若林は腕時計に目をやりながら、暇乞いをするとその場を後にした。この時間なら、日付
が変わる前にシュナイダーの家に着ける。今日の飲み会は楽しかったが、恋人と二人きりで過ごす甘いひと時には敵わない。酔っぱらって気分が高揚している若林の頭の中は、既に愛しい恋人の事で一杯になっていた。
シュナイダーの家に辿り着くと、若林は玄関のドアチャイムを連続で何度も押した。そして疲れた身体を休ませるように、ドアに上半身をもたせ掛ける。そうしていると、家の奥からバタバタと慌ただしい足音が近付いてくるのが聞こえてきた。その直後、ガチャリと開錠する音が耳に響いて若林は慌ててドアから離れる。
待ちかねたようにドアを開けてくれたのは、若林が愛して止まない大切な恋人。
酔っ払った自分を心配そうに見つめる青い瞳に溢れんばかりの愛情を感じて、若林は思わずシュナイダーに抱きついた。
「シュナイダー・・・会いたかった」
若林がこんな風に素直に愛情表現をしてくれるのは極めて珍しいので、シュナイダーは予想外の展開に嬉しさを隠せない。よろめく若林に肩を貸して部屋に招き入れ、ソファに座らせるとすぐに唇を重ねて若林の求愛に応える。若林はシュナイダーの頭を抱き寄せるようにして、シュナイダーのキスを受け入れた。二人は角度を変えながら、飽きる事なく幾度もキスを繰り返す。
「若林、今日はご機嫌だな」
キスの合間にシュナイダーが囁くと、若林が嬉しそうにニッコリと微笑む。
「ああ。ご機嫌だ」
「よっぽど楽しい飲み会だったんだ」
シュナイダーが若林の身体をいとおしげに撫でながら尋ねると、若林はクスクスと笑う。
「ああ、最高に楽しかった。久し振りに日本に帰ったみたいで」
「道理で、時間を忘れるわけだ。もう少しで、誕生日が終わってしまうところだった」
時計を見ながら、シュナイダーがやれやれと苦笑する。シュナイダーに他意は無く、思ったことをポロリと口にしてしまっただけらしいが、若林はこの言葉を聞き流せなかった。
遅くなる事はあらかじめ断ってあるのだし、自分は約束通りちゃんとシュナイダーの家にやって来た。それに時間ギリギリだったとはいえ、まだ誕生日は過ぎていない。
(そんな嫌味みたいな事、言わなくてもいいのに・・・)
楽しい気分に水を注されて若林は面白くない。文句を言ってやろうかとも思ったが、自分がシュナイダーを待たせてしまったのは紛れもない事実。ここは腹を立てるよりも、素直に謝るべきなのかもしれない。
(シュナイダーに、何て言おう・・・?)
若林は考えた。
「何だよ、約束は守ったじゃないか!」
「待たせてしまって、本当にごめん」
「そんな事より、早くやろうぜ!」