「じゃ、お前の部屋で休ませて貰うか」
「おう、そうしろそうしろ」
若林は石崎の厚意に甘える事にして、彼の泊まっている部屋に入れて貰った。選手用に取ってある部屋は全てツインルームなので、石崎の部屋にも誰か同室者がいる筈なのだが、二人が部屋に入った時部屋は無人だった。石崎のルームメートが誰なのか知らないが、若林たち同様に飲みに出掛けてまだ戻ってきていないのだろう。
「若林ー、水でも飲むかぁ?」
「ああ、頼む」
石崎にそう答えると、若林は並べて置かれたシングルベッドのひとつに近付き、そこにどっかりと腰を下ろした。外にいる時は酔いながらも気が張っていたのだが、居心地のいいホテルの一室に入れて貰った途端、緊張が解けてしまったようだ。瞼が自然に重くなってきて、身体が傾きかける。うっかりするとこのまま眠り込んでしまいそうで、若林は眠気醒ましに目を瞬いた。
「ほれ、水」
石崎が差し出したコップを、若林は礼を言って受け取った。冷たい水を口に含むと、少し眠気が遠ざかった。うとうとしていた若林をからかうように、石崎が笑う。
「お前、図体の割りにホント酒に弱いんだな。だらしねー」
「体格と、酒に強いか、どうか・・・は関係ねぇよ」
「そのまま眠り込むなよ。お前の分までベッドはねーんだから、もし寝たら床に転がしとくからな」
石崎の言葉に、若林は大きく頷く。ここで休憩した後はシュナイダーの家に行く予定なので、若林にしても眠り込むわけにはいかないのだ。
「俺は、傍で見るほど、酔っちゃいない。ちゃんと・・・帰るから、安心しろ」
「嘘つけ、ベロンベロンじゃねーか。この酔っ払いが!」
「お前だって、酔っ払い、じゃねぇか」
「俺は酔ってるけど、若林ほどぐでんぐでんじゃねーもん」
「だれが、ぐでんぐでんだっ!?」
「お前だ、お前! 若林源三が、だよ! 顔は真っ赤っかだし、さっきから呂律が回ってねーし、コップを受け取る時は手が震えてたし、今も身体がぐらぐら揺れてるし、さっき外を歩いてる時は思いっきり千鳥足だったし、どっからどう見ても立派な酔っ払い・・・・・・って、おいっ! 本当に寝るなって!!」
石崎が調子に乗って一人で捲くし立てているのを聞いているうちに、若林の眠気は最高潮に達してしまったのだ。若林は腰を下ろしていたベッドにそのままバッタリ倒れ込み、高鼾で眠り込んでしまった。