キス

 若林と初めてのキスを交わし、有頂天だったシュナイダー。しかし時間が経つにつれて、不満の念が強くなってきていた。
 理由は二つあった。第一に、あの時若林が予想外に早く目覚めた為、キス以上の事が何も出来なかった事。あんなチャンスは二度と巡ってこないかもしれないというのに、好機を逃がしてしまったかと思うと、つくづく悔やまれる。
 そして第二の不満は、若林にはキスをしたという自覚がない事だった。あの時キス以上の展開に持ち込めていたならば、若林にも自覚が出来ただろう。しかし現実にはこっそりキスをしたところで若林が起きてしまい、シュナイダーにはそれ以上の事が出来なくなってしまった。なので若林は、自分が気を失っている間にシュナイダーに唇を奪われているなどとは、全く気づいていなかった。
 恋焦がれている相手とキス出来た喜びで、シュナイダーは肝心なことを忘れていたのだ。相手が自分を受け入れて、キスに応じてくれたのでなくては、恋愛関係が進展したことにはならない。今の自分はただのキス泥棒だ。そのことに気づいてしまうと、何だか自分が痴漢かストーカーになった気がして、シュナイダーは却って落ち込んでしまった。
 (キス出来たのは嬉しいんだけど・・・状況は今までと何も変わってないんだよなぁ・・・)
恋が進展したと思って喜んだのも束の間、また若林を思って悶々と過ごす毎日が始まるのかと思うと、憂鬱だった。
 チームの練習を淡々とこなしながらも、今日もシュナイダーの頭の中は若林の事で一杯だった。やがて休憩時間になり、チームメイトたちはピッチの外に出て、ベンチに掛けたり地べたに座り込んだりして休み始めた。しかしシュナイダーは一人になりたくて、わざと皆から離れた位置に腰を下ろす。その様子を見ていた若林が、スポーツドリンクを片手にシュナイダーに近寄ってきた。
 「どうした、浮かない顔してるな」
シュナイダーの横に座り、若林が声を掛けてきた。自分がシュナイダーを悩ませている原因だとは、相変わらず気付く気配も無い。
 「鉄面皮の皇帝にも、悩みがあるのか?」
若林が無邪気にからかう。シュナイダーの心は若林の一挙一動によって一喜一憂しているのだが、若林には判っていない。自分がこれほど思い悩んでいるのに、悩みの原因である若林にはそれを打ち明けられない。このジレンマにシュナイダーは溜息をついた。
 「放っておいてくれ。若林には判らないことだ」
 「なんだよ。俺を子ども扱いする気か」
ホモを気色悪いと言い切った若林に、自分の気持ちは判るまい。そう思ってのシュナイダーの言葉だったが、若林には自分が見くびられたと感じられたようだ。シュナイダーは苦笑して、若林の機嫌を損ねないように言葉を補った。
 「恋愛方面の悩みだ。若林はまだ恋をした事がないんだろう。だから判るまいと言った」
 「恋愛・・・そうか。確かに俺じゃ、経験不足で助言出来ないな」
若林が言葉を濁す。ドリンクに口をつけながら何事かを考えていたが、やがて若林が再び話しかけてきた。
 「相談には乗れないけど、良かったら話してみろよ。誰かに聞いて貰うだけで、悩みは軽くなるって言うぜ」
若林が俺を気遣ってくれている。そう思うとシュナイダーの心は、温かいもので満たされていくようだった。だが若林の言葉に、素直に従うわけにもいかなかった。
 若林の気持ちは嬉しい。しかし正直に悩みを打ち明けたら、若林に引かれ、嫌われてしまう。シュナイダーはちょっと考えてから、おもむろに口を開いた。
 「実は、俺じゃなくて俺の友だちの話なんだけど・・・・・・」
シュナイダーはよくある手法で、悩みを打ち明ける事にしたのだった。しかし単なる他人の悩みと軽く思われるのも嫌だった。そこで、少し言い方を直して続きを口にする。
