今日は2月3日、節分です。どの家でも「鬼は外、福は内」の掛け声と共に豆を撒きます。すると家に住みついていた悪い鬼たちは外へと追い出され、逃げ出して行くのです。
 小鬼の源三も豆をぶつけられて、大慌てである家から逃げ出してきました。小鬼の源三はまだ小さいので、逃げていく他の鬼たちからはぐれてしまいました。しかし小さくても鬼は鬼。逃げ遅れた小鬼の源三に向かって、四方八方から豆が飛んできます。小鬼の源三はきょろきょろと他の鬼を探しながら、ちょこまかと逃げ回ります。
 この様子を遠くから外国人の男の人が眺めていました。名前はシュナイダー。2月2日が誕生日なので、記念に日本を観光しに来たドイツ人です。小鬼の源三が人々から追い払われる様子をたまたま目撃し、シュナイダーは心を痛めました。
 「あんな小さい子供に小石をぶつけて追い払うなんて、日本人とは何て野蛮な人種なのだろう。坊や、こっちにおいで!」
シュナイダーが手招きをすると、小鬼の源三はたかたかと駆け寄って来ました。他の鬼とはぐれてしまい、他に行き場がなかったのです。
 「こんな意地悪な連中の国にいることはないよ。俺の母国のドイツへ連れてってあげるからね」
シュナイダーは小鬼の源三を抱き上げると、帰国の為さっさと空港へ向かうのでした。



 シュナイダーは小鬼の源三を連れて帰国しました。日本とは全然違う街並みに、小鬼の源三は物珍しそうに目を丸くします。
 「ここにはお前をいじめる人はいないからね。そうだ、おまえの名前は?」
 「げんぞう」
 「源三か。俺はシュナイダー。今日から源三は、うちの子になるんだよ」
シュナイダーは小鬼の源三を抱っこして、家へと連れ帰りました。
 


 災厄を呼び寄せて、その邪気を喰らって成長する鬼を、わざわざ日本から連れ帰った為、シュナイダーの家には次々と災難が降りかかりました。家族仲も悪くなり、家の中は喧嘩が絶えません。
 今日も家族と大喧嘩をして、プンプンむくれてシュナイダーが自分の部屋に戻ってきました。するとどうでしょう、そこにはちっちゃくて可愛い源三坊やではなく、もっと大きな少年が図々しく座りこんでいるではありませんか。シュナイダーは少年を怒鳴りつけました。
 「コラ! どっから入り込んだんだ! うちの源三をどこへやった?」
 「俺が源三だよ。家の中に邪気が満ち溢れたんで、それを吸って成長したんだ」
シュナイダーはビックリしました。言われてみれば、少年の顔はあの源三坊やにそっくりです。よくよく話を聞きだして、源三が悪い鬼の一族だと漸く知る事となったのでした。
 「じゃあ、最近家の中がゴタゴタしてたのは、みんな源三のせいだったのか!」
 「そうだよ」
 シュナイダーは腹を立てました。日本人に苛められている所を助けてやったのに、恩を仇で返すなんて! その事を言うと、大きくなった小鬼の源三が言い返してきました。
 「シュナイダーが勝手に俺を連れてきたんじゃないか。俺が助けてくれって頼んだんじゃないぞ」
 「そう言われればそうだけど・・・とにかく、このままじゃ困る。出て行ってくれ」
 「ちぇっ、判ったよ」
大きくなった小鬼の源三は立ち上がって部屋から出て行こうとしました。大きくなったとはいっても、格好はちび鬼だった時のまま。可愛い顔立ちの少年が裸に腰布ひとつの格好で目の前にいることに気付き、アブナイ趣味のあるシュナイダーは劣情をもよおしてしまいました。
 「あっ、ちょっと待て!」
急にシュナイダーが、大きくなった小鬼の源三を呼び止めました。
 「なんだよ?」
 「お前、大きくなったんだよな」
 「うん」
 「だったら、俺がイイことを教えてやる」
 「なになに?」
鬼とはいえ、ついさっきまでちび鬼だった源三は警戒心が薄く、あっさりとシュナイダーの話に乗ってきました。



