お子様クリスマス
「若林、クリスマスには何が欲しい?」 若林の上から身体を起こしたシュナイダーが、汗と精液にまみれた裸身をベッドに横たえながら尋ねた。だらしなく四肢を広げて快感の余韻に浸っていた若林は、ぼんやりとした眼で横に寝ている恋人の方を見る。 この日は12月7日、若林の誕生日だった。誕生日のお祝いだからと普段よりも濃密なサービスをされて、若林は何度となく達ってしまった。その余韻が強過ぎて、行為が終わった今もまだ意識が朦朧としている。 「・・・クリスマス?」 「ああ。ウィンターブレイクの真っ最中だし、勿論今日みたいに二人で過ごすだろう?」 シュナイダーは若林の顔に唇を寄せ、ついばむような軽いキスをしながら囁いた。嵐のように激しい情事の波に呑み込まれて、すっかり感じやすくなってしまった若林は、こんなソフトな刺激にすら甘い息を洩らしてしまう。何も答えず、ただはぁはぁと息を弾ませる若林にシュナイダーが提案する。 「欲しい物があったら、何でも言ってくれよ。まぁ、俺は今日と同じでも構わないけど・・・」 キスをしながら嬉しそうに話しかけてくるシュナイダーと比べると、若林のテンションはいささか低い。「今日と同じでも構わない」という台詞に、若林は内心で溜息をついた。 シュナイダーから誕生日に何が欲しい?と聞かれた時、若林は「シュナイダーが傍にいてくれれば、それでいい」と答えていた。若林の言葉に深い意味は無く、文字通りシュナイダーと一緒に過ごせるだけで良かったのだが、シュナイダーは妙な方向に深読みしてしまったらしい。 お陰で今日は明るいうちからベッドに連れ込まれ、何時間も延々とセックスを繰り返す羽目になってしまったのだった。若林とてシュナイダーと肌を合わせるのは嫌ではないが、物には限度というものがある。連続で何度も絶頂を迎えさせられ、スペルマが出尽くしてしまっても更に達かされた。アナルには今もシュナイダーを受け入れたときの快感が色濃く残り、腰から下は疲れきってぴくりとも動かせない有様だ。 (何もいらないって言ったら、また今日と同じ事をする気だろうな・・・) 若林は顔を動かしてキスの雨から逃れるようにしながら、シュナイダーに告げた。 「欲しい物なら、あるぜ」 シュナイダーがキスを止め、興味深そうな眼で若林の顔を見る。 「何が欲しいんだ? 内容を教えてくれ」 「なんでも・・・」 本当に欲しい物がある訳ではないので、つい何でもいいと言いそうになってしまった。しかし、この答ではまたシュナイダーに深読みされてしまうかもしれないと気付き、若林は言葉を取り繕った。 「プレゼントは、形があって後に残る物なら何でもいい。シュナイダーが選んでくれる物なら、何でも嬉しいし」 「形があって後に残る物じゃないと駄目なのか?」 シュナイダーが確認するように問い掛けるのに、若林はここぞとばかりに頷いた。 「ああ。俺はお前とプレゼント交換がやりたいんだ。だから、ちゃんと形あるプレゼントが欲しい」 「プレゼント交換? 子供みたいだな」 からかうようにシュナイダーに言い返され、若林は苦笑いを浮かべた。しかし『形ある物』を強調するつもりで、ついプレゼント交換などと言ってしまったが、これはこれで結構楽しいかもしれない。 大人の夜は、今日充分過ぎるほどに味わった。クリスマスの夜は聖夜の名に相応しく、子供のように清らかに過ごしてもいいんじゃないだろうか。しかし若林の思惑など気付かないシュナイダーは、プレゼントの候補にとんでもない物を思い描いていた。 「それじゃ、俺は若林に下着を贈ろうかな。雑誌で見たんだけど、若林に似合いそうなのがあったんだ。黒い革製で、ペニスの部分には穴が空いてて、Tバックになってる・・・」 「やめてくれ」 「じゃあ、アクセサリーはどうだ。コックリングとチェーンで繋がってるニップルクリップとか。若林は乳首も敏感だから、きっと・・・」 「いやだ」 そんな物を贈られたら、その場で身に付けさせられ、そのままセックスに雪崩れ込むのは目に見えている。