若林はシュナイダーを待たずに、先に一人で帰ることにした。シュナイダーに悪いとは思ったが、今の若林は身体を起こしているのもやっとの状態だった。これ以上ぐずぐずしていると、酔いが全身に廻ってこの場にぶっ倒れかねない。皆が楽しく飲んでいるのに、そんな形で水を差す羽目になるのは御免だった。
 若林は傍にいた来生に、自分は先に帰るからと耳打ちした。そして勘定の時に自分の分も精算してくれるように頼み、現金を多めに渡した。若林と来生の会話を聞いて、近くにいた何人かが若林を引き止めてくれたが、若林はやんわりと断ってそのまま席を立った。
 帰りしなにシュナイダーに一声掛けようかとも思ったが、見ればシュナイダーは相変らず翼や岬と楽しそうに酒を飲み、笑顔で話を続けている。今日が若林の誕生日である事も、自分は若林に呼ばれてここに来たのだという事も、すっかり忘れてしまっているようだった。
 しかしそうしたシュナイダーの様子を見ても、若林は不快には思わなかった。シュナイダーは大切な恋人。そして今シュナイダーが話をしている翼と岬は、自分の大切な友人だ。自分の大切な人たちが、仲良く酒を酌み交わし楽しげに話している光景に、若林は心が暖かいものに満たされる気がした。
 今、自分が声を掛けたら、彼らの楽しい時間を邪魔してしまうかもしれない。若林はそう思い、彼らには何も言わずに店を後にした。話に夢中になっていたシュナイダー達は、若林が店を出た事に全く気付いていなかった。
 外に出ると冷えきった外気が頬を撫で、アルコールで火照った身体に気持ちよかった。少しずつ酔いが醒めて行くのを感じながら、若林は家路を辿り始めた。

 自宅に帰り着く頃には、酔いはすっかり醒めていた。若林はシャワーを浴び、さっぱりした気分で寝室に向かう。シャワーを浴びている間に、シュナイダーからメールが来ていないかと思い携帯をチェックするが、着信は無かった。シュナイダーは今もまだ、翼たちと楽しく飲んでいるのだろう。
 灯りを消しベッドに入った若林は、ふと寂しさを覚える。
 今日は自分の誕生日。誕生日にはシュナイダーと二人で過ごすのが、ここ数年の慣わしになっていた。だが、今ベッドに横たわっているのは自分一人だけで、使い慣れている筈のベッドが妙に広く感じられた。
 「・・・まぁ、今年は仕方ないか。そもそもシュナイダーを飲み会に呼んだのは俺だしな」
明日はシュナイダーに連絡を取って、二人一緒に過ごそう。そう思いながら、若林は静かに眼を閉じた。
バッドエンド1
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