でも、キスぐらいだったら許されるかも・・・。
俺は、ふらふらとソファに近寄った。すぅすぅと可愛い寝息をたてて眠り込んでいる若林の
寝顔が、すぐ目の前にある。その薄く開かれた無防備な唇に、俺は自分の唇を近づけた。
その距離、わずか1センチ。
へくしゅん!
突然、若林がくしゃみをした。俺は驚いて顔を離してしまった。寒気を覚えたのか、若林は
ソファの背もたれの方に顔を向けて、身体を丸めてしまった。
俺は焦る。こっちを向いてくれなければ、キスが出来ない。
「若林、おい、若林」
身体を揺すって起こそうとするが、若林は煩そうに俺の手を払いのける。
「若林、こっち向けって! おい!」
「ん〜・・・なんでぇ・・・?」
舌っ足らずな甘い声。普段の若林なら、『何だよ!?』と、突っぱねるところだ。あの若林が
こんな声を出すなんて・・・酒のおかげで、以外な一面を見ることが出来たようだ。
「そっち向いてたら、キスが出来ないだろう」
「・・・・・・キス?」
若林がガバッと飛び起きた。まずい。相手が酔っていると思って、つい本音を言ってしまっ
た。今の一言で、若林の酔いが醒めてしまったらしい。俺の背筋を、冷汗が流れ落ちる。
だが、それは思い過ごしだった。若林は俺の方をじいっと見つめているが、相変わらずそ
の瞳はトロンとしている。とても覚醒しているようには見えない。どう見ても夢の中だ。
「キス・・・」
若林はそう言うと、両の瞼を閉じた。そして心持ち唇をとがらせて、あごを僅かに上向ける。
・・・・・・これは・・・・・・キス待ちポーズか?
キスしていいのか!?
若林が素面だったなら、絶対に有り得ないシチュエーションだった。どんな夢を見ているの
か知らないが、このチャンスを逃したら男じゃない!
俺は若林の肩に手を置き、あらためて若林の顔を見た。
まるでファーストキスに恥らう乙女のように、ほほを赤く染めている。実のところは、酔って
赤くなっているだけなのだが。
「若林・・・」
俺は躊躇うことなく、若林の唇に口づけようとした。
「おまえたち! 何やってるんだ!」
突然、見上に怒鳴りつけられて、俺は身をすくめた。見れば、出掛けた筈の見上が、肩を
震わせて俺たちを睨みつけていた。

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