倍返し

 『日本式でお返しをして貰うぜ。3月14日に、俺にプレゼントを持って来い』
若林の声が鮮やかに耳元に甦る。
 ハッとしてシュナイダーは目を開いた。
 寝そべったまま手を伸ばしてベッドをまさぐるが、自分の他には誰も寝ていない。若林を抱いていたと思ったのは夢だったようだ。枕元の時計を見ると、いつもの起床時間より30分ほど早かった。
 「・・・いい夢だったのに、途中で起きちまった」
シュナイダーは上体を起こして、ベッドサイドに置かれた卓上カレンダーに目を向けた。丸印がつけられた日が、目前に迫っているのを改めて確認する。
 「もう一週間を切ったか・・・」
夢の中でシュナイダーは若林とイイ事をしていたのだが、唐突に若林がさっきの台詞を口にしたので目が覚めてしまった。若林との約束が無意識下で気になっており、そういう展開になってしまったらしい。
 (3月14日・・・ホワイトデー、だったな)
もう一度ベッドにもぐりこみながら、シュナイダーは件の約束をした日のことを思い返した。

 チョコレートに愛を託して想い人に贈るという、バレンタインデーなる日本のイベントを若林に実践してもらった。ちょっとしたすれ違いがあったものの、あの日のセックスはかなり盛り上がった。若林もいつもより悦んでいたと思うのだが、若林はそういう事を素直に認めない。酷い目に遭わされたと言わんばかりに、こんな事を言い出した。
 「まったく、とんでもないバレンタインデーだ。このお返しはちゃんとして貰うからな」
そして、ホワイトデーというものの説明を始めた。要はバレンタインデーに女性からチョコレートを貰った男性が、そのお返しに女性にチョコレート以外の菓子を贈る日らしい。どうしても気になって、シュナイダーは若林もホワイトデーには女性に菓子を贈ったのかと聞いてみた。
 「贈ったっていうか、配った。俺もホワイトデーなんて知らなかったんだけど、3月になったらクラスの女どもがやたらにアピール始めたんで、それで初めて知った」
 当時の若林が貰ったのは義理チョコ数個だったが、その数個のチョコレートには女生徒数十人が割り勘で金を出していた。その一人一人にお返しの菓子を配ったため、お返し分の出費は相当な額になっていた。この話を聞いたシュナイダーは首を傾げる。
 「不合理だな。貰ったチョコは数個なのに、お返しはその何十倍にもなるのか」
 「ああ。倍返しって言ってな、そういうもんなんだ」
若林はニヤニヤ笑う。
 実はシュナイダーには話していない事があった。当時、女子の『ホワイトデーよろしく!』アピールが鬱陶しかったので、若林は小遣いを使用人に渡して買い物を頼み、さっさと人数分の菓子を用意してしまった。ところがその後、クラスメートの男子一同から『ホワイトデー用の菓子を買ったので、割り勘分を払って欲しい』と言われた。
 つまり若林が勇み足をしてしまっただけで、倍返しなんかしなくて良かったのだ。仕方ないので若林は割り勘分の金を払い、自分で買ってしまった菓子も予定通り女子全員に配った。こんな事があったので、若林はバレンタインデーだのホワイトデーだのを覚えてしまったのである。そして自分の過去の失敗をネタに、ちょっと恋人をからかってみたくなったのだった。
 「これは一対一の贈り物の時も同じだぞ。最初に贈られたものより、お返しは数倍いいものでなくちゃいけないんだ。これが日本式のお返し、倍返しだ」
 都合のいい嘘八百を聞かされたシュナイダーは、倍返しという考え方に深く考え込む。そして若林に真顔で尋ねた。
 「じゃ、俺は3月14日に若林にクッキーかなんかを二袋以上渡せばいいのか?」
そんな不公平な慣わしはおかしい、と文句を言うと思ったのに、どうやら若林の嘘をすっかり信じ込んでいる様子だ。若林が日頃冗談めいた事を言わないので、完全に信じ込んでしまったらしい。
 もうよかろうと、若林は笑いながら種明かしをした。ホワイトデーは日本に実在するが、お返しは倍返しなんかでなくていいのだと説明する。若林が自分をからかったのだと判り、シュナイダーは苦笑した。
