよく達けると・・・」 「うるさいっ!!」 バイブを手にしたり顔で説明を始めたシュナイダーを、若林は大声で遮った。そしてそのまま玄関へと向かう。後を追いかけてきたシュナイダーは、若林がコートやマフラーを身に着け始めたのを見て慌てた。 「待てよ。どこに行く気だ?」 「帰る。帰国の準備もしなきゃいけないし、俺は忙しいんだ」 「今夜は泊まるって言ったじゃないか」 「気が変わったんだ。じゃあな、シュナイダー」 「待てってば!」 若林の進路を塞ぐように、シュナイダーがドアの前に立ち塞がった。 「プレゼントが気に障ったんなら謝る。悪気はなかったんだ。ただ・・・」 「ただ、何だって? 言いたい事があるなら言えよ」 若林が先を促す。シュナイダーは暫く言いよどんでいたが、やがて思い切ったように言った。 「ああいうモノを使って、若林にも勉強して欲しかったんだ。恥ずかしいとか、痛いとか、理由は色々あるんだろうけど・・・若林、セックスの時はいつも俺に任せきりだろ。偶には若林の方から乱れに乱れて、俺に迫ってきて欲しいかなぁ〜なぁんて・・・俺、実を言うとそういうクリスマスプレゼントが欲しくて・・・」 「セックスの上手い相手と寝たいのなら、他を当たってくれ」 冷ややかな声でそう告げると、若林は大きな手でシュナイダーの身体をぐいっと押しのけた。そしてドアを開けて外に出て行こうとするのを、シュナイダーは慌てて全力で引き止める。 だが若林を思い留まらせる事は出来なかった。 これ以上しつこく追いかけてきたら本当に別れると睨みつけられ、仕方なくシュナイダーは若林を見送ったのだった。 今年最後の濃密な一夜を過ごす筈が、一人寂しく取り残される羽目になってシュナイダーは溜息をつく。確かに堅物の若林に今夜のプレゼントはやり過ぎだったかもしれないが、しかしこちらの言う事に聞く耳を持たず、年内最後のデートをキャンセルして強引に帰ってしまった若林にも腹が立つ。 「・・・あの判らず屋め!」 シュナイダーは冷蔵庫から、買い置きの缶ビールを出した。若林との晩餐で残ったシャンパンも、貰い物でまだ封を切っていなかったブランデーも、とにかく家にある酒という酒を引っ張り出す。 そして気の向くままに片っ端から口をつけた。 「若林の石頭! 謝ったって、許してやらないからな!」 イライラと悪態をつきながら、シュナイダーは缶やボトルを次々と空にする。酒には強いシュナイダーも、さすがに酔いが回ってきた。最後の缶ビールを空にすると、シュナイダーは千鳥足でよろめきながら寝室へと向かう。そして服のままベッドに倒れ込むと、そのまま高鼾で寝入ってしまった。 股間に何ともいえないぬるりとした刺激を感じて、シュナイダーは目を開いた。暫くは頭が朦朧としていたが、ここが自宅の寝室である事を思い出した。 (そうだ、俺はヤケ酒飲んで寝ちまったんだ。着替えもしないで・・・って、あ? お、おぉっ!?) またもや急所を強烈な刺激が襲った。仰向けで大の字になっていたシュナイダーは、首だけを起こして己の股間を見た。いつの間にやら自分が全裸になっているのにも驚いたが、もっと驚く事があった。 何者かがシュナイダーの股間に顔を埋めて、フェラチオをしていたのだ。 いや、何者かじゃない。たくましい体躯と短めの黒髪に見覚えがある。 「・・・若林?」 呼びかけると、シュナイダーのペニスから口を離し、若林が伏せていた身体を起こした。若林もシュナイダー同様全裸だったが、両の乳首を繋ぐようにシルバーのチェーンが胸にぶら下がっていた。シュナイダーがクリスマスプレゼントに贈ったニップルクリップを、装着しているのだ。 「シュナ・・・よくなかった?」 不安そうにそう尋ねる若林の瞳は情欲に潤み、頬は上気して紅く染まっている。口の端からは、涎ともシュナイダーの先走りとも知れぬ汁がたらりと滴っていた。その色気の凄まじさに、シュナイダーのペニスに一気に血が集まる。 (ちょ、ちょっと待て! 若林は俺のプレゼントに腹を立てて帰った筈だぞ? それが何でこんなノリノリで、俺のを咥えてるんだ!?) その答をシュナイダーは瞬時に弾き出した。 (これは夢だ。でなきゃ若林が俺の贈ったニップルクリップをつけたり、進んでフェラチオしたりするわけがない!) そうと判れば楽しまなければ損というものだ。うかうかしてたら、いつ目が覚めてしまうとも限らない。シュナイダーは若林に優しく声をかける。 「いいや、すごく上手いぜ。もう少しで達きそうだった」 お世辞抜きに気持ちよかったのでそう言ってやると、若林がはにかむように目を伏せて笑った。自分も若林を可愛がってあげたくなって、シュナイダーは若林を抱き寄せる。