 シュナイダーは大きくなった小鬼の源三がまとっている、唯一の腰布を脱がせてしまいました。それから鬼のちんちんに手を伸ばして、ゆっくりしごきます。
 「どうだ、こうすると気持ちいいだろう?」
 「・・・うん、気持ちいい・・・」
 「もっともっと、気持ち良くなるからな」
こうしてシュナイダーは、大きくなった小鬼の源三を美味しく頂いてしまったのでした。気持ちイイことを色々と教え込まれて、大きくなった小鬼の源三はもうシュナイダーに夢中です。
 「なぁ、俺、シュナイダーとずっと一緒にいたい。ここにいちゃ駄目か?」
シュナイダーにしても、こんな可愛い子を手離すのは惜しいので、どうしたら良いのかあれこれ考えます。
 その結果、シュナイダーは大きくなった小鬼の源三を連れて、実家を出る事にしました。そして取り壊し寸前で他に入居者のいない古いアパートを無理矢理借りて、ここに二人きりで住むことにしました。これなら鬼が災厄を呼び寄せても、被害を被るのはシュナイダーだけで済みます。大きくなった小鬼の源三が、おずおずとシュナイダーに聞きます。
 「ホントにいいのか? 他の人は無事でも、シュナイダーは酷い目に遭うんだぞ?」
 「いいよ。だってその代わり、源三と楽しいコトが出来るんだから」
そしてシュナイダーと大きくなった小鬼の源三は、二人っきりの甘い生活を始めたのでした。



 そんなある日。職場でミスをし、上司に怒鳴られ、同僚と喧嘩し、挙句に事故に巻き込まれ怪我をしたシュナイダーは、今日も上機嫌でアパートに帰ってきました。
 「ただいま、源三。今日は凄かったぞ〜。いきなりバスが暴走して、信号待ちしてた俺目掛けて突っ込んできたんだ。ま、今日も無事だったけどな。・・・おい、源三?」
 大きくなった小鬼の源三はベッドに臥せったままで、元気がありません。シュナイダーは慌てました。
 「どうした、源三? 病気か? 鬼も病気になるのか?」
 「・・・う〜ん・・・最近、邪気を吸ってないから、そのせいだと思う・・・」
 「え? だって、俺は毎日酷い目に遭ってるぞ? それでも邪気が足りないのか?」
シュナイダーの言葉を聞いて、大きくなった小鬼の源三は力なく笑いました。
 「シュナイダーはどんな酷い目に遭っても、いつも楽しそうにしてるじゃないか。災厄に遭った人間が落ち込んだり、怒ったり、暗い気持ちにならないと邪気は出てこないんだ」
大きくなった小鬼の源三の言葉に、シュナイダーはショックを受けました。
 「そうなのか! 俺はどんな酷い目に遭っても、源三がいると思うと全然平気で・・・それがいけなかったのか!?」
 「いけなくないよ。だから俺、邪気の代わりに、ずっとシュナイダーの『愛情』を吸ってたんだ。でも、俺やっぱり鬼だから・・・身体に合わなかったみたいだ」
 「源三!!」
その夜、シュナイダーは付きっきりで、大きくなった小鬼の源三の看病をしました。しかし大きくなった小鬼の源三が元気になる様子はなく、いつしかシュナイダーも看病疲れで眠ってしまいました。



 翌朝。ベッド脇の椅子に掛けたまま眠り込んでいたシュナイダーは、ハッとして目を開けました。
 「源三!?」
 大きくなった小鬼の源三は、安らかに眠り込んでいるように見えました。しかし・・・その頭部からは、鬼の証である角が消え失せていました。シュナイダーの顔色が変わります。
 (鬼が、鬼の証の角を失うという事は、死ぬという事じゃないのか?)
 「源三っ! 源三ーっ!!」
 「・・・・・・なんだよぅ、うるせえなぁ・・・」
意外なほどあっさりと、源三が目を開けました。拍子抜けして、シュナイダーが問い掛けます。
 「源三、元気になったのか?」
 「うん、そうみたい。何だか腹が減った」
 「そうか、良かった・・・でも、邪気はここにはないんだよな」
鬼の食べ物は人間が災厄にぶち当たった時に出す邪気。そう判ったものの、生憎このアパートには他に人がいないのです。シュナイダーは源三に聞いてみました。
 「街に行って、不幸そうな人でも連れてくるか?」
 「いいよ、そんな事しなくて。俺、シュナイダーと同じ物、食べるから」
 「俺と同じ・・・?」
源三はニコニコ笑いながら、シュナイダーに抱きつきました。
 「俺、人間になったんだ。シュナイダーと同じ人間なんだ。シュナイダーが邪気じゃなくて、愛情をくれたから人間になれたんだ」
 「源三! 本当に・・・? 良かった、良かった!!」
シュナイダーは源三を抱きしめ、そのままベッドに押し倒しました。シュナイダーがキスをすると、源三も嬉しそうにキスに応えました。
 こうしてシュナイダーと人間になった源三は、末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。



ドイツへ行った小鬼の話 おしまい

   あとがき
 気まぐれで小鬼の源三を絵日記に書いたのが始まりで、その後もポツポツと小鬼絵を描いていたところ、Uさまと小鬼話が弾んでしまい、なんと小鬼ネタで作品を作って更新することに!(笑) 今月(2004年2月)はシュナ源更新強化月間だそうなので、異質ネタですがアップしてしまいました。「鬼が浄化されると人間になる」というアイディアを提供して下さったのは、Uさまです。いつもいつもお世話になります。