若林は岬の部屋で休んでいく事にした。岬は若林に椅子を勧めながら、嬉しそうに言った。
「嬉しいなぁ、若林くんと二人っきりで話せるなんて。どうぞ、ゆっくりしていってよ」
「ありがとう。でも時間も遅いし、長居はしないよ」
若林は椅子に腰を下ろしながら、岬にそう答えた。今この部屋には岬しかいないが、そのうち同室者が帰ってくるだろう。自分が岬と長々と話し込んでいたら迷惑だ。そう思っての発言だったが、岬は拗ねたような声を出した。
「えぇ〜? それはないよ。若林くん、翼くんが相手だったら朝まで話すくせに!」
「そ、そんな事ねぇって!」
若林が慌てて否定すると、岬は声をあげて楽しそうに笑った。
「冗談、冗談! 若林くん、焦っちゃってカワイイなぁ」
岬は自分も空いた椅子に掛けると、若林にあれこれ話し掛け始めた。若林もくつろいだ気分で岬との雑談に興じていたが、やはり酒の酔いが残っていたらしく、段々瞼が重くなってきてしまった。何事かを楽しそうに話し続ける岬の声を聞きながら、若林は椅子に座ったままでいつしか眠ってしまった。