翼の事は本当に好きだけれど、いくら何でもこの状況はまずい。若林はそう思い、口実をつけてこの部屋から抜け出す事にした。翼の身体に回していた腕を解き、翼に耳打ちする。
「翼・・・俺、ちょっと岬のところに行ってくるよ」
「岬くんのところに?」
翼がきょとんとした顔で、若林の顔を見下ろした。
「ああ。翼とはこうやって何でも判り合えてるけど、岬もそうとは限らないだろう。さっきの失言を、もう一度ちゃんと謝っておきたいんだ」
「・・・そうか。うん、それもそうだね」
翼はニッコリ笑うと、若林の上からどいてくれた。若林は翼に、部屋で休ませてくれた礼と別れの言葉を述べると、その場を後にした。
翼の部屋から出るための口実ではあったが、折角なので若林は本当にもう一度岬に会っておこうと思った。ドアをノックすると、すぐに岬が出てきてドアを開けてくれたが、若林の姿を見て岬は驚いた様子だ。
「若林くん! どうしたの?」
「ああ、その・・・さっきは外で、岬に対して失礼な事を言ってしまったから・・・」
「それでわざわざ、寄ってくれたの? その事なら気にしてないって言ったのに」
若林の言葉に、岬はクスッと小さく笑った。
「でも、僕の事をそんなに気に掛けてくれてるなんて嬉しいなぁ。どうぞ、中に入って! 今、僕しかいなくて退屈だったんだ」
岬に腕を引いて誘われ、それなら少しだけ・・・と若林は部屋に入った。