若林が首を横に振ると、シュナイダーが不満そうに頬を膨らませた。 「俺が選ぶ物なら、何でも嬉しいんじゃなかったのか?」 「もっと普通の物がいい。そうだな・・・身につける物でいったら、パジャマとか」 「パジャマ?」 シュナイダーが意外そうに聞き返す。 「若林は寝る時にパジャマなんか着ないだろう。いつも全裸で・・・」 「それは、シュナイダーが一緒だからだ! 一人の時はパジャマなんだよ」 顔を赤らめて若林が言い返すと、シュナイダーがクスッと笑った。そして若林の身体に腕を回し、いとおしげに抱き締める。 「判った。若林に似合うパジャマを見つけておくよ・・・そうだ。プレゼント交換なんだから、若林も俺に何かくれるんだよな。俺もリクエストしていい?」 逞しい腕に抱きすくめられながら若林が頷くと、シュナイダーが若林の耳元に囁いた。 「じゃあ俺は・・・サンタクロースのコスチュームが欲しい」 「サンタクロース? 聖ニコラウスの事か?」 若林は不思議に思って聞き返した。それと言うのも、ドイツにはサンタクロースがいないからだ。 子供達にプレゼントを配るのは聖ニコラウスという聖人で、従者を伴いクリスマスではなく12月6日に子供たちの家を廻る。その家にいるのがいい子ならば聖ニコラウスはプレゼントを与えるが、悪い子ならば従者に命じて罰を与えるのだ。 しかしドイツの子供たちがクリスマス当日にはプレゼントを貰えないのかと言えばそうではなく、クリスマスにはクリストキンドと呼ばれる「幼いキリスト」が来てプレゼントをくれる。 いずれにせよ、赤いコートに身を包んだ恰幅のいい白ヒゲの老人は、ドイツでは馴染みの薄い存在である。なので若林はシュナイダーの言葉に疑問を抱いたのだった。 「サンタクロースだよ。前に若林が教えてくれただろう? 日本じゃクリスマスにサンタの爺さんが来て、プレゼントを配るんだって」 そしてシュナイダーは、昨今ではドイツにもサンタクロースがいると説明してくれた。大きなデパートやショッ ピングセンターでは、クリスマスのキャラクターとして日本でも御馴染みのサンタクロースがお目見えしているのだという。 店側にしてみれば、クリスマスにプレゼントを贈るキャラクターが増えれば、クリスマス商戦の売り上げ拡大に繋がるという目論見があるので、積極的にサンタクロースの存在をアピールしているのだろう。パーティーグッズを扱う店では、サンタクロースのコスチューム一式を売っている所もあるらしい。 「だからさ、そのサンタのコスチュームが欲しいんだ」 真面目な顔でシュナイダーがリクエストするのを聞いて、若林は可笑しくなってしまった。ドイツにもサンタクロースがいるのは判ったが、何故シュナイダーはその衣装を欲しがるのだろう? 太っちょサンタの仮装をしたシュナイダーを想像して、若林はつい吹き出してしまった。 「そんなもんでいいのか? ・・・っていうか、お前本当にそんなもんが欲しいのか?」 「欲しいよ。俺がクリスマスにプレゼントを渡すのは、若林だけだからな。俺は若林専用のサンタクロースになってみたいんだ」 暖かな微笑みと共にサンタコスチュームを欲しがる理由を告げられて、若林は嬉しいような恥ずかしいような気分になる。若林は照れを隠すように顔をそむけ、わざと呆れたような声で言った。 「なんだよ、それ。くだらねぇ」 「そう言うな。俺はやってみたいんだ。だから、頼むぜ」 そむけた頬にちゅっとキスをされて、若林は顔を紅くしながら頷く。 (シュナイダーがサンタ・・・サンタと過ごすクリスマスか) サンタクロースが家に来るなんて趣向は、子供の頃のクリスマスでもなかった事だ。それがこの歳になって、クリスマスにサンタクロースを迎えることになろうとは。 衣装を贈るだけではなく、何か演出を考えてみようか。若林は心密かに思った。 