「判ってる。なるべく早く帰るよ」
若林が素直にそう返事をすると、さっきまでは不満をあらわにしていたシュナイダーの声が、急に大人しくなった。
 『・・・若林、もしかして無理してる?』 
 「え? 何言ってるんだよ。そんな訳ないだろう」
シュナイダーに会いたいと思う気持ちに偽りはないので、若林は真面目な声で答える。日本の皆と飲んでるのは楽しいけれど、大好きなシュナイダーと二人で過ごす時の幸福感にはとても及ばない。その気持ちを正直に伝えると、シュナイダーは嬉しそうに答えた。 
 『ありがとう、若林。でも、よく考えたら今日は若林の誕生日なんだから、若林がしたいようにするのが一番だよ。だから、日本の仲間と飲み明かしたいのなら、俺はそれでも構わないぜ。俺とは明日以降いつでも会えるんだし』
 「シュナイダー・・・」
恋人の暖かい気遣いに、若林は心を打たれた。
 「判った。お言葉に甘えて、今日はゆっくりさせて貰うよ」
 『ああ。それじゃ、また今度電話するから・・・』
 「待てよ! ゆっくり飲んでくるけど、その後でお前の家に行ってもいいだろう?」
若林の言葉に、シュナイダーは驚きの声を上げる。
 『若林、いいのか?』
 「ああ。お前が迷惑でなければ・・・遅くなるけど、必ず行くから待っててくれよ。やっぱり今日は、シュナイダーと一緒に過ごしたいから・・・」
 話しているうちに段々照れ臭くなり、語尾が小さくなる。だがシュナイダーにはちゃんと伝わったようで、電話口からは嬉しそうな声が返ってきた。
 『判った。待ってるよ』
 「ああ、それじゃ」
若林は携帯を切って、椅子に座り直した。若林が携帯を仕舞っているのを見て、隣に座っていた翼が声を掛ける。
 「若林くん、誰と話してたの?」
 「ん? ああ、友達」
シュナイダーと付き合っている事は公には伏せているので、若林は曖昧に誤魔化した。すると翼は屈託のない笑顔で言った。
 「そっか。随分長く話してるから、てっきり彼女かと思ったよ」
 「生憎、俺には彼女なんていねぇよ」
彼氏はいるけど・・・と心の内で呟きつつ、若林は陽気に笑った。

 若林が電話を切ってから程なくして、そろそろ店を出て解散しようという話になった。しかし飲み足りないと思ってる者も多いようで、どうやら少人数のグループに分かれて二次会に向かう様子だ。
 シュナイダーには遅くなると断りを入れてあるので、若林も二次会に参加する事にした。若林は居並ぶメンバーの顔を見回し、誰と一緒に飲みに行こうかと考えた。



石崎

井沢

その他