母がベッドに横たわっているマリーの額に手を当て、溜息をついた。
 「まだ完全には、熱が下がらないわね。やっぱり今日のお出掛けは無理よ」
 「ええ〜! マリー、お兄ちゃんと遊園地に行くの、楽しみにしてたのに〜!」
マリーが顔をくしゃくしゃにして、駄々をこねる。可哀相だが仕方がない。俺はマリーの傍に近
寄って、優しく諭した。
 「マリー、遊園地にはマリーが元気になったら、必ず連れて行ってやる。だから今日は大人し
く寝てるんだ。俺もずっと傍に、ついていてやるから」
 「でも・・・ママが会社の人から貰ったフリーパスって、今日しか使えないんでしょ?」
マリーが口をとがらせて食い下がる。母が職場の同僚から『お子さんがいるならどうぞ』と言わ
れて、貰ってきた遊園地のフリーパス2枚。マリーが言うように、利用期限はあいにく今日まで
だった。
 「そんなこと気にするな。フリーパスがなくったって、マリーが元気になったら必ず連れて行く
よ」
 「ほんと?」
マリーが眼を輝かせる。どうやら納得してくれたようだ。ここで母が口を挟んだ。
 「ねえ、カール。マリーの面倒なら私が看るから、良かったらお友達を誘って、遊びに行ってき
たら? このフリーパス、使わないと勿体無いじゃない」
たまにはサッカー以外の事をするのも、気晴らしになるわよ、と笑顔で付け加える。
 友達と遊園地に? ガールフレンドでもいればサマになるのだろうが、あいにくそんな気の利
いた者はいない。男友達と遊園地か・・・。

 俺はカルツの顔を思い浮かべた
 俺は若林の顔を思い浮かべた
 いや、マリーを置き去りには出来ない