クリスマス当日、約束の時刻に若林の家を訪れたシュナイダーは、今までとは庭の様子が一変している事に気付いた。植え込みや庭木に電飾が絡ませてあり、それが闇の中で何色もの明るい光を瞬かせているのだ。よく見ると木には電飾だけでなく、枝一杯に可愛らしいオーナメントが数多ぶら下げられていた。中々手の込んだ立派なクリスマスツリーである。そして玄関ドアの前には、こまごまとした飾りが散りばめられた大きな緑色のリースが掛けられていた。 ツリーもリースもこの時期珍しくも何ともないが、それが若林の家にある事にシュナイダーは目を丸くする。 「若林の奴、どういう風の吹き回しだろう?」 アドヴェント(待降節・クリスマス前の約一ヶ月間)に突入すると、ドイツでは家にクリスマスの装飾を施すのが普通だ。しかし若林はそうした事に無頓着で、今まで一度もこんな飾りつけをした事がなかったのである。 如何なる心境の変化かと思いながら、シュナイダーはチャイムを鳴らす。すぐにドアが開かれて、若林が笑顔で出迎えてくれた。 「おう、シュナイダー。フローエ・ヴァイナハテン」 「フローエ・ヴァイナハテン!」 クリスマスの挨拶を交わしてから、シュナイダーは若林にクリスマス飾りの事を聞いてみた。すると若林は笑顔のまま理由を教えてくれた。 「うちにサンタクロースが来るなんて初めてだからな。歓迎のつもりで、やってみたんだ」 若林の言うサンタとは自分の事だと気付き、シュナイダーの顔が綻ぶ。 「じゃ、俺の為に? ありがとう、若林!」 シュナイダーは若林の身体を抱き寄せると、優しくキスをして感謝の意を示した。シュナイダーが喜んでくれたので、若林も嬉しそうだ。 「とにかく、飯にしようぜ。食堂に用意してある」 コートを脱いだシュナイダーは、若林に誘われるままに食堂に足を踏み入れた。食卓には温かい夕餉のメニューが用意されており、美味しそうな匂いがシュナイダーの食欲を刺激する。シュナイダーが席に着くと、若林が飲物を出してくれた。それはグラスになみなみと注がれた真っ白い液体・・・牛乳だった。 若林のもてなしに文句をつけたくはないが、シュナイダーから見るとこれは頂けない。恋人と二人きりで過ごすロマンチックなひと時、食卓に相応しいのはワインかシャンパンではなかろうか。子供じゃないんだから、せめてビールは欲しいところだ。牛乳の注がれたグラスを見下ろしながら、シュナイダーは不満を漏らす。 「若林、グリューヴァインくらいないのか?」 「今日は酒はなし! サンタクロースへのもてなしは、クッキーにミルクと相場が決まってるからな」 「それ、本当なのか?」 半信半疑のシュナイダーが聞き返すと、若林は自信満々に頷いて見せた。 「本当さ。まぁ、クッキーじゃ腹が膨れないだろうから食事は用意したけどな。今日はサンタクロースらしく、飲物はミルクで我慢してくれよ。俺も飲むからさ」 若林は自分の席にも牛乳を用意しながら、笑顔で言った。しかしサンタクロースへのもてなしの内容が決まっているというのは、口から出任せである。若林が子供の頃に読んだ絵本に、子供達がサンタクロースへのお礼としてクッキーとミルクを用意して、それからベッドに入る・・・という描写があったのをたまたま思い出しただけなのだ。 「なるほど。それなら今日はミルクで我慢するか」 若林の説明に納得してくれたのか、シュナイダーは若林に向けて牛乳入りのグラスを小さく掲げて見せた。若林も同様にグラスを掲げると、シュナイダーのグラスに軽くぶつけて乾杯をした。 時間を掛けてゆったりと食事を楽しみ、腹が膨れたところで、本日のメインイベント(?)であるプレゼント交換をする事になった。居間に場所を移すと、若林は用意しておいた衣装ケースをシュナイダーに差し出す。太いリボンが巻かれた大きな衣装ケースを見せられ、シュナイダーは驚いた。 「随分でかい箱だな」 パーティーグッズの店で見かけたサンタ衣装は、生地がペラペラでこれ程かさばりそうになかった事を思い出し、シュナイダーは衣装以外にも何か入っているのかと推理する。