「決めた! 若林の涙を俺が優しく受け止めてやる!!」

 この日の翌日。若林はチームの練習が終わると、いつもどおりにシュナイダーとの居残りの練習を始めようと準備を始める。ところが何を思ったか、シュナイダーは若林の背後に周ると、突然若林の身体をぎゅうっと抱しめた。
 腕ごと押さえ込む形で後ろから抱きすくめられて、若林は動きが取れなくなる。若林は後ろを振り返りながら、訝しげに尋ねた。
 「シュナイダー? 何やってんだ?」
 「若林、無理をするな」
 「無理って、おまえが離れてくれれば楽なんだけど」
 「そうじゃない! えーと、今まで色々大変だっただろう? 若林の性格じゃ人前で泣いたり出来ないだろうけど、俺の前でなら強がることはないんだぞ」
 唐突なシュナイダーの台詞に、若林は首を傾げる。
 「何の話だ?」
 「だーかーらー! 若林にだって、泣きたい時があるだろう? そういう時は俺の胸で存分に泣けといってるんだ」
 「いや、別に泣きたくないし」
シュナイダーの言いたい事が理解出来ず、若林はだんだん苛々してきた。
 「すると何か? シュナイダーは俺が人目につかない所で、メソメソ泣いてるとでも思ってんのか? バカにするな!!」
 そう叫ぶと、若林が強引にシュナイダーの腕を振り解いた。
 「的外れな同情は止めてくれ。鬱陶しい!」
若林が怒っているのが判り、シュナイダーは焦った。自分に背を向けて歩き出した若林に向かって、シュナイダーが弁解を始めた。
 「待て、若林。それは誤解だ!」
 「何がごか・・・うわっ!」
立ち去ろうとする若林を引きとめようと、シュナイダーが肩を掴んだ。若林は振り向きざまにその手を払いのけようとしたが、シュナイダーが手を離さなかった為、勢い余ってバランスを崩した。
 受け身を取れない体勢で、若林が派手にすっ転ぶ。
 予期せぬ展開に動転しながら、シュナイダーが若林を助け起こした。
 「若林っ! 大丈夫か?」
 「騒ぐなよ。全然平気だって」
頭を押さえながら、若林が起き上がる。しかし平気だと言いながらも、ぶつけた箇所が痛むらしく顔をしかめている。
 シュナイダーは見逃さなかった。
 不機嫌そうに俯く若林の目じりに、きらりと光るものがある事を。
 「若林!!」
 「うるせぇな! なんだよっ?」
 「泣きたい時は、俺の胸で・・・」
両手を大きく広げて迫ってくるシュナイダーを、若林は思いっきり蹴り倒した。
おわり