若林は席から立ち上がると、覚束ない足取りでシュナイダーに近寄った。
「シュナイダー、もう10分経ったぜ・・・?」
やや咎めるような口調で後ろから声を掛けると、シュナイダーがハッとした様子で振り返った。その直後、若林の足がもつれ、若林はその場に倒れかける。
「危ない!」
シュナイダーはすかさず立ち上がり、よろける若林の身体を支えた。シュナイダーに身体をもたせ掛けながら、若林はシュナイダーの耳元で不満気に呟く。
「もう、帰ろうぜ・・・俺、もう、待てねぇよ・・・」
酔いに頬を染め、潤んだ瞳でそう言うと、シュナイダーが大きく頷いた。シュナイダーは翼と岬になおざりな挨拶をすると、若林の肩を抱くようにしながら慌しく店を出た。
「若林、車を拾おうか?」
「いや・・・外の空気が気持ちいいから、少し歩きたい」
「わかった」
シュナイダーと若林は、ぴったりと身体を寄り添わせながら、のろのろと歩き始めた。
大きな公園の脇に差し掛かったとき、シュナイダーが若林に言った。
「この中を突っ切って行かないか。その方が近道だ」
言われて若林は無言で頷く。気持ちよく酔っ払っている若林には、自分がどの道をどう歩いているのか判っておらず、ただシュナイダーに身を任せてついて行っているだけだった。シュナイダーが近道だと言うのなら、そうなんだろう。その程度に考えて、若林はシュナイダーに導かれるまま、暗い公園へと足を踏み入れた。
だから、ひらけた遊歩道から急にわき道の茂みの陰へと連れ込まれ、シュナイダーにその場に押し倒された時には、一体何がどうなったのか理解出来なかった。自分の上に覆い被さりながら、何度もキスを繰り返すシュナイダーに戸惑いながら、若林は不思議そうに声を掛ける。
「シュナイダー? 急に、どうしたんだ・・・?」
「・・・家に着くまで待てない。ここでする」
「え・・・・・・?」
シュナイダーの手が、若林のズボンに掛かった。服を脱がされかけている事に気付き、若林は漸くシュナイダーの意図に気付いた。シュナイダーの手を払いのけ、若林は抵抗する。
「ば、馬鹿! こんな所で出来るかよっ!」
「出来るさ。若林だって、もう待てないって言ってただろう」
シュナイダーの手は、若林の手の下を潜り抜け、若林の下着の中に滑り込んでいた。冷たい掌にペニスを直に握られて、若林の身体がビクッと震えた。シュナイダーが若林を握ったまま大きく手を上下させると、熱を持ったペニスはあっという間に固く勃ち上がった。堪らず若林の咽喉から声が漏れる。
「あ・・・」
シュナイダーは若林のペニスを可愛がりながら、若林のズボンを下着ごと膝の辺りまでずり下ろしてしまった。最早抵抗する気力もなく、若林はシュナイダーのするがままに身を委ねている。若林が抵抗を止めたのに気をよくして、シュナイダーは若林のアナルにも指を這わせ始めた。唾液で濡らされた指が蠢く度に、若林は抑えきれずに小さく声を上げる。
「あっ・・・ん」
「若林、可愛い・・・こんなに可愛いお前を目の前にして、我慢なんて出来るものか」
「で、でも・・・だからって、こんな所で・・・誰かに見られたら・・・」
「いいじゃないか。見たい奴には見せつけてやろうぜ」
シュナイダーは、若林の中から指を抜く。そして入れ違いに己の固い肉棒を若林のアナルへと捻じ込んだ。ペニスが挿入される圧迫感に耐えかねて、若林の咽喉から小さな悲鳴が漏れたその瞬間。
二人を囲むようにして生い茂っている草むらが、風もないのに不自然に揺れた。
(・・・??)
奇異な空気を感じて、若林は暗闇の中で目を凝らし茂みを見つめた。重なり合った葉の塊は小さく揺れ続けており、耳を澄ませばその向うからは押し殺したような息遣いが聞こえてきた。
・・・誰かがいる!
「シ、シュナイダー。あの、草むらの、陰に・・・」
熱い肉棒を受け入れながら、若林は小声でシュナイダーに不審者の存在を訴えた。するとシュナイダーは驚きもせず、口の端を歪めてニヤリと嗤った。
「ああ、判ってる・・・あいつら、俺達の後をつけてたからな」
「あいつら?」
「若林、気付いてなかったのか? 俺達が店を出た後、一緒に飲んでた日本の連中も何人か店から出てきて、そのまま俺達の後をついてきてたんだぜ」
シュナイダーの言葉に、若林は唖然とする。
「そ、それじゃ、あの、草むらの向うに、いるのは・・・」
「ツバサかミサキか、他の奴らか・・・とにかく、若林の同胞ってわけだな」
若林にとっては衝撃的な事実を、シュナイダーは平然と言い放つ。
「よろけて俺に抱きついてきた時の若林は、最高に艶っぽかったからな。あいつらもそれで興味を持って、つけてきたんだろう。いいじゃないか、面倒な説明ナシに俺達の関係を一目で判ってもらえて」
「バカ言うな。あいつらの前で、こんな事できるか! もう、止めて・・・あぁっ!」
奥まで一気に貫かれて、若林の抗議の声は途切れてしまった。代わりにシュナイダーの激しい抽送に合わせるかのように、あんあんと切なげな声が漏れる。機嫌よく腰を揺すりながら、シュナイダーは嗤った。
「若林も、いつもより、感じてるじゃないか。たまには、こういうのもいいだろう? 今日は若林の誕生日なんだし・・・」
嫌だと言いたかったが、激しいセックスに翻弄される若林の咽喉からは、最早まともな言葉が出てこない。せめて早く終わらせてくれと願うが、普段よりも興奮しているのかシュナイダーが終わる気配は一向に無かった。シュナイダーの動きが激しくなると、周囲の草むらも一緒になってガサガサと音をたてて揺れる。こちらの様子を身を乗り出して窺っているのだと判って、若林は自分が見世物になっている事実を思い知らされて泣きたくなった。
(・・・こんな、誕生日なんて、最低だ・・・)