玄関のドアチャイムが鳴った。むずかる子供を漸く寝かしつけたばかりの源三は、子供が目を覚まさないかとドキリとした。すぐに玄関に向かい、ドアを開ける。そしてそこにいる人物を見て、眉を顰めた。
「誰かと思えば・・・・・・」
「そう、嫌そうにするなよ。古い付き合いじゃないか」
「あんたと付き合った覚えはない」
愛想良く話しかけてくる訪問者を、源三は冷たくあしらった。
「生憎、カールは留守だ。帰ってくれ」
「カールに会いに来たんじゃない。おまえに話があるんだ」
源三は苦々しい思いで、訪問者を招き入れた。相手も自分と同じ源三である。しかし、消防士という激務をこなし、筋肉トレーニングに日々勤しむ彼は、正直言って源三より体格がよく逞しい。源三より年上ということもあって、見るからに「兄貴」といった貫禄を見せている。自分よりも恵まれた肉体を持つ兄貴に、源三はジェラシーを感じた。
(こいつが・・・俺のカールを・・・!)
源三はシュナイダーと結婚しており、既に可愛い子供も授かっていた。幸せ一杯の円満な新婚生活を送っていたのに、この兄貴が割り込んできて、源三の大事なカールと恋人関係を結んでしまった。その事が判って以来、源三とカールの間には喧嘩が絶えなかった。
源三が兄貴を許せないと思うのは、この事ばかりが原因ではない。兄貴は源三が独身の時、源三をしつこく口説いていたのだ。そう、兄貴は真性のゲイなのである。
兄貴は自分より年上の源三と結婚しており、それ以外にも二人の源三と恋人付き合いをしている。どこからどう見ても、紛れもない真性ホモ。それなのに、どうして俺の大事なカールと恋人になったのか。源三はこの機会に、そのことをとことん問い詰めてやろうと思っていた。
源三は兄貴を居間へ通した。しかしお茶やコーヒーなどは、一切出さない。さっさと話だけ終わらせて、帰って貰うつもりだった。兄貴が先に口を開いた。
「俺とカールの関係は知ってるよな」
知らいでか。知らないでいられたならば、まだしも幸福だったかもしれない。砂上に築いた幸せかもしれないが、今のように毎日喧嘩をするよりましだったろう。兄貴はそんな源三の気持ちを、更に逆撫でするように言った。
「カールはまだまだ子供だ。俺がちょっと強く迫ったら、簡単になびいて俺の恋人になった。主体性がないんだな。あれじゃあ、夫としておまえを支えてやる事は出来まい」
源三はカッとなった。自分からコナをかけておいて、落ちた相手を誹るなんて。そして、誹られているのは、源三の大事な結婚相手のカールなのだ。
「勝手なことばかり言うな! あんたが割り込んでこなければ、俺たちはうまくいっていたんだ! 一体、何が言いたいんだ!!」
激昂する源三とは対照的に、兄貴はいたって冷静だった。落ち着いた声で、源三に向かってハッキリと言いたい事を言った。
「おまえに相応しいのは、カールじゃない。この俺だ」
突然の告白に、源三はたじろいだ。確かに兄貴は以前、源三を口説いたことがある。しかしそれは何年も前のことであり、源三に結婚相手も恋人もいなかった頃の事だ。そして源三は当時、兄貴の求愛をきっぱりとはねつけていた。
『悪いが、俺はホモじゃない』
源三はその言葉どおり、その後シュナイダーたちと恋愛を重ね、そして最愛のカールと結婚した。その間、兄貴は一度も源三に接触してこなかった。だから源三はてっきり、兄貴が自分を諦めたのだと思っていた。
「あんた、まだ俺に気があったのか!?」
「当たり前だ。何故、俺がカールを口説いたと思う?」