 「変だと思ったぜ。じゃ、菓子は一袋でいいんだな」
 「菓子は好きじゃない。くれるんなら他の物にしてくれ」
 「何がいい?」
相手の気に入らないものを用意してしまってはつまらないので、シュナイダーは若林の希望を尋ねた。しかし若林はシュナイダーの質問に答えてくれなかった。
 「さぁな。それはおまえが考えてくれよ。中身が判らない方が面白いし」
若林はそう言って楽しそうに笑う。しかしシュナイダーは困った。
 「何も制限がないのか? 何を選んだらいいのか、却って難しいな」
 「難しく考えるなよ。本当に何でもいいんだから」
そしてちょっと申し訳無さそうに声を落とす。
 「なんせ、俺が持って来たのはアレ、だしな」
チョコレートを見た時のシュナイダーの落胆を思い出して、若林は小さく肩をすくめる。会話の流れでお返しを寄越せなどと言ってしまったが、本当なら自分はお返しなぞ要求できる立場ではないのだ。
 なので若林は、シュナイダーが気を回しすぎないよう、こう言葉を締めくくった。
 「本当に何でもいい。俺はシュナイダーが、俺に何かしてくれるってだけで嬉しいから」

 シュナイダーはベッドで寝返りを打ち、天井を見上げた。
 『本当に何でもいい』
若林はそう言ったが、言われたシュナイダーはプレゼントの内容に悩まざるを得なかった。若林は必要な物があったら、誰に相談するでもなく自分でさっさと購入してしまう。そんな若林が、その場の勢いかもしれないが、初めてプレゼントをねだってくれたのだ。これは貴重な機会だ。
 何を渡されても素直に喜んでくれるに違いないが、どうせなら若林に最上級の喜びを与えたい・・・
 「何でもいい、と言われてもな・・・」
毛布にくるまりながら、シュナイダーは思案を巡らす。
 そういえば、最初若林が冗談で言っていた、”倍返し”という考え方。聞いたときは不公平で非合理的だと思ったが、それは人付き合い上の習慣として考えるからおかしく感じるのだ。物を贈られた側がその相手に感謝し、それ以上のお返しをしたいと自ら思って実行する分には、何も問題はない筈だ。まして相手が愛して止まぬ恋人だったなら・・・倍返ししたくなるのは当然じゃないか。
 (そもそも若林から貰ったのはチョコレート一袋なんだから、何を買っても倍返しになるだろうしな)
ラッピングもされてない、どこの店でも買えるありきたりな袋菓子。シュナイダーの期待を大いに裏切る代物だったが、あのチョコレートは二人の間にちょっとした刺激をもたらし関係を深めてくれた。どうせなら自分もそういう意外性のある物を贈りたい。
 枕元の時計が、耳障りな電子音を鳴らし始めた。
 考え事に没頭しているうちに起床時間になってしまったのだ。シュナイダーはベッドから起き上がって時計を止めると、もう一度卓上カレンダーを見た。
 14の数字につけられた丸印。
 予定を書き込む空欄に走り書きで書かれた”ホワイトデー”の文字。
 「ホワイトデー・・・か」
唐突にプレゼントのアイディアが閃いた。子供っぽい発想かもしれないが、俺の気持ちは伝わる筈だ。それに若林は「何でもいい」と言ってくれている。
 シュナイダーは自分の思い付きを実行する事にした。
 その日からシュナイダーは暇を見つけては、あちこちの店を覗き、これはと思うものを購入した。日頃のシュナイダーはショッピングを楽しむような性質ではないのだが、この一連の買い物は若林を喜ばせるという目的があるせいか実に楽しかった。
 そして若林と約束したホワイトデー当日。
 シュナイダーは手土産を携えて、若林の家を訪問した。ドアを開けた若林は、明るい調子でシュナイダーに声を掛ける。
 「よく来たな。早くあがれよ」
若林とて、バレンタインデーにシュナイダーと交わした約束を忘れてはいない。若林よりも率直な愛情表現をするシュナイダーが、ホワイトデーに何をくれるのか内心楽しみにしていた。
 ドアの前に佇む恋人をいつものように室内に迎え入れると、若林は温かい飲み物を淹れるためにキッチンに行こうとした。
 (・・・ん?)