 「ただの友だちじゃなくて、親友、親友の悩みなんだ。そいつが、その・・・なんていうか、同性の友人を好きになってしまって・・・困ってるんだ」
 「えっ!! マジ!?」
若林の顔が驚愕でおののいた。ドリンクを取り落とし、唖然としてシュナイダーを見つめている。
 そこまで驚かなくても・・・と、シュナイダーの気分が更に暗澹たるものになる。
 (若林には、この程度の話でも衝撃なんだな・・・)
 「あ、あのさ、シュナイダー」
慌てふためいた様子の若林が、どもりながら話し掛ける。
 「確認なんだけど・・・おまえの親友って、カルツだよな?」
 「ああ。それがどうか・・・・・・あっ!!」
若林の誤解に気づき、シュナイダーは慌てて首を振った。
 「違う。カルツは親友だが、あいつの事じゃない。えーと、その、サッカーと関係ない、学校の友人だ。若林は知らないと思う」
 「な、なんだ、そうか。そうだよな。焦ったぜ〜」
若林が笑いながら言った。ドリンクのボトルを拾い上げると、シュナイダーに言った。
 「話の腰を折って悪かったな。続きを話せよ」
シュナイダーは架空の親友から聞いた話として、自分の悩みを若林に打ち明けた。形の上では他人の話だが、若林に直接話すのはこれが初めてだった。果たして若林はどんな反応を示すのか。シュナイダーは不安と期待で緊張してきた。
 シュナイダーの妙に詳しい「親友から聞いた悩み」が終わった。話を聞き終わった若林は、渋い表情で言った。
 「事情は判ったけど・・・こりゃ、確かに俺なんかが口を挟める悩みじゃないな」
 「だから、初めにそう言っただろう。でも、せっかく話を聞いたんだ。何か、思いついた事でいいから、言ってみてくれないか」
若林の率直な感想が知りたくて、シュナイダーは若林をせっついた。助言を求められていると思ったのか、若林が困ったような表情を浮かべる。
 「俺には何にも言えねぇって。俺にはその親友の気持ちは到底判らないし・・・」
 「『到底判らない』だと?」
その言葉は、暗に自分に同性愛の趣味はないと告げているようなものだった。シュナイダーの語気が思わず荒くなる。
 「だったら、ちゃんと考えてくれ! 俺・・・の親友が真剣に悩んでるんだ!」
 「悩みを抱えてるのは大変だと思うけど、俺はそいつに何も言ってやれないよ」
若林が更にこんな事を言った。
 「大体、シュナイダーだって、そいつの男を好きなるっていう気持ちは判らねぇだろ? 俺たちとは性質が違うんだから、俺たちがそいつに有益なアドバイスをする事は不可能だよ」
 「・・・・・・・・・そうか」
シュナイダーがガックリと肩を落とすのを見て、若林はよほど大事な友なのだなと推測する。シュナイダーを励ましてやりたくて、若林は色々と声を掛けた。
 「シュナイダーがそいつを心配してるっていうのは、充分伝わっていると思うよ。恋愛の趣味が違ってても、友達は友達だもんな」
 「・・・・・・・・・そうだな」
 「でも、思えば不思議だよな。なんで男なのに男を好きになるのかな」
 「・・・・・・・・・さぁな。俺も知りたいよ」
何気なく相槌を打ったシュナイダーに、ある考えが閃いた。
 「若林。試してみようか」
 「何を?」
シュナイダーの言葉に、若林が不思議そうに顔を向ける。
 「俺たちで、恋人同士の真似をしてみないか。その・・・同性愛者の考えが少しは判るかもしれない」
 「はぁ?」
若林が呆れたような声を出した。てっきり冗談だと思いシュナイダーの顔を見ると、その表情は真剣そのものだった。若林はシュナイダーが親友の悩みに心を砕いていることを、改めて痛感した。
