「そうですね。俺はもうここで寝ます」
押し寄せてくる睡魔に耐えかねて、若林はそう言った。若林の言葉に見上も頷く。
 「そうだな。その様子じゃ、とても家には帰れまい。このまま泊まっていきなさい」
 フロントに言って簡易ベッドを運んで貰い、追加の宿泊料を払えば良かろうと見上が言うと、若林はとんでもないと首を横に振った。
 「そんな迷惑は掛けられません。ちょっと仮眠させて貰えればいいんです。酔いが醒めたら、俺は帰ります」
 見上に気を遣っているような発言だったが、若林が気にしているのは勿論シュナイダーの事だった。酔いと眠気で頭は朦朧としているが、シュナイダーと交わした約束は覚えている。万が一眠り込んでシュナイダーの家に行きそびれては大変、と若林は気が気ではない。
 そんな事とは露知らず、若林の言葉を真に受けた見上は、若林を安心させるように言った。
 「判った判った。それなら、ここで仮眠して行きなさい。少しの時間でもぐっすり眠れば、いくらかは酔いが醒めるだろう」
 「ありがとうございます。・・・あの、それで頼みがあるんですが・・・」
 「なんだ?」
 「俺が30分経ってもまだ寝込んでるようだったら、叩き起こしてくれませんか」
 「そんな事か、お安い御用だ。間違いなく叩き起こしてやるから、安心して寝てろ」
頼もしい見上の言葉に、若林はホッと息をついた。そして若林は何度も見上に頭を下げながら、ベッドを借りて布団の中に潜り込む。すると目を閉じて5分も経たないうちに、若林はすっかり眠り込んでしまったのだった。
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