若林は足を止めた。なんとなくおかしい。いつもと違う。そう感じて、若林はシュナイダーの方を改めて振り返った、違和感の原因はすぐに判った。シュナイダーの服装だ。
 真新しいコートの色は白かった。首に巻いたマフラーも柄なしの白だった。手袋はぱっと見が白っぽく見える淡いグレー。若林の見ている前でシュナイダーはコートを脱いでいたが、その下に着ているセーターも白一色だった。ズボンや足元は流石に白ではないが、薄いグレー系でまとめられている。いつものシュナイダーは黒やダークブラウンなど暗色系の服を着ているので、違和感があったのだ。
 「おまえ、服の趣味変わった?」
若林が聞いてみると、シュナイダーは軽く頷いて見せた。それから手にしていた細長い包みを若林に渡す。純白の包装紙に銀色のリボン、これまた白で統一されている。
 (どうやらこれが、例のプレゼントらしいな)
若林はそう思った。礼を言いながら包みを受け取り、包みの感触と重さから見当をつけて尋ねる。
 「これ、中身は酒か?」
 「ああ、白ワインだ。トロッケンベーレンアウスレーゼだから、多分若林の口にも合うだろう」
最高級甘口ワインの等級を告げられて、若林が少なからず慌てる。
 「そんないい酒を買ったのか? 俺は大して飲めないのに・・・」
 「別に若林に買ってきたわけじゃない」
シュナイダーが笑いながら応じた。
 「俺が飲みたいから買ってきただけだ。若林も飲むだろうから、酒に弱い若林にも飲みやすいのを・・・と選んだら、たまたまコレになった。それだけだから気にするな」
 シュナイダーのこの返答に、若林は安心するよりも拍子抜けしてしまった。
 (・・・このワインが俺へのプレゼントじゃないとすると、シュナイダーは俺に何を持って来たんだ?)
若林の疑問を察したのか、シュナイダーがこう言った。
 「若林へのホワイトデーの贈り物は後で出すよ」
 「お楽しみは後で、か。判ったよ」
すぐにプレゼントを渡さないところを見ると、シュナイダーは何か演出を考えているのかもしれない。若林は大人しく待つ事にした。
 そして恋人をもてなす為の準備が途中だった事を思い出し、ホットドリンクを用意する為にキッチンへ向かった。
 
 「・・・やし、若林。大丈夫か?」
シュナイダーの声に、若林は重い瞼をうっすらと開いた。
 シュナイダーが若林の家に来てから、数時間が経過していた。夕食も済み、ついさっきまでシュナイダーと食後のワインを楽しんでいた筈だったのだが、途中から記憶がない。どうやら酔いが回って寝てしまったらしい。崩れるような体勢でソファにもたれていた若林は、ゆっくりと身体を起こしソファに座り直した。
 「・・・あぁ、平気だ。ちょっと眠気が出た」
 「甘くて飲みやすいのが、却って良くなかったかな」
若林の隣に腰を下ろしたシュナイダーが、テーブルの上の空になったグラスを見て言った。
 「そんな事ねぇよ・・・上手いワインだったぜ」
ソファの背もたれによっかかっていた若林は、少し身体の向きを変えてシュナイダーに上体を預けた。
 「でも、今日はもう酒はいいや・・・」
シュナイダーの肩に頭を乗っけたまま、若林が小さな声で言った。今にも夢の世界へと沈んでしまいそうな気配だ。シュナイダーは若林の肩を掴んで、揺り起こす。
 「まだ眠るな。ホワイトデーのプレゼントを受け取ってないだろう」
 「・・・明日でいいよ」
 「そうはいかない。せっかく用意してきたんだから」
シュナイダーはソファから立ち上がるとキッチンへ行き、冷凍庫から角氷を出してアイスペールに移した。それを手に居間に戻ってくると、若林は既にソファの上ですぅすぅと寝息をたてていた。
 シュナイダーは氷を一粒口に含むと、眠っている若林の顔を上向けてキスをする。舌で若林の歯をこじ開けると、口移しで氷を送り込んだ。急に冷たい氷を含まされ、若林が驚いて目を見開く。慌ててシュナイダーの身体を押しのけると、氷を口から吐き出した。
 「な、なにやってんだよ・・・?」
 「目が覚めた?」