その点を若林に聞いてみると、サンタの衣装以外何も入っていないと笑われた。 とにかく中を見てくれと言われ、シュナイダーはリボンを解いた。箱を開けると、中には柔らかい厚手の生地で縫われた真っ赤なコートが納まっていた。ツルツルした手触りの安っぽいパーティー衣装を想像していたシュナイダーは、上等な生地を使った仕立てのいいコスチュームに思わず溜息を洩らす。 襟と袖口、裾に白いファーをあしらった赤いハーフコートは見るからに暖かそうだった。コートの下には同じ生地を使ったたっぷりとしたズボンに、ファーの付いたサンタ帽子。黒革の手袋が一組。大きなバックルのついた太い革ベルト。そして足首のやや上で折り返したデザインの、黒い革ブーツ。 日本では絵本やグリーティングカードでお馴染みのサンタクロースの衣装が、イメージそのままに忠実に再現されている。 「驚いたな・・・既製品のコスチュームを買ったんじゃなくて、わざわざ誂えたのか」 早速コートに袖を通しながら、シュナイダーが感心したように呟く。サンタ衣装をねだったのは自分だが、まさかここまで質のいい物を用意してくれているとは思っていなかったのだ。 「ああ。シュナイダーに着て貰うんだから、安物なんか買えねぇよ。信頼のおける店に細かく注文をつけて、作って貰ったんだ・・・あ、そうだ。それからこれな」 若林が思い出したように、小さな紙袋をシュナイダーに手渡す。中を開けると、そこには仮装用のサンタの白ヒゲが入っていた。 「さすがに付けヒゲは作って貰えなかったんで、これだけはパーティーグッズの店で買ったんだ」 「小道具も完璧だな。若林、ありがとう!」 笑顔で礼を述べると、シュナイダーはその場で衣装を身に付け始めた。ズボンを履き替え、コートのボタンをはめると太いベルトでウェストを締める。ブーツに履き替え、手袋を填め、真っ赤な帽子を被ってから最後に真っ白な付けヒゲを顔に付けた。 本日のスペシャルゲスト、サンタクロースの登場だ。 「どうだ?」 顔の半分を白ヒゲに覆われたシュナイダーが、腰に手を当ててポーズを取って見せた。サンタクロースにしてはちっとも太っていないので、貫禄や愛嬌がちょっと足りないように見える。それに若々しい肌に白い付けヒゲは明らかにミスマッチで、若林は吹き出してしまった。するとシュナイダーが自分の衣装に目を落とし、ガッカリしたような口調で尋ねる。 「おい、そんなに変か?」 「え? 違うって! すげぇ似合ってるよ!」 笑いながらも、若林がフォローする。付けヒゲは不自然だが、衣装自体はシュナイダーの体躯にぴったり合っており、颯爽とした立ち姿はお世辞抜きで本当に決まっていたからだ。若林は冗談めかして言った。 「シュナイダー、その格好で街に出てみろよ。俺だけが見てるの、勿体無い気がしてきた」 「駄目だ。俺は若林だけのサンタクロースなんだから」 自分が口にした言葉で、シュナイダーはまだ若林へのプレゼントを渡していなかった事を思い出した。シュナイダーは咽喉に力を入れ、わざと年寄りじみた声色を出すと明るく言った。 「じゃあ、良い子にしていた源三くんに、今度はサンタのおじさんからプレゼントだ!」 シュナイダーは持参していた紙袋の中から、緑色の包装紙に包まれたプレゼントを取り出した。それを手渡され、若林は笑顔で礼を述べる。 「ありがとうな。シュナ」 「名前で呼ぶなよ。今の俺はサンタクロースなんだぜ?」 シュナイダーに釘を刺されて、若林は調子を合わせて礼を言い直す。 「サンタのおじさん、プレゼントありがとう!」 そしてその場で包みを開けると中身を取り出した。前ボタンタイプのゆったりしたパジャマで、淡いグリーンの生地にはサッカーボールの絵がプリントされてあった。サイズは間違いなく大人用だが、何となくデザインが子供っぽい。