 俺はその「親友」のことは知らないけれど、シュナイダーにとっては余程大事な奴なんだろう。そしてシュナイダーは俺の親友だ。シュナイダーが悩み、苦しんでいるなら、ちょっとでも助けになってやりたい。若林はそう思い、質問する。
 「シュナイダーは同性愛の疑似体験をすることで、少しでもそいつの力になれると思ってるんだな?」
 「あ、ああ。もちろんそうだ」
 「・・・判ったよ。で、俺は何をすればいいんだ?」
シュナイダーの心臓が大きく高鳴った。話の流れで思いついた、一か八かの提案だった。冗談だと思われ一笑に付されるか、バカなことをと怒鳴られるか、そう思っていたのに若林は話に乗ってきたのだ。
 シュナイダーはゴクリと唾を飲み込んだ。そして上ずったような声で、夢にまで見た言葉を言ってみる。
 「・・・・・・キス・・・・・・して、いいか?」
 「キス!?」
若林が慌てた声を上げる。
 「キスはちょっと・・・だって、俺まだ女ともしてないのに、それは・・・・・・」
とっくにファーストキスを奪われているとも知らず、若林が必死に言い訳をする。シュナイダーは逆に訊いてみた。
 「じゃあ、若林は何ならしてくれるんだ?」
キスが駄目でも×××や××××に応じてくれるのならソレも良し!と、シュナイダーは思ったのだが、奥手な若林がそんな不埒な発想をする筈もなかった。シュナイダーに代案を呈することが出来ず、若林は渋々頷いた。
 「でも、ここじゃ皆が見てるから、後で、どっか他人に見つからない所でやろう」
それだけ言うと、休憩時間が終わりかけているせいもあって、若林はシュナイダーの傍から離れていった。
 後に残されたシュナイダーの胸に、作戦成功の喜びがじわじわと湧き上がってきた。
 (・・・・・・・・・・やった・・・やった! やったぁーーー!!)
シュナイダーは、そう叫んでその場で踊り出したい気持ちを必死で押さえ込んだ。
 間もなく休憩時間が終わり後半の練習が開始されたが、シュナイダーの意識は練習後に待ち受けているであろう若林とのキスシーンにワープしていた。

 異様に長く感じられた後半の練習が、やっと終わった。
 シュナイダーと若林が居残りで練習を続けるのは最早恒例となっているため、チームメイトたちは二人に「お先に」と声を掛け、次々に練習場から立ち去って行く。監督やコーチもクラブハウスに引き上げ、練習場にいるのはシュナイダーと若林だけになった。
 やっと若林と二人っきりだ。
 シュナイダーはそわそわと若林を見た。しかし若林は淡々と、いつものようにボールをシュナイダーに集めて、シュート練習が出来るように準備している。シュナイダーの(物欲しそうな)視線に気づいたのか、若林が大声で言った。
 「さっきのアレ、後でいいよな?」
 「あ・・・後? ああ、判った」
お楽しみは後に取っておこう。シュナイダーはそう思い、頭を切り換えて足元のボールを若林の守るゴールに蹴った。
 ボールは凄まじい威力でゴールに突き刺さる。だが若林の反応は、一歩遅かった。
 居残り特訓の後にシュナイダーとキスしなければならないと思うと憂鬱で、集中力を削がれているのだ。
 若林とのキスを楽しみに、調子を上げているシュナイダーとは実に対照的だった。
 こんな調子で居残り練習は進み、辺りも暗くなってきて練習を切り上げる頃合になった。シュナイダーが若林に呼び掛ける。
 「若林、今日はもう上がろう」
 「えっ・・・もうそんな時間か」
 「ああ。早く片付けよう」
若林はもっと練習を続けたそうだった。いつもなら練習熱心な若林の為に、シュナイダーは若林の気が済むまで付き合ってやるのだが、今日ばかりはそうはいかなかった。さっさとボールを集め、後片付けを開始する。仕方なく若林も後片付けを始めた。
 片付けを終え、ロッカールームに引き上げる。若林が何事か考えている風情なので、シュナイダーも無駄な喋りは控える事にした。