 「覚めた。ついでに酔いまで醒めたぞ」
完全に酔いが醒めたわけではなかったが、氷の冷たさが若林の意識をさっきよりも覚醒させていた。少なくとも眠気は飛んだようだ。シュナイダーは満足気に笑った。
 「よかった。それなら今のうちに寝室へ行こう」
 「? 寝るのか? プレゼントは?」
 「寝室で渡す」
若林はソファの肘掛け部分に手をつくようにして、腰を上げた。ちょっとよろめいたが、すぐにシュナイダーが手を貸して支えてくれた。シュナイダーの肩を借りながら、若林は寝室に入った。ベッドを見た途端睡魔が甦ったのか、若林がベッドに勢いよくうつ伏せに倒れこむ。しかしすぐにシュナイダーの腕が伸びて、若林の身体を仰向けにひっくり返した。シュナイダーは若林の顔の脇に両手をつき、覆い被さるようにして若林の顔を見下ろす。
 「寝るなって」
 「・・・寝てねぇよ。寝そべってる方が楽だから、こうしてるだけだ」
シュナイダーの顔を見上げながら、若林が言い返す。
 「それより、プレゼントは? 勿体ぶるのも大概にしろよな」
 「若林の目の前にあるよ」
シュナイダーは若林の顔を見ながら答えた。若林は酒でやや回転の鈍くなった頭で、ぼんやりと考える。目の前、と言われても若林の視線の先にはシュナイダーがいるだけだ。
 若林は不思議に思いつつ、シュナイダーの顔を眺める。
 シュナイダーも視線を反らさない。ベッドの上で、無言のまま二人は数十秒見つめ合った。
 「シュナイダー・・・」
 「なんだ?」
 「まさか、『俺がプレゼントだ』とか言うつもりか?」
 「当たり」
無表情を装っていたシュナイダーが、クスクスと笑いを漏らした。
 「ホワイトデーの贈り物だから、白い服を着て、ホワイトデー風のラッピングしたつもりだった」
 「・・・くだらねぇなぁ・・・」
若林の口元も緩む。素面の時なら、本気で馬鹿馬鹿しいと思ったかもしれない。しかし今は心地よい酔いのお陰か、シュナイダーの演出を気が利いていると感じた。自分の洒落が若林に通じたらしいので、シュナイダーは嬉しくなった。
 「で、どうする? 今日はプレゼントを開けずに眠るか?」
 「いいや。今開ける」
若林はベッドに手をついて、上半身を起こした。起き上がった拍子に一瞬めまいを感じたが、それはすぐに治まった。それからベッドに座りこんだシュナイダーの白いセーターの裾に手を掛け、それを上へと引っ張る。シュナイダーが若林の手の動きに合わせて、セーターの袖から腕を抜いた。そしてセーターを完全に脱ぐと、それをベッドの下に落とした。
 セーターの下に着ているシャツも、下着も白かった。若林の指先は、シャツや下着、それからアンダーにも伸びる。シュナイダーは着ている服の一枚一枚を、若林の手を借りる形で脱ぎ捨てていった。
 酔っ払った若林の手つきは、正直言って覚束ない。若林の手を借りずに一人で服を脱ぐ方が簡単なのだが、それではいつものベッドインと変わらない。若林の手で包装を解かれる、という形を取りながら、シュナイダーは全ての着衣を脱いだ。
 シュナイダーの均整の取れた裸身が、若林の目の前に晒される。幾度も夜を共にした相手だから、当然裸など見慣れている。見慣れている筈なのに、若林はシュナイダーの身体に見惚れてしまった。
 若林の顔色が、酔いを別にしても赤くなっているのが判りシュナイダーが笑う。
 「プレゼントは気に入って貰えたみたいだな」
シュナイダーが若林の方へ身体を乗り出した。そして普段よりも赤味を帯びた唇に、キスをする。唇が触れるやいなや、すぐに熱い舌が絡み合う相手を求めて、若林の口腔へと容赦なく侵入した。
 この濃厚な接吻に、たちまち若林はのぼせてしまった。若林の腕はシュナイダーの首筋に回され、キスをより深く味わおうとシュナイダーの顔を抱き寄せる。若林はシュナイダーのキスに夢中だった。
 しかしシュナイダーは若林より器用だった。キスに集中しながらも、その両手は全く別の仕事をしていた。若林の服のボタンを外し、ファスナーを下ろし、服の隙間から若林の肌を撫で回す。初めは腹や背筋を這い回っていた指先が、乳首や股間に伸びるまでそう時間は掛からない。