しかしそこが却って今日の演出には合ってる気がして、若林は気に入った。若林は笑顔でもう一度礼を言った。 「サンタさん、ありがとう!」 「どういたしまして。若林、すぐ着てみろよ」 勧められるままに若林はシュナイダーの前で服を脱ぎ下着姿になると、グリーンのパジャマを身につける。 「お、サイズもぴったりだな。ありがとう、シュナ・・・サンタさん!」 目の前の相手の衣装を見て、若林は呼び掛けを言い直した。初めて見る若林のパジャマ姿がとても可愛く見えて、シュナイダーは嬉しそうに目を細めた。 二人はそのままの格好で暫く雑談をしていたが、夜も更けてそろそろ寝ようかという時間になった。ところが当然の如く若林の寝室へ向かうシュナイダーを、若林が呼び止めて別の部屋へと案内する。そこが客用の寝室だったので、シュナイダーは若林に尋ねた。 「今夜は客室でするのか? 俺はいつもみたいに若林のベッドがいいんだけど」 「そうじゃねぇって。俺は自分の部屋で寝る。ここで寝るのはシュナイダーだけだよ」 途端にシュナイダーが眉をひそめ怪訝な顔つきになったのが、顔半分が白ヒゲに覆われていてもハッキリと判った。 「別々に寝るって言うのか? 何故?」 「・・・んー。確固たる理由はないんだけど・・・今日はクリスマスで、シュナイダーはサンタクロースだろ? 何ていうか、そういう気分にならないんだよなぁ」 若林はシュナイダーの顔と出で立ちを眺めながら、言葉を続ける。 「ツリーとか飾ったり、サンタクロースにプレゼント貰ったり、俺、こんな風にクリスマスを過ごすの初めてなんだ。だから・・・子供っぽいって笑われそうだけど、この楽しい雰囲気のまま今日は眠りたいんだ。どうかな?」 さりげない口調でお伺いを立ててみると、意外にもシュナイダーはあっさり頷いてくれたのだった。 「判ったよ。今夜は聖夜だしな。今日は特別、って事で」 「ありがとう、シュ・・・サンタさん」 若林は顔を近付け、白いヒゲに覆われた頬におやすみのキスをした。するとサンタクロースの方でも、若林の頬にキスをしてくれた。ヒゲが顔に当たって、ちょっとくすぐったかった。 「おやすみ、若ば・・・源三くん」 「ああ。おやすみ、サンタさん。また明日」 そして名残惜しそうなシュナイダーを客間に残して、若林は部屋を出て行った。 自分の寝室に戻った若林は、ベッドの上で思いっきり身体を伸ばした。 「これで今日はゆっくり眠れる・・・」 駄目で元々のつもりでいた計画が思いの外上手く運び、若林は安堵の息をつく。シュナイダーには悪い気もするけど、お陰で今夜はのんびりと身体を休める事が出来る。 若林の計画とは、サンタクロースを歓迎する演出にかこつけて、シュナイダーとのセックスを断る事だった。食事の時に酒を出さなかったのも、酔いのせいでエロチックな雰囲気になるのを敬遠しての事である。 シュナイダーと若林は深く愛し合う仲だが、セックスに関しては二人の間には温度差があった。若林は週に一度もすれば充分だと思っているのだが、シュナイダーは機会さえあれば毎晩でもやりたがる。しかも一晩の間に何度もしようとするのだ。受け入れる側の若林は、これではとても身体がもたない。 しかし、やりたくないからとシュナイダーを拒絶して、結果二人の間に溝が出来たりするのは嫌だった。そこで若林は、ロマンチックなムードではなく、明るく楽しいアットホームな雰囲気になるように今夜のホストを務め、それとなくシュナイダーを遠ざけたのだった。 ベッドに仰向けに寝そべった若林は、視線を 自分の着衣に向けた。肌触りが気持ちいい、真新しいグリーンのパジャマ。サンタのシュナイダーがくれた、クリスマスプレゼント。 シュナイダーに抱かれていなくても、今夜はシュナイダーの心に包まれて眠る事が出来る。 そう思うと胸にじんわりと幸福感がこみ上げてきた。 (おやすみ、シュナイダー。いい夢を・・・) 若林は部屋の照明を消すと、ベッドの上で布団を被りそっと瞼を閉じた。 |