結局、俺たちはホラーハウスに入ることにした。若林がカメラ片手に、俺に提案する。
「じゃあ、一番怖そうな場面に来たら、そこで一枚だけ撮ろう。ホラーハウスの写真が一杯あ
っても、マリーちゃんは喜ばないだろうから」
「判った。どこで撮るかは若林に任せるよ」
俺たちはフリーパスを見せて、入り口のゲートをくぐった。夜光塗料でぼんやりと照らされた暗
い通路を二人で歩いていくと、あちこちにモンスターやらゾンビやらの作り物が、恐ろしげに展 示してあるのが目についた。ただ、どれもこれも安っぽい作りで、これを怖がるのはよほど小さ い子供か、カマトト女だけではないかと思えた。
突如、俺たちの前に白い人影が現れた。ゴーストの衣装をまとったスタッフだ。俺たちの前を
横切って驚かし、姿を消す段取りだったらしいが、若林はそのゴーストの腕をはっしと掴んだ。
「悪いんだけど、一緒に写真に写ってくれますか? 記念写真を撮りたいんで」
「あ、・・・はい、どうぞ」
若林の強引な頼み方に圧倒されたのか、ゴースト役のスタッフは素に戻って、素直に俺と並ん
で記念写真に納まってくれた。しかも気を遣って、こんなことも言ってくれた。
「お二人並んでいるところを、撮りましょうか?」
「いえ、いいです。ありがとう」
若林がさっさと断ってしまった。俺としては、是非とも若林とのツーショットを撮って貰いたかっ
たのだが・・・。ゴーストは俺たちに会釈して、段取りどおり壁の中に消えていった。
「いいゴーストだったな。親切だ」
若林の、この言い方がおかしくて、俺は声をあげて笑った。無事に写真を撮り終え、俺たちは
ホラーハウスを抜け出した。若林が尋ねた。
「次は、どこへ行く?」
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