眠りから覚めた若林が目を細く開けた時、部屋はまだ薄暗かった。横を見れば昨夜一晩中愛し合った恋人が、枕に顔を埋めて安らかな寝息を立てている。こうして眠っているのを見ると、自分を幾度も激しく貫き、愛を囁き続けた情熱的な男と同一人物とはとても思えない。若林はしばらくの間、子供のようにあどけないシュナイダーの寝顔に見蕩れていた。
 ふと時間が気になって、若林はベッドサイドの置時計に目を向ける。時刻はとっくに朝になっていた。部屋のカーテンが閉めっ放しなので暗いままだが、起きるべき時間をとっくに過ぎている。若林はシュナイダーを起こさないように注意しながら、そっと身体を起こしかけた。
 すると、寝入っているかに見えたシュナイダーの手がすっと伸びて、若林を捕えてしまった。
 「・・・まだ起きるなよ」
薄目を開いて若林を見ながら、シュナイダーが言う。若林はシュナイダーに小声で答えた。
 「もう朝だぜ? いつまでも寝てたって仕方ないだろう」
 「・・・判ってる。でも、もう少しだけ」
シュナイダーの手が、若林の腕を強く掴んだ。
 「昨日の余韻に浸っていても、罰は当たらないだろう?」
熱の篭った目で縋るように見上げられて、若林は突き放すのが忍びなくなった。身体を起こしかけていた若林は、もう一度ベッドにもぐりこみ、シュナイダーの身体にそっと手を回す。
 「・・・10分だけだぜ?」
 「ああ。それでいい」
シュナイダーは微笑を返すと、自分も若林の身体に腕を回した。そして若林の目を見ながら、申し訳無さそうに告げた。
 「実は・・・俺、大事な事をすっかり忘れていたんだ」
 「大事な事?」
 「ああ。自分でも呆れるぜ。せっかく若林と一緒だったのに」
溜息をつくシュナイダーに、若林が何事かと尋ねる。シュナイダーは何度も自分の迂闊さを悔やみながら、若林に理由を告げた。
 「俺、言ってなかっただろう? だから、今言うよ。一日遅れだけど・・・」
シュナイダーは一旦言葉を切ると、若林の手を握った。
 「若林。誕生日おめでとう・・・いい一年になりますように」
そして若林の頬に唇を寄せて、祝福のキスをしたのだった。暖かい言葉と、優しいキスを貰って、若林の胸が幸福感に満たされる。
 「ありがとう、シュナイダー。きっと、いい一年になると思うよ」
シュナイダーと一緒にいられるのなら、今年も来年も、その先も・・・ずっといい年に違いない。自分を暖かく包んでくれる男の存在に感謝しながら、若林は思った。
ハッピーエンド
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