咄嗟にうまいアイデアが浮かぶ筈もなく、俺は黙って立ち尽くしていた。見上が若林に言っ
た。
「源三、済まんが、急ぎの用事で出かけてくる。留守を頼むぞ」
「判りました。シュナイダーもいるし、大丈夫ですよ」
・・・なんという幸運。今日、若林の家に来たのは正解だったようだ。俺はついつい笑顔が
浮かびそうになるのを誤魔化して、若林とともに見上を見送った。
若林は俺を居間に案内すると、着替えてくると言って席を外した。
俺はソファに腰掛けて、この後どうやって若林に話をしようか、あれこれと考え始めた。
いきなり、おまえが好きだ、では、引かれてしまう。
しかし当たり障りのない話ばかりしていては、悩みを相談されると思っている若林が変に
思うだろう。
なにかそれらしい悩みをでっちあげて、相談するか。しかしそれでは肝心の話が全然進ま
ない。大体、嘘の悩みなど見抜かれそうだし・・・。
考えは千路に乱れて、一向にまとまらなかった。その内に若林が戻ってきた。
「待たせたな」
Tシャツにジーパンという、ラフな格好だ。練習や試合でばかり顔を合わせているので、
若林の私服姿は新鮮だった。ありきたりの服装なのに、それを着ているのが若林だというだ
けで俺は眼を奪われてしまう。
「話があるんだよな。そうだ、その前に何か飲むか?」
若林が気を遣って、注文を聞いてきた。
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