「じゃあ、コーヒーを頼む」

  「わかった、待ってろ」

  若林は席を外した。程なくして、トレイの上にコーヒー入りのジャグや、カップを載せて戻って

 くる。目の前でカップにコーヒーを注ぎ、スティックシュガーとミルクを添えてくれた。

  俺はカップに手を伸ばし、ブラックのまま飲んだ。

  若林はミルクだけ入れて、カップを手にする。俺は見るともなしに、若林の口もとを見つめて

 いた。ふうっと小さく息を吹きかけ、カップの縁に口をつける。白い模様の描かれた液体を口

 に含み、飲み下す。咽喉が動くさまが、俺の目には妙になまめかしく見えた。


  コーヒーカップなんかじゃなく、俺に口づけてほしい。


  若林がカップをテ−ブルに置いた。俺に向き直り、話しかける。

  「それで、話っていうのは?」

  俺の考えは結局まとまっていなかった。当たり障りの無い話をしようか。若林の気に入りそ

 うな話をしようか。それとも本題に入るべきなのか。


  「・・・・・・試合のことだが・・・・・・」


  「・・・・・・日本のことだが・・・・・・」


  「・・・・・・恋愛のことだが・・・・・・」