抱き合ったまま達してしまった二人は、共に味わった快楽の余韻が強すぎてそのまま暫く
離れられなかった。やがて、上に乗っていた翼が上半身を起こしたが、何故か下半身は若林に密着させたまま抜こうとしなかった。どきかけた翼がそのまま動かなくなってしまったので、若林は不審に思い声を掛ける。
「つばさ・・・?」
「若林くん、このまま、もう一回いい?」
翼が興奮冷めやらぬ様子で、若林に言う。
「俺、こんなすごいの、初めてなんだ。何べんでもやりたい。いちいち抜く時間が惜しい。このまますぐに若林くんの中で、気持ちよくなりたいんだ・・・」
そう話しながら、早くも翼は腰を揺すり始めていた。それにつれて若林の中で柔らかくなっていた翼の一物が、徐々に固さを取り戻し始めている。翼が自分との行為でそこまで満足してくれたのかと、若林は嬉しさがこみ上げる。翼を慕う若林に異存があろう筈もなく、二人はそのまま何度も情交を繰り返した。
満足した二人がセックスを止めたのは、もう夜が明けようかという時間だった。何時間も翼を咥え込んでいた若林のアナルには、翼が抜け落ちた後も残留感が濃く残っていた。
「・・・若林くん」
仰向けでぐったりと目と閉じていた若林は、名前を呼ばれゆっくりと翼の方へ顔を向ける。
「ありがとう。俺、こんな経験したの初めてだ。すごく良かった・・・」
翼は顔を近付け、若林の顔に軽いキスを何度も落とす。若林はくすぐったそうにしながらも、嫌がりはせず翼の好きに任せている。そのうち、若林が思い出したように言った。
「そういえば、お前のルームメート、とうとう帰ってこなかったな」
「え? 帰ってきたよ。俺達がやってるのに気付いて、すぐ出てってくれたけどね」
「本当か!?」
ギョッとして身体を起こしかける若林を見て、翼がクスクス笑う。
「冗談だよ。昨夜は誰も来なかった。若林くんがここに来てくれたみたいに、どっかの部屋に遊びに行ってそのまま泊まってるんじゃないかな」
「何だ、そうか・・・冷や汗かいたぜ」
二人は顔を見合わせて、笑い声を上げた。
だが、満ち足りた楽しい気持ちでいられたのは、この時までだった。笑いが途切れた時、翼がそれまでの明るさとは打って変わった沈んだ声で言った。
「若林くん・・・俺、若林くんの事大好きだし、俺たち身体の相性もすごく良かったと思う。でも、もうこういう事はしないようにしよう」
「え?」
「俺、若林くんとこうなったのは後悔していない。でも、俺には早苗ちゃんがいるんだ」
翼の口から早苗の名前が出た事で、若林はハッとなる。翼には大切な妻がいる事を、そして自分にはかけがえのない恋人がいる事を、今更ながらに思い出したのだった。
「何を勝手な事を、って思われるかもしれないけど、俺は早苗ちゃんを不幸には出来ない。だから・・・ごめん。若林くん」
深々と頭を下げてみせる翼を見て、若林は何も言えなかった。やがて若林はベッドを下り、自分が脱ぎ散らかした服を集め始めた。若林が帰り支度を始めている事に気付き、翼が声を掛ける。
「若林くん・・・帰るの?」
「ああ」
今も身体の奥に残る翼の感触を振り払うように、若林は自らの指で後始末を済ませると、服を着始めた。すっかり身支度を整えると、若林はベッドの上の翼を振り返って言った。
「翼。俺も、おまえとこうなった事は後悔していない。でも・・・二度とお前を誘う事はしない」
翼が詫びの言葉らしきものを口にするのを遮って、若林は言葉を続ける。
「勘違いするな。お前が悪いんじゃない・・・悪いのは、誘いをかけた俺だ」
そうだ。俺は自らの意思で翼を誘い、翼と寝る事を選んだのだ。恋人のシュナイダーとの約束を忘れ、翼に抱かれる事を嬉々として受け入れていた。
「行かなきゃ・・・あいつの所に」
若林は翼に目顔で別れを告げると、部屋を出た。そしてホテルを出ると、一路シュナイダーの家を目指した。