 (きっと、キスのことを考えてるんだ。若林にしてみたらファーストキスだからな。よし、心構えが出来たら若林の方からそう言うだろうから、それまでは黙っていよう)
 こうして暫く二人とも無言で着替えをしていたが、そのうちに若林が口を開いた。
 「シュナイダー、休憩のときに言った事なんだけど・・・」
やっぱり、男同士でキスするなんて気が進まない。友達思いのシュナイダーには悪いけど、俺はそこまで付き合えない。
 若林は、そう言って断ろうと思った。だが話しかけた途中で、シュナイダーが言葉を遮った。
 「判ってる」
そう言って、ニコッと笑った。日頃は喜怒哀楽をハッキリ示さないシュナイダーが、別人のような人懐こい笑みを浮かべたので、若林は驚いた。あんまり驚いたので、一瞬何を言おうとしてたのか忘れてしまった程だった。
 シュナイダーは若林に近づくと、自分より背の低い若林の顎にそっと手を掛けて、気持ち仰向かせた。
 若林はキョトンとした顔で、シュナイダーを見上げている。
 シュナイダーは若林の両肩を、軽く押さえるように触った。
 そして。
 若林の唇に、自分の唇を重ねた。
 前回は一瞬しか触れられなかった、懐かしい感触。
 それが今は思う存分味わえる。
 (やった・・・今度こそ、若林の了解を得た正真正銘のキスだ!)
シュナイダーは夢見心地で、若林の唇の感触を楽しんだ。
 しかし断る間もなくキスされてしまった若林は、楽しいどころではない。
 (うわーーーーっ!!!)
 キスされた瞬間、若林の身体がビクッと強張った。反射的に相手を押しのけようと手を伸ばす。
 だがシュナイダーは若林の肩をしっかり押さえつけ、そのままキスを続ける。
 更に自分を突き飛ばそうと伸ばされた手をすかさず掴み、そのまま壁際に押し付けて動きを封じてしまった。
 (若林、恥ずかしいんだな。大丈夫、俺がリードしてやるから・・・)
 (いつまでやってんだ、この野郎! いい加減離せーーーっ!!)
全く正反対の事を考えながら、二人のキスは延々続いた。若林としてはさっさと止めたかったのだが、シュナイダーに意外な程の怪力で壁際に押さえ込まれ、どうにも抜け出せないのである。
 (離せぇーーー!!)
上半身は抵抗出来ないが、脚なら動かせる事に漸く気づき、若林はシュナイダーの足を思いっきり踏みつけた。
 「うわっ!」
思わずシュナイダーが顔を離す。若林を押さえ込んでいた力も緩んだので、若林はここぞとばかりにシュナイダーを押しのけた。
 「長いんだよ! もう、いいだろう!」
そう言う若林の顔は、怒りの為か羞恥なのか真っ赤だった。そしてシュナイダーに背を向けると、着替えの続きを始める。シュナイダーは慌てて、若林の背中に話しかけた。
 「若林、もしかして怒ってるのか」
 「・・・当たり前だろ。もっと軽いキスかと思ったのに、あれじゃまるで・・・」
 「恋人同士?」
若林は答えない。しかしシュナイダーは知りたかった。若林は自分とキスして、どんな気持ちになったのだろう。
 知りたい。若林の気持ちを何としても知りたい。
 シュナイダーは若林の横に回り込み、更に問い質す。
 「若林、俺とキスしてどうだった? その・・・同性愛者の気持ちとか、ちょっとは判ったか?」
 「判らん! 俺には、さっぱり判らん!」
シュナイダーの方を見ないまま、若林は大急ぎで着替えを終わらせた。
 「悪いけど、俺、今日は先に帰る。じゃあな!」
逃げるように立ち去ろうとするのを、シュナイダーは腕を掴んで引き止めた。
 「教えてくれ。若林。おまえは俺とキスして、何を感じた?」
真剣そのものの問いかけに、若林の足が止まった。
