若林はシュナイダーが話し終わるまで、大人しく待つ事にした。椅子に座り直すと、顔だけはシュナイダーの方に向けて、彼の様子をじっと見守る。シュナイダーの話が途切れたらすぐに声を掛けて、一緒に帰るつもりだった。
 しかしそんな若林の様子が退屈しているように見えるのか、入れ替わり立ち替わり色んな相手が酒を勧めながら若林に話しかけてきた。もう飲めないからと穏便に断っても、若林の体格がいいからか、そんな事はあるまいと強引に勧められる。若林は見掛けの印象と違い酒には強くないのだが、皆が飲んでいるのに自分だけ断っているのも興醒めな気がして、ちびちびとだが再び酒を飲み始めた。
 ジョッキを傾けながらも、若林はシュナイダーが気になっていた。他の者と話しながらも、目線はチラチラとシュナイダーの方に向けている。
 だが、若林の期待に反して、シュナイダーの話は一向に終わりそうになかった。離れているので何を話しているのか聞き取ることは出来ないが、翼や岬と共に楽しそうに話を続けている。
 (なんだ、あいつ・・・俺と二人で過ごしたいとか言ってたくせに、翼たちと随分楽しそうにしているじゃないか)
元はと言えば自分がシュナイダーをここに呼び寄せたのだが、何となく面白くなくなってきて若林は一気にジョッキを呷った。若林の飲みっぷりを見て、この時傍にいた連中が歓声をあげる。
 「若林さん、いい飲みっぷり!」
 「なんだ、飲めないとか言って、やっぱり飲めるんじゃねぇか」
 「若林さん。もう一杯、頼みますか?」
 「ああ、頼む。今日は俺の誕生日だからな。祝杯だ!」
これを聞いて、若林の周りは一気に盛り上がった。
 「若林さん、お誕生日おめでとうございます!」
 「お前、誕生日だったのか〜。よーし、皆で乾杯しようぜ!」
 「おーい、こっちにビールお代わりだー!!」
たちまち追加のビールが運ばれてきて、続けざまに何度も乾杯が行われた。口々にお祝いを述べられて、若林の機嫌も良くなった。アルコールが全身に回り、身体がすっかり熱くなってきたが、酔って自制心を失っていた若林は酒量を控えようとはしなかった。
 そして若林は勧められるままに何度もジョッキを空け・・・・・・いつしか意識を失っていた。

 額に誰かの掌がそっと乗せられるのを感じて、眠っていた若林は薄く眼を開けた。
 (シュナイダー・・・?)
だが、自分の顔を心配そうに覗き込んでいたのは、恋人のシュナイダーではなかった。今回の遠征チームを率いていた、監督の見上だった。
 「・・・見上さん?」
 「気がついたか、源三」
ベッドに仰向けに寝ていた若林は身体を起こそうとしたが、見上に押し止められた。寝そべったまま辺りを見回した若林は、ここが自宅でも日本代表チームが泊まっていたホテルでもなく、病院の中であることに気付いた。
 「見上さん、俺は一体・・・?」
 「覚えてないのか。仕方のない奴だ」
見上は苦笑しながら、若林に事情を説明してくれた。
 「お前は飲み過ぎて、居酒屋で倒れてしまったんだ。単に酔い潰れただけならいいが、もし万一の事があったら大変だからな。翼から連絡を貰った俺が、この病院にお前を入院させたというわけだ」
 「・・・そうだったんですか。すみません、見上さん」
若林は仰向けに寝そべったまま頭を小さく動かし、目を伏せて詫びた。萎れきった様子の若林を見て、見上は元気づけるように言った。
 「まぁ、起きてしまった事は仕方がない。今はゆっくり休む事だ」
 「あの、皆は・・・?」
 「ホテルに帰したよ。皆お前の事を心配して、傍についてると騒いでいたが、病院に酔っ払い集団が居座ったんじゃ迷惑だからな」
 「・・・シュナイダーも?」
 「ああ。彼にも帰ってもらった。お前の事をとても心配していたぞ」
見上の言葉に、若林は申し訳ない気持ちで一杯になる。自分のせいで楽しい飲み会が台無しになってしまった。そしてシュナイダーにも、とんでもない迷惑を掛けてしまった・・・。
 「源三、今後は誕生日だからといって、調子に乗って深酒なんかするなよ」
詫びても詫びきれない気持ちで、若林は力なく頷いた。
バッドエンド2
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