「また、翼たちと飲みに行きたいなぁ」
若林は酔いが残って紅くなっている顔を綻ばせる。若林は酒に弱いので、酒を飲むこと自体は正直どうでもいい。要は翼たち日本の仲間と、ワイワイ楽しく過ごせるのが嬉しいのだった。ドイツ暮らしの長い若林には、日本の皆と一緒に遊ぶ機会など殆どないので、明日には遠征チームが解散して彼らがドイツから去ってしまうのが名残惜しかった。
そんな若林の気持ちを察してくれたのか、シュナイダーが優しく声を掛ける。
「そのうち、また機会が巡ってくるさ」
そして若林の肩にそっと腕を廻した。
「それまでは、俺と飲みに行こうぜ」
「え〜、お前とかぁ?」
若林がふざけて嫌がるような言い方をした。するとシュナイダーが口を尖らせて、不満そうに聞き返す。
「なんだ? 俺とじゃ嫌なのか」
「だって、お前とはいつも一緒にいるじゃないか。滅多に会えない仲間と飲みに行くから、楽しいんだって」
「つれないなぁ」
シュナイダーが、幾分気落ちしたような感じで言った。
「俺は若林とだったら、24時間行動を共にしていても嬉しいけどな。若林は違うのか?」
「おいおい、24時間はくっつき過ぎだろ? 息が詰まっちまうよ。たまには今日みたいに別行動して羽を伸ばさないと。ずっと一緒じゃ、飽きが来るよ」
拗ねた風のシュナイダーをからかうのが楽しくなってきて、若林はわざと突き放すような事を言った。ところが笑っていなしてくれるかと思いきや、シュナイダーは顔を曇らせる。
「・・・それ、本気で言ってるのか?」
沈んだ声で言い返されて、若林は内心で焦る。冗談、軽口のつもりで話していたのに、何故かシュナイダーは今の何気ないやり取りを大真面目に捉えてしまっている気配だ。酔った若林が普段隠している本音をつい漏らしてしまった、とでも思ったのだろうか。
(さっきの事といい、何だか今日は話が噛み合わないなぁ)
若林はシュナイダーにどう接したらよいのか、考えた。
とりあえず謝る。
ひたすら謝る。
謝らない。