俺たちは観覧車の列に並んだ。どういうわけか、列に並んでいるのはカップルばかりだった。
個室で二人きりの時間が過ごせる乗り物だから、カップルが多くても不思議ではないが、それ にしても同性の友人同士や、3人以上のグループが見当たらない。男二人で並んでいるのは、 もちろん俺たちだけだ。
案内スピーカーから流れる説明を聞いて、この謎はすぐに解けた。
『・・・当観覧車には素敵なジンクスがあります。ゴンドラが最上部に昇り詰め、隣のゴンドラが
全く見えなくなった瞬間、キスをすると願い事が叶うのです。カップルのお客様は、是非お二人 の幸せを願ってお試しになってみて下さい・・・』
「・・・昼間はこのアナウンス、流してなかったよな」
若林が俺を睨む。
「観覧車まで、カップル向けかよ。俺たち、誤解されないか?」
俺は別に誤解されても構わなかったのだが(というか、誤解されたい)、そんな想いは全く顔に
出さず、素っ気無く答えた。
「余計な気を廻すな。俺たちはマリーのために、観覧車で写真を撮らなければならないんだ」
若林は、そうだな、と素直に応じてくれた。
しばらく待たされて、ようやく俺たちの番が廻ってきた。辺りはすっかり暗くなっている。いかに
もカップルが好みそうなムードだ。係員に誤解されたくないと思ったのか、若林がカメラを手に 大声で言った。
「さあ、やっと頼まれていた写真が撮れるぞ!」
・・・・・・そんなに、俺とカップルに見られるのが嫌なのか・・・・・・
ゴンドラが、ゆっくりと上昇を始める。若林が俺の姿をまずカメラに納めて、言った。
「もう暗いから、ちゃんと写るかどうか判らないけど、最上部に行ったらそこからの眺めも撮ろ
う」
最上部。キスをすると願い事が叶うという、ジンクスの場所だ。
キスしたい。
若林とキスしたい。
でも、いきなりそんなことをしたら、若林に確実に嫌われてしまう。
・・・・・・どうする?
|