咄嗟にうまいアイデアが浮かぶ筈もなく、俺は黙って立ち尽くしていた。見上が若林に言っ

 た。

  「源三、済まんが、急ぎの用事で出かけてくる。留守を頼むぞ」

  「判りました。シュナイダーもいるし、大丈夫ですよ」

  ・・・なんという幸運。今日、若林の家に来たのは正解だったようだ。俺はついつい笑顔が

 浮かびそうになるのを誤魔化して、若林とともに見上を見送った。

  若林は俺を居間に案内すると、着替えてくると言って席を外した。

  俺はソファに腰掛けて、この後どうやって若林に話をしようか、あれこれと考え始めた。

  いきなり、おまえが好きだ、では、引かれてしまう。

  しかし当たり障りのない話ばかりしていては、悩みを相談されると思っている若林が変に

 思うだろう。

  なにかそれらしい悩みをでっちあげて、相談するか。しかしそれでは肝心の話が全然進ま

 ない。大体、嘘の悩みなど見抜かれそうだし・・・。

  考えは千路に乱れて、一向にまとまらなかった。その内に若林が戻ってきた。

  「待たせたな」

  Tシャツにジーパンという、ラフな格好だ。練習や試合でばかり顔を合わせているので、

 若林の私服姿は新鮮だった。ありきたりの服装なのに、それを着ているのが若林だというだ

 けで俺は眼を奪われてしまう。

  「話があるんだよな。そうだ、その前に何か飲むか?」

  若林が気を遣って、注文を聞いてきた。


  「じゃあ、コーヒーを頼む」


  「じゃあ、酒を頼む」


  「おまえさえいれば、何もいらない」