ゴンドラが最上段に昇り詰めた。身体を捻って、窓の外にカメラを向けた若林が、すかさずシ
ャッターを切る。
「撮ったぞ! シュナイダー、見ろよ。すごく綺麗な眺めだ!」
若林がカメラを置き、窓ガラスに両手をついて夜景を見下ろした。
確かにこの高さから見下ろす夜景は美しいだろう。だが俺には夜景よりも、見ていたいもの
があった。子供のように目を輝かせ、嬉しそうに外を見下ろす若林の姿。サッカーに情熱を燃
やし、常にある種の緊張感を漂わせている若林の、滅多に見られない気を許した姿。若林の
こんな姿は、なかなか見られない。若林が外を見たまま、俺に言った。
「見てるか、シュナイダー。本当に、いい眺めだなぁ」
「・・・ああ、いい眺めだ」
俺は心からそう思った。
やがてゴンドラはゆっくりと下降を始め、時間をかけて地表に下りた。ゴンドラを降りた若林
が笑顔で言った。
「やっぱり、観覧車に乗って良かったな」
「ああ。花火やパレードには間に合わなくなってしまったが、代わりにいいものを見られた」
若林が頷く。
「これで、撮り残しはないな。よし、帰ろうぜ」
俺は無言で頷いた。もう少し、若林と二人きりの時間を過ごしていたかったが、もう一緒にここ
にいる大義名分がない。俺たちは遊園地を出た。
帰りがけにスピード現像の店により、今日撮ったフィルムを全部焼いてもらった。若林に今日
付き合って貰った礼と、別れの言葉を告げ、俺は写真の束が入った袋を抱えて家に帰った。

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