若林は翼の部屋で二人きりになった。翼は若林と一緒にいられるのが、楽しくてたまらないという様子だ。二人は向かい合わせの椅子に座ってあれこれお喋りをしていたが、そのうち翼がこんな事を言い出した。
 「ねぇ、起きてるの疲れない? ベッドで寝そべって話そうよ」
 「え? しかし・・・」
 今この部屋には若林と翼しかいないが、そのうち翼と同室の者が帰ってくるだろう。自分と翼がそれぞれベッドを占領して、長々と話し込んでいるのを見たら同室者はいい気持ちはするまい。若林がそう言うと、翼は笑った。
 「だったら、俺のベッドに二人で寝てればいいよ」
 「なんだ、そりゃ?」
 「いいじゃないか。修学旅行みたいで楽しいよ!」
そう言って、翼はさっさとベッドに上がりこんでしまった。翼に手招きされて、若林もベッドの端に腰を下ろす。すると翼は若林の腕を掴んで、強引にベッドに引っ張りあげる。
 「そんな端っこじゃなくて、こっちに寝られるよ」
 「わかった、わかった。そう引っ張るなよ」
若林は、寝そべっている翼の横に身体を横たえる。口では渋々といった感じだったが、若林は内心この状況を面白がっていた。
 「やった! 若林くんと同じベッドで雑魚寝だ〜」
翼が楽しそうに笑いながら、若林の上に覆い被さるように抱きついてきた。無邪気に身体を寄せてくる翼に、若林は段々気分が落ち着かなくなってくる。
 この状況はまずい。翼は酔ってふざけているだけなのかもしれないが、翼にくっつかれると妙に胸騒ぎがする。
 翼と離れなければ、と若林は両手を伸ばす。その手を翼の肩に掛けて、彼の身体を押し戻すつもりだったのだが、今の若林にはそれが出来なかった。
 「翼・・・」
若林は翼の身体に腕を回した。二人はベッドの上でしっかりと抱き合う格好になった。
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