若林のペニスは既にパンパンに張り切っていたので、ならば後ろを弄ってあげようと、シュナイダーは若林の尻に手を回した。 その指先に何やら紐のような物が触り、シュナイダーは不思議に思う。 「何だ、これ? おい、若林。尻をこっちに向けてみろ」 若林は小さく頷き、素直に身体の向きを変えてシュナイダーに尻を突き出した。ローションを使ったらしく、アナルの周りがぬるぬるして光っている。問題の紐は、そのアナルからぶら下がっていた。パステルカラーの紐の先端には小さな輪っかが付いており、そこを摘んで紐を引っ張る事が出来そうだ。この紐に、シュナイダーは見覚えがあった。 「若林、アナルビーズ挿れたのか?」 「・・・うん」 尻を向けたまま、若林が恥ずかしそうに小声で答える。 「シュナイダーがちっとも起きないから、俺・・・お前に貰ったバイプで一人でやってたんだ。ごりごりしたのが中に当たって、それだけでも凄かったんだけど、スイッチ入れたら振動が激しすぎて、全然我慢できなくて・・・アッという間に終わっちゃった」 「え、え? あのバイブももう使ったのか!?」 シュナイダーの脳裏に、特大バイブの振動に身悶えしながら射精する若林の痴態が浮かんだ。思わず生唾を飲み込むシュナイダーの耳に、若林のか細い声が聞こえてくる。 「で、バイブはきつすぎるから、今度はこっちを試してみようと・・・この玉、一個ずつ中に挿れてくと、むず痒いんだけど何か妙に気持ちよくて、途中で止められなくってどんどん挿れちゃって・・・」 若林の台詞とは思えないエロ言葉の連続に、シュナイダーの興奮は高まる一方だった。 (夢とはいえ、普段とのギャップ有り過ぎだぞ、若林! もう我慢出来ん!!) シュナイダーは紐の先の輪に指を入れると、それをそのまま引っ張った。ローションのせいか、思いの外滑らかに、ビーズがずるずるっとアナルから引き抜かれていく。 この刺激は若林にはいささか強すぎたようだ。 「あっ、あぁっ! あぁーっ!!」 悲鳴を漏らす若林の股間を見れば、勃起していたペニスの先端から白い汁がぴゅっぴゅっと吹き出していた。そしてビーズを抜き取られた後のアナルは、快感の余韻に浸っているかのようにヒクついている。 シュナイダーは若林の尻肉を掴み、左右に広げるようにしながら、アナルに怒張したペニスを押し当てた。そのまま腰を入れて、若林を一息に貫く。若林は果てたばかりだったが、シュナイダーの性急な攻めを悦んでいた。自らも腰を振り、シュナイダーの陰茎を締め上げながら、睦声を上げる。 「あっ、あぁ・・・んっ、もっと、もっと奥まで・・・突いてくれぇっ!!」 いつもの若林ならば、こんなはしたない事は言わない。夢さまさまだと思いながら、シュナイダーは腰を激しく打ち付け続けた。 ベッドに仰向けに寝ていたシュナイダーは目を開いた。 今は何時だろう。だが頭は重いわ、身体はだるいわで、起き上がって壁の時計を見るのも億劫だった。仰向けのまま姿勢を変える事もせず、ぼんやり天井を眺めていると昨夜の記憶が蘇ってきた。 急にエロくなった若林と、思う存分セックスを愉しんだ。いや待て、それは夢だ。本当の若林は・・・ (・・・そうだ。俺、若林と喧嘩したんだっけ) 喧嘩別れしたまま連絡を取らずに、このまま若林を日本に行かせるのはマズイ。下手をしたら喧嘩どころか破局になってしまう。若林に謝らなきゃ。若林も一晩経って少しは怒りが治まっているだろうし、これから電話してみよう。 (しかし、気が重い・・・また若林に怒鳴られるかもしれないしなぁ) するべき事は判っているのに、行動を起こす気になれなくて、シュナイダーはゴロリと寝返りを打った。 その目と鼻の先に、すぅすぅと寝息をたてて寝入っている若林の顔があった。 目玉がこぼれ落ちそうなほどに目を見開き、シュナイダーは固まってしまった。 (・・・・・・・・・わかばやし?? なんで、ここに若林!?) 昨夜シュナイダーの家を飛び出した若林は、自分も言い過ぎたとすぐに反省し、シュナイダーの家に取って返していた。そしてお詫びのしるしにシュナイダーが望むようなセックスをしようと、酔い潰れているシュナイダーに奉仕したり、例の大人のオモチャを次々試したり、シュナイダーが起きてからは自分から積極的に迫ったりと色々ガンバっていたのである。 だが軽いパニックに陥っているシュナイダーに、そんな事が判るはずもない。 俺はまだ夢を見ているのかと、シュナイダーは若林の寝顔を見ながら何度も自分の頬をつねっていた。 おわり
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