一度だけでは飽き足らず、岬は続けざまに若林を求めた。岬によって火をつけられた身体は、岬の手で愛撫され、岬のペニスに貫かれる事でしか鎮められない。若林は岬に求められるままに身体を開き、彼を受け入れる快感に身悶えした。
幾度目かの情交を終え、ようやく二人は身体を離した。仰向けに横たわった若林が大きく息をして呼吸を整えていると、横から岬が腕を伸ばし、若林の頭を優しく抱き寄せる。満足げな様子の岬に、若林は尋ねた。
「岬・・・なんで、俺とこんな事を・・・?」
「うーん・・・なんでかなぁ・・・?」
岬は暗い天井を見上げながら、他人事のように呟く。しかしそれは単なる無責任からくる言葉ではなく、自分の考えをまとめるための取っ掛かりに口にしたもののようだった。
「僕の前で、酔っ払って無邪気に寝込んでる若林くんを見ているうちに・・・欲しくなっちゃったんだよね。若林くんはいい友達で、頼れる仲間で、この先もずっと仲良くやっていけるって判ってるんだけど・・・」
岬は言葉を切り、若林の顔を見た。
「でも、そういう仲間は大勢いるだろう? 何ていうか、若林くんとはそれだけじゃなく、特別な仲になりたいと思ったんだ」
「岬・・・それって・・・」
若林は何かを言いかけ、そして一瞬の躊躇いの後に言葉を続けた。
「お前は俺が好き・・・なのか?」
若林の問い掛けに、岬は笑顔で頷く。
「もちろん、大好きだよ。若林くんだって、僕の事好きだろう?」
「・・・・・・・・・ああ」
すぐに大好きだと答えた岬と違い、若林の答には暫くの間があった。岬はそんな若林の態度に、何かを感じ取ったようだ。
「若林くん、今付き合ってる人いるんだ?」
無言で頷く若林を見て、岬は全てを納得した。
「そうじゃないかとは思ってたんだ・・・だって、さっきの若林くん、すごく慣れてる感じだったし」
「お、おいっ、岬!」
「あははは、照れない照れない。・・・・ねぇ、やっぱり相手はドイツの人?」
岬は若林の相手が誰なのかを知りたがったが、若林はシュナイダーの名前は出さずに、ただ自分がその相手をどれだけ深く想っているかだけを伝えた。そして昨夜は本当はその相手と過ごす筈だった事も。
「そう・・・じゃあ、僕は若林くん達の邪魔をしちゃったわけだね」
急に岬の声が沈んだものになり、若林は岬を気遣う。
「いや。岬と寝たのは俺の意思だ。いくら酔っていたとはいえ、本気で拒絶しようと思えば出来たはずなのに、俺はそうしなかった。・・・あの時の俺は、岬としたくて堪らなかった。俺が、岬といる事を選んだんだ」
若林の言葉に、岬がふっと笑みを浮かべる。
「若林くん。・・・ありがとう」
その後はどちらも口をつぐみ、暫くの間沈黙が流れた。その沈黙を破ったのは若林だった。
「岬、俺帰るよ。今からでも、あいつの家に行く」
「こんな時間に? もうすぐ朝になっちゃうよ」
「ああ。でも、約束したんだ。必ず行くって・・・」
自分の首に回されている岬の腕をそっとはずし、若林はベッドから降りた。無言で服を着、身支度を整える若林に岬が声を掛ける。
「若林くん。もう、僕とこういう事はしないんだよね?」
「ああ」
「じゃあ、最後に・・・僕とキスしてくれる?」
服を着終わった若林は、ベッドの上の岬に近付いた。身体を屈めて顔を寄せ、岬の唇に自分の唇を重ねる。若林にはとても甘いようにも、ひどく苦いようにも感じられる、不思議なキスだった。
「・・・じゃあな、岬」
若林が唇を離すと、岬は笑顔を返してくれた。若林は岬に背を向け、岬の部屋から出ていった。