 「・・・っ!!」
キスで口を塞がれているので声こそ出なかったが、シュナイダーに抱きついていた若林の身体がビクリと震えた。
 シュナイダーが顔をそっと離す。シュナイダーの首に回されていた若林の両腕が、力が抜けたようにだらりと解ける。シュナイダーは若林の顔を見た。ディープキスは終わっているのに、口は薄く開いたままで小さく舌が覗いている。両の瞳はきつく閉じられたままで、じっと余韻に浸っているようだった。
 若林は服を半脱ぎにした格好で、シュナイダーに握られて達していたのである。
 何も言わずに若林がぐったりとベッドに倒れ伏すのを見て、シュナイダーは次の仕事に取り掛かった。若林の脱ぎかけの服を全て取り払い、自分と同じ姿にしてしまってから、おもむろに若林のアナルを指で可愛がり始めた。中で指が蠢く度に、若林の咽喉からは小さく声が漏れる。アルコールのせいで感度が良くなっているのか、その声音はとても甘く聞くからに気持ち良さげだった。
 若林の反応がいいので、シュナイダーはすぐに己自身を若林の中へ突き立てた。シュナイダーを受け入れた瞬間、若林の四肢に力が籠もるのが判った。シュナイダーは自分が動きやすい位置まで、若林に尻を持ち上げさせると、すぐに腰を前後に大きく揺すり始めた。
 「はっ・・・あぁ・・・」
シュナイダーが動く度に、若林はよがり声を漏らす。細い指で掻き回されるよりも、太い一物に突き上げられる方が遥かに気持ちがいい。若林はシーツに爪を立てながら、無意識に自らも腰を振っていた。
 そうして行為に没頭しているうちに、若林は体内に熱いものが流れ込むのを感じた。
 シュナイダーが終わったらしい。
 若林は快楽の終わりを惜しむと同時に、安堵も感じていた。今日は慣れない酒を飲んでるせいか、身体がおかしい。あまりにも感じ過ぎてしまい、このまま続けていたらどうにかなってしまいそうだった。
 シュナイダーが抜け落ちていくのを感じて、若林は身体の向きを変え、ベッドに仰向けに横たわった。だらしなく脚を開いたまま、胸を上下させて呼吸を整える。
 ふいに、若林の両脚が大きく抱え上げられた。
 若林が状況を理解する間もなく、精液で濡れそぼったアナルにもう一度固いペニスが打ち込まれる。
 「あっ!? シ、シュナイダー?」
果てたと思ったのも束の間、すぐに回復したシュナイダーがもう一度始めたのだった。若林の上で息を弾ませながら、シュナイダーが若林に呼びかける。
 「まだ・・・まだ、終わらないぜ・・・今日は”倍返し”なんだから、な・・・」
 「バッ・・・バカかっ・・・だからって、こんな事っ・・・あ・・・!」
若林はシュナイダーに反論したかったのだが、咽喉から漏れる声は明らかに感じてしまっていて説得力の欠片もない。
 結局若林はシュナイダーを拒めず、バレンタインデーの時よりも濃厚なセックスを何度も繰り返したのだった。

 その翌日。いつもの逢瀬の時と何ら変わりなく、シュナイダーは淡々と帰り支度をしていた。シュナイダーの落ち着いた素振りを見ていると、若林には昨夜あんなに激しく過ごした事が夢のように感じられた。しかし身体に残るこの疲労感、倦怠感は決して夢ではない。若林はシュナイダーに向かって、文句をぶつけたくなった。
 「まったく、とんでもないホワイトデーだった」
 「おい、それはないぜ。若林だって感じてたじゃないか」
またも自分だけが悪者にされそうで、シュナイダーは慌てて言い返す。そこでふと、ある事を思いつく。
 「若林、もしかして日本では4月14日にも何かイベントがあるんじゃないのか? それなら、俺が今日の埋め合わせを来月・・・」
 「ない! 仮にあっても、おまえのお返しやら埋め合わせやらは二度と御免だ」
本気とも冗談ともつかないシュナイダーの台詞を、若林は強い口調で慌てて遮るのだった。
おわり

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