バシーン!
鋭い音を立てて、ボールがゴール枠外に弾き出される。
回転を掛けていたのを、見抜かれていたらしい。際どいコースを狙ったつもりだったが、こ
のシュートは若林にパンチングで防がれてしまった。ナイスセーブと声を掛けようとしたら、当
の若林が口惜しそうに叫んだ。
「くそっ! キャッチ出来なかった!」
・・・・・・つくづく、自己満足ということを知らない男だ。いや、飽くなき向上心の持ち主という
べきか。
「シュナイダー! もう一度、頼む!」
ゴール前に立ち塞がり、次のシュートを要求する若林の姿は真剣そのものだ。今の若林は
ドイツに来たばかりで、プライドと実力の釣り合っていなかった頃の少年ではない。押しも押さ
れぬ不動の、ハンブルグJr.ユースチームの正ゴールキーパーだ。しかし若林は現在の自分
に決して満足しない。常にもっと上を、もっと完璧なセービングを求めている。
この正規の練習が終わったあとの二人きりの特訓も、若林がチーム入りして以来、ずっと
続いている。もっとも、この努力を欠かさないがゆえに、正ゴールキーパーの地位を保って
いられるのかもしれないが。
若林が熱くなり過ぎているようなので、俺はわざと冷たく言った。
「今日はもう終わりだ。引き上げるぞ」
「勝ち逃げする気か?」
「勝ち逃げじゃない。ゴール数と防がれた数は丁度同じだ」
「・・・そうか」
俺の言葉に納得したのか、若林の顔から緊張が解ける。そしてさっきまでの溢れ出る闘志
が嘘のように、爽やかな笑みを浮かべる。
「じゃあ、上がろう。今日もつきあってくれて、ありがとう。シュナイダー」
まるで邪気のない素直な笑顔。汗とほこりで黒ずんだ顔に、キラキラした瞳と白い歯が
映える。途端に俺の鼓動が早くなった。
俺は内心の動揺を悟られないように、背を向けながら答えた。
「別に。いつものことだ」
後片付けを終えて二人で帰る道すがら、俺はずっと隣を歩いている若林のことを考えてい
た。
俺は若林に惚れている。
それこそ夜も眠れないほどに。
サッカーをしている時はさすがに集中しているが、それ以外の時間は常に若林のことを
想っていると言っていい。
若林と友人以上の仲になりたい。
恋人として付き合いたい。
特にここ数日はその想いが強くなって、自分で自分の気持ちを持て余すほどだった。
だが、どうすればいい? どうすれば若林に嫌われる事なく、この気持ちを伝えられる?
いくら考えても、これだと言う答は見つからなかった。
「おい、俺の話、聞いてる?」
急に若林が大声を出した。フォーメーションについて自分なりの考えを色々話していたよう
だが、俺が若林の横顔に見惚れてまともに返事をしなかったのが、気に障ったらしい。
「なんか変だぞ、おまえ。言いたい事でもあんのか?」
言いたい事。もちろん、あるとも。しかし、ここでストレートに告白するのは、いくらなんでも
まずいと思った。とりあえず、何と答えたらいいだろう。
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