 そうだ。俺は悩みを抱えた友人の気持ちを理解したいというシュナイダーの為に、キスの相手をすると約束してたんだ。このまま何も言わないで帰ってしまったら、何の為にキスしたのか判らなくなる。
 幾分冷静さを取り戻し、頭ではそう思ったものの、まだ感想をとうとうと述べられるほど落ち着いてはいない。
 「シュナイダー・・・おまえは、どうだった?」
何をどう言ったらいいのか判らず、仕方なく若林は質問を返した。
 今度はシュナイダーが返事に詰まった。
 自分の答えは決まっている。だが、それを今言ってしまっていいのだろうか。
 若林は俺を受け入れてくれるだろうか。
 キスには応じてくれた。しかしそれは嘘を固めて、強引に約束を取り付けたからだ。
 告白したい。
 でも、嫌われたくない。
シュナイダーは言葉を失った。シュナイダーが俯いたきり何も言わないのを見て、若林は苦笑した。
 「なんだ。シュナイダーだって、答えられないんじゃないか。やっぱり、一ぺんキスしたくらいじゃ、何にも判んねぇよ」
 「・・・・・・俺は・・・」
 「ん?」
 「俺は、判る・・・気がする」
シュナイダーはゆっくりと口を開いた。
 「俺は若林とキスして、気持ちよかった。俺は、若林とだったら・・・・・・」
そこまで言って、シュナイダーは若林の顔を見た。
 若林の表情は、かつて見たことが無いほどの驚愕を浮かべていた。それがただの驚きではなく、嫌悪を含んだものだと気づき、シュナイダーは焦った。
 「なーんてな!」
大声で言葉を付け足すと、作り笑いを浮かべる。
 「全く、若林はすぐ引っ掛かるんだな。俺がそんなワケ、ないだろう?」
 「なっ・・・・・・シュナイダー! てめえ!!」
自分がからかわれていたのだと知らされ、若林が怒鳴る。
 「真剣に相談に乗ってやってんのに! くっそー、腹立つなぁ!」
口では忌々しそうに言うものの、さっきのような嫌悪感は感じられない。シュナイダーは胸を撫で下ろした。
 「頭来た! もうおまえの悩みなんか、絶対に聞かないからな!」 
 「悪い悪い」
その後は当たり障りの無い雑談が続き、二人の間に漂っていた微妙な空気は跡形も無く消えてしまった。いつものように二人連れ立って帰り、いつものように分かれ道で手を振って別れた。
 何もかもがいつも通りだった。
 シュナイダーにはそれが嬉しくもあり、切なくもあった。
 「今日こそ、一歩進めたと思ったのに・・・・・・」
遠ざかっていく若林の後姿を見送ると、シュナイダーは溜息をついた。そしてトボトボと家路を辿るのだった。

 「今日は参ったなぁ」
家に帰り着いた若林は自室で、独り言のようにぼやいた。
 なんであんな見え透いた悪戯に引っ掛かってしまったのか。思い出すたびに腹が立つ。
 それにしても「親友の悩み」を打ち明けた時の深刻さや、ニセの告白をした時の思い詰めた様子などを思い返すと、シュナイダーの役者振りには感心するほか無いとも思う。
 「あーあ。俺、男とキスしちゃったんだな」
無意識に唇に指を当て、キスされた時のことを思い出す。
 (あいつ、キスの前に珍しく笑顔を見せてたんだよな。それで、驚いちゃって・・・)
脳裏に今日見たシュナイダーの笑顔が浮かぶ。クールなイメージのシュナイダーの笑みが、あんなにも人懐っこいとは思わなかった。そしてそのまま顔が近づいてきて・・・・・・。
 「うわ、何考えてんだ、俺!?」
キスの瞬間を繰り返し思い浮かべていることに気づき、若林は頭を振って邪念を追い払った。
 「ったく、シュナイダーの奴が悪趣味な悪戯するからだ!」
ほんの少しだが、若林のシュナイダーに対する印象に変化が生じていた。しかし、そのことにはシュナイダーはもちろん、若林本人すらまだ気付いていないのだった。
つづく