「俺は見てるから、お前ら好きにしろ」
若林は苦笑しながら井沢に言った。今日は昔馴染みだけが集まっての無礼講だが、流石に服を脱ぐゲームをするのは照れ臭いし恥ずかしい。
「えぇー、若林さん、やらないんですか?」
井沢との会話が聞こえたのか、森崎が残念そうに聞いてくる。若林は頭を掻きながら、言い訳をした。
「悪いな。俺は今日誕生日だから、大目に見てくれよ」
これを聞いて、一同はパッと顔を輝かせた。
「えっ、そうだったんですか? おめでとうございます〜!」
「若林さん、誕生日おめでとうございます!」
「そういや、今日は12月7日かぁ。いけね、知ってたのに、俺うっかりしてた・・・若林さん、おめでとうございます」
口々にお祝いを述べられ、続いて乾杯をして貰い、若林は機嫌よく皆に礼を述べる。お祝いムードがちょっと落ち着いたところで、高杉が口を開いた。
「じゃ、若林さんはそっちのお誕生日席で勝負を見てて下さいよ」
「お誕生日席?」
「そっちの、ベッドの上です」
皆は絨毯張りの床に直に座って車座になっていたのだ。一段高くて、クッションの効いたベッドは、この場では正しく特等席と言えた。なるほどと頷き、若林は缶ビールを片手にベッドに上がりこむと胡坐をかいた。
それからくじ引きで野球拳の対戦組み合わせが決められた。その結果、一回戦は滝対来生、二回戦が高杉対井沢対森崎の三つ巴戦。三回戦は一回戦と二回戦の勝者が対戦して優勝者を決めるという事になった。
「それじゃあ、一回戦始め〜!」
滝と来生が立ち上がると、周りの者が手拍子と共に大声で歌を囃し始めた。
「アウト!」
「セーフ!」
「よよいのよいっ!」
ポンポンとテンポ良く勝負は進み、男同士の気楽さで二人はどんどん服を脱いでいく。そのうちにどちらもパンツ一枚になってしまった。これ以上続けたら、負けた方は全裸になってしまう。
(この勝負、引き分けって事でここで終わりだな)
若林はそう思ったのだが、何とそのまま勝負は続行されてしまい、負けた滝は皆にやんやと冷やかされながらパンツを脱いでスッポンポンになってしまった。
「いい脱ぎっぷり!」
「滝、かっこいーぞー!」
変に隠そうとせず、堂々と裸になった滝に酔っ払い連中の賞賛が飛ぶ。滝はおどけた仕草で周りの声援に応えてみせると、全裸のまま腰を下ろしてまた酒を飲み始めた。勝利者である来生も服を着ようとはせず、パンツ一枚の姿で新しい缶ビールに口をつけている。どうやらこの勝負、終わったからといって服は着ないのがルールらしい。
(悪乗りし過ぎだなぁ。やっぱり参加しなくて正解だったな)
自分が参加しなくて良いのなら、知った連中が服を脱ぎながら騒いでいる様子を見ているのは、結構面白かった。ゲームに参加してない見物人の気楽さで、若林はのんびりビールを口に運ぶ。二回戦は三人での勝負という事もあって、一回戦より決着が着くのに時間が掛かった。賑やかに囃し立てる声や手拍子を聞きながら、若林も楽しい気分で酒を飲み続ける。
「よよいのよいっ!」
「よよいのよいっ!」
「よよいの・・・・・・」
酒が回ってきたらしく、騒がしい声に囲まれているというのに若林は眠くなってしまった。身体を起こしているのが億劫になったので、若林はビールの缶を脇にあったデスクに置き、だるくなった身体をベッドに横たえた。寝そべりながらも顔だけは皆の方に向けて盛り上がる勝負を見ていたのだが、いつの間にか野球拳の囃し声を子守唄に眠ってしまった。