兄貴は椅子から立ち上がり、源三の腕を掴んで無理矢理に立ち上がらせた。そのまま源三の身体を引き寄せ、燃えるような瞳で源三の目を覗き込んだ。源三は兄貴の迫力に、射すくめられたように動けなくなった。
「カールを、おまえから引き離すためだ」
兄貴の腕は、源三を力強く抱きしめる。
「俺の狙いは、最初からおまえだ」
兄貴は源三の顔を上向かせ、強引に唇を塞いだ。カールと交わすソフトなキスとは全く違う、情熱的な接吻に源三は圧倒された。膝の力が抜け、その場に崩れ落ちそうになるのを、兄貴の逞しい腕がガッチリと支えていた。
兄貴は唇を重ねたまま、源三の身体をその場に横たえた。兄貴にのしかかられ、源三は慌てた。しかし兄貴は源三の抵抗などものともせず、源三のシャツを引き裂くように乱暴にはだけ、ジーパンを下着ごと引きずりおろした。
源三は恐怖を感じた。カールは弁護士という職業柄なのか、セックスの時も紳士的に優しく源三を抱いてくれる。こんな乱暴な扱いをされるのは、源三は初めてだった。兄貴にペニスを掴まれ、源三は悲鳴をあげた。
「やめろ! 俺はホモじゃない!」
「そうか? それなら、どうしてこんなに興奮してるんだ?」
兄貴の手に激しく擦りあげられ、源三のペニスは浅ましくも汁をたらしながら天を仰いでいた。
「ホモじゃないなら、俺に握られて縮み上がるんじゃないのか」
「あ・・・っ、ち、ちがう・・・それは・・・」
源三は兄貴の巧みな指の動きに、完全に翻弄されていた。男の身体は因果なもので、こうなるとイくために更なる刺激が欲しくなってしまう。ジーパンを膝まで下ろされ、シャツも袖口のところで辛うじて引っ掛かっているだけという乱れた姿で、源三は兄貴にすがりついた。
「可愛いぜ、源三」
兄貴は源三を握る手に力を入れた。だが力を込めるばかりではなく、時に締つけを弱めながら、素早く指を上下させる。源三は兄貴の首筋に両腕を廻し、兄貴の与えてくれる快感にただ身を委ねていた。
「うぅ・・・っ!」
源三の身体がビクッと震えた。兄貴の指に、どろりとした汁がまつわりつく。源三のペニスが固さを失ってうなだれるのに合わせるように、兄貴の首筋に廻されていた源三の腕がほどけた。
息を弾ませながら、ぐったりと床に横たわっている源三を見下ろしながら、兄貴が言った。
「俺にイかされても、嫌じゃなかっただろう・・・?」
兄貴はぬとぬとした指先を、源三の中に入れた。源三は僅かに身体を捩ったが、それ以上の抵抗を見せなかった。源三の素直な態度に、兄貴は嬉しくなった。
兄貴は太い指で、源三の中を丹念に愛撫した。中が柔らかくなったのを見澄まして、指の本数を一本ずつ増やす。終いには三本の指を抜き差ししても、粘膜がしっとりと絡みつくようになった。身体の中をいいように弄り回されながら、源三は全く抗う気配を見せなかった。ただ、指が動くたびに、大きく息をして、その刺激に耐えていた。
「気持ちいいか?」
兄貴に問われ、源三は無言で頷いた。
さっき、兄貴の指でイかされてから、後ろにも欲しくて堪らない。指じゃなく、もっと別のモノが欲しい。こんな気持ちになるなんて。自分はホモじゃない筈なのに、嫌悪を感じるどころか、もっと欲しくなるなんて・・・!
だが、源三の口からは「入れてくれ」とは言えなかった。ただ潤んだ瞳で兄貴を見上げることしかできなかった。
兄貴には、それで充分だった。兄貴はすぐに指を抜き、源三が欲しがっていたモノを突き立てた。
「あっ・・・あぁっ!」
想像以上に固く太い男根を呑まされて、源三は喘いだ。
痛い。でも、この痛みをもっと感じていたい。
違う。痛いんじゃない
気持ちいい・・・・・・!
