「それじゃ、軽く食事をしようか」
飲み会でもつまみのような食べ物はあったが、飲んだり話したりに夢中になっていたので、若林はまともな食事をしていなかった。若林がその事を言うと、シュナイダーは心得たとばかりに頷く。
「食べてきてないのなら、丁度よかった。支度はキッチンにしてあるから、来てくれよ」
シュナイダーは若林をキッチンへと連れて行った。『軽い食事の用意』というからサンドイッチか何かだと思ったら、豪勢な料理がテーブルの上に所狭しと並べられていて、若林は驚いた。
「どうしたんだ、これ・・・?」
「若林の誕生祝だからな。ちょっと頑張ってみたんだ」
「え? 頑張ったって・・・お前が作ったのか!?」
「まぁね。若林の為だからな」
日頃は果物の皮も剥かないような男が、自分の為に頑張って慣れない料理を作ってくれたのかと思うと、若林は感謝の気持ちで一杯だった。勧められるままに椅子に掛けた若林は、料理が山盛りになった目の前の皿を見て、シュナイダーに尋ねた。
「これ、一人で作ったのか? よく作れたなぁ。本当に美味そうだ」
「料理は見た目が第一だからな。まぁ、食べてみてくれよ」
「それじゃ、遠慮なく・・・頂きます」
若林はナイフとフォークを手にすると、早速皿の上の肉料理を切り分けて口に運んだ。シュナイダーは若林の口が動く様子をワクワクした目で見つめている。
「どうだ?」
「・・・・・・これは・・・・・」
「これは?」
「・・・・・・これは・・・・・」
若林には言えなかった。自分が今まで口にした食べ物の中で、一番不味い料理だとは!
「す、すごいな。こんな料理、初めて食べたよ」
味に対する明確なコメントを避けた若林がフォークを置こうとすると、シュナイダーが残念そうに言った。
「もう食べないのか?」
「あ・・・うん。やっぱり肉料理は、飲んだ後だとちょっともたれる気がして・・・」
「それもそうだな。じゃあ、こっちの料理はどうだ? メインは魚だし・・・あっ、サラダもあるぞ!」
若林の前から肉料理の皿を下げたシュナイダーは、今度は魚料理とサラダを並べた。どちらも美しい色取りで盛り付けされており、食欲をそそる外見だ。
しかし、魚を口に運んだ若林は、肉料理の時と同じく固まってしまった。こいつ、何を作らせても・・・見た目と味の落差が激し過ぎる! サラダまで不味いなんて、一体どうやったら出来るんだ!?
「これならサッパリした味付けだから、飲んだ後でも大丈夫だろう? 若林の為に、日本料理も作ってあるぜ。中華もフレンチもイタリアンも・・・デザートも色々あるから、どんどん食べてくれよ!」
楽しそうなシュナイダーとは対照的に、若林は料理を口に運ぶ度にげんなりとしていく。食べるのを止めたいのだが、シュナイダーがあまりにもご機嫌なので、もういらないと言い出せないのだ。
(シュナイダー、料理は見た目じゃなくて味だぞ・・・)
胃のむかつきをこらえながら、若林は心の中でツッコミを入れるのだった。