「今、庭先に変な男がいましたよ」
俺は嘘をついて、見上を追い払おうとした。見上が驚いて聞き返す。
「変な男だって?」
「なんか、この家を窺っているみたいな・・・」
見上は眉をひそめて言った。
「よし、おれが見てこよう。源三たちは部屋に入っていなさい」
見上は外へ出て行った。俺はすかさずドアに鍵を掛ける。若林が慌てた。
「おい、見上さんを締め出すなよ」
「不審人物が、家に入ってきたらどうする」
「見上さんが心配じゃないのかよ?」
勿論、心配じゃない。不審人物などいないのだから。俺は鍵を開けようとする若林をなだめ
すかして、家の中に上がりこんだ。しかし若林は落ち着かない。
「俺、やっぱり見てくるよ」
「部屋にいろと、言われただろう」
「でも、見上さんを放っとけないよ」
押し問答をしていると、当の見上がひょっこり姿を現した。どうやら合鍵を持ち歩いていた
らしい。俺は少なからずガッカリした。見上が喋り始める。
「今見たところ、怪しい奴はいなかった。しかし物騒だから、シュナイダー、君も早く帰った
方がいい。おれが送って行こう」
「そうだな。そうした方がいいぜ、シュナイダー」
俺は自分の作戦が完全に裏目に出た事を思い知った。送ってやろうという見上の申し出を
丁重に断って、俺は若林の家を後にした。

|