今まで何人もの源三を抱いてきた経験豊富な兄貴には、源三が苦しそうな表情とは裏腹に快感を味わっている事がお見通しだった。
源三が俺を味わい、悦んでいる。もっともっと悦ばせてやりたい。兄貴は、じわじわと腰を動かした。
何年も前に初めて源三を見たときから、兄貴は源三に一目惚れだった。すぐに口説き始めたものの、当時は兄貴も今ほど積極的ではなく、源三に断られるとそれ以上、付きまとう事が出来なくなってしまった。源三は兄貴を振った後、何人ものシュナイダーと恋愛を重ねた。そして終いにはそのうちの一人と結婚してしまった。この期に及んで、兄貴はまだ源三を諦められなかった。だから、目的のためには手段を選ばす、源三の結婚相手を口説くという暴挙に出たのだ。
あの時、俺にもっと勇気があれば。
兄貴は源三の腰を引き寄せ、更に深く源三を抉った。圧迫感に源三が喘ぎ、源三の眼から涙が零れた。
あの時、こうして源三を手に入れていれば、何人ものシュナイダーに源三を汚されることはなかった。
源三を俺だけのものに出来たのに。
兄貴は腰を忙しなく動かし始めた。源三のペニスを握ってやると、途端にアヌスの締つけがきつくなり、源三の感度の良さを窺わせた。源三が首を振って、切なげな声をあげた。
「い・・・いや・・・いいっ・・・いやだぁ!」
快感のあまり、つい「いい」と口走ってしまい、慌てて理性が前言を翻す。どちらにしても、その声音は嫌がっているようには聞こえない。本人だけがその事に、気付いていないようだった。
兄貴は源三の反応に気をよくして、更に腰を小刻みに揺する。刺激が強まり、源三の限界が近づいていた。兄貴は暗示をかけるように、源三に囁き続けた。
「もう離さない。おまえは俺のものだ。俺以外の男に抱かれる事は、もう許さない・・・」
仮に、他の奴に抱かれても、おまえは物足りなく思う筈だ。こんなに嬉しそうに、俺を咥え込んでいるんだからな。
「おまえはもう、俺じゃなきゃ満足できないんだ」
「ひっ・・・!」
源三の身体が、ひきつるように強張った。兄貴の手の中で、源三のペニスが熱い精液を迸らせる。源三にきつく締めつけられた兄貴も、ほぼ同時に源三の中にたっぷりと流し込んでいた。
「源三・・・やっと、手に入れた・・・」
兄貴はセックスが終わったあとも、源三の中から抜こうとしなった。ずっと欲しいと思っていたものを手に入れて、その余韻にずっと浸っていたかった。そして兄貴を呑み込んだままの源三も、兄貴の感触を愛おしく感じていた。
セックスは一度では終わらなかった。寝室のベッドに場所を移し、何度も何度も兄貴は源三を貫いた。源三もそんな兄貴を積極的に受け入れ、本能のままに兄貴を迎え入れた。幾度目かの情事を終え、兄貴は嬉しそうに言った。
「判ってくれたんだな。俺たちはこうなる運命だったんだ」
可愛い弟分の火照った身体を腕に抱き、兄貴は優しく囁いた。
「随分、回り道をしたけど、もう離さないぜ」
源三は兄貴の言葉に答えることが出来なかった。
初めて味わう兄貴とのセックスに、身体はすっかり溺れてしまった。
だけど、俺はカールと結婚しているんだ。
優しくて、紳士的で、一途に俺を好いて結婚を申し込んでくれたカール。二人の間には、愛の結晶である子供も生まれている。最近は喧嘩ばかりだけど、今ならまだカールとやり直せるんじゃないのか。
そう思う一方で、何年も自分を慕っていたという兄貴の情熱にも、源三の心は揺れていた。
判らない
どうしたらいいのか、俺には判らない。
今はただ、兄貴の腕の中で眠りたい。悩むのは、目が覚めてから・・・
源三は兄貴に寄り添った。兄貴が自分の身体をそっと包み込んでくれる。その心地よさに酔いながら、源三は眼を閉じた。
おわり
あとがき
「シュナ源People」掲示板に荒らし連載している話を、妄想テイストで思いっきり脚色してみました。掲示板連載では『以下割愛』で片付けているエロ描写を、ちゃんと書くとこういう内容に・・・(冷汗)
「シュナ源People」はほのぼの恋愛シュミレーションゲームなのに、私の小説だけ見たら完璧エロゲーム・・・管理人さん、他のプレイヤーの皆さん、ごめんなさい〜!(平謝)