「じゃあ、酒を頼む」
「えっ、酒飲むのか?」
若林が驚いたように聞き返す。
「素面じゃ、とても話せない。無ければ仕方ないが」
「いや、見上さんが買ったのがある筈だ。持ってくるよ」
俺の態度が思いつめたものだったので、若林は気を遣ってくれたようだ。無下に断ることは
せず、俺の為に酒を探しに行ってくれた。
間もなく若林は、ウイスキーのボトルとグラスを持って現れた。
「よく判んないんだけど、水とか氷とか要るのか?」
「いや、そのままでいい」
俺はグラスの底に酒を注ぎ、それを一気にあおった。咽喉に焼けつくような感覚が残り、ア
ルコールが体内に染みていくのが実感できた。
若林は心配そうに俺を見ている。俺はやましい気持を誤魔化すように、立て続けにグラスを
空けた。若林が堪りかねて、声を掛けてきた。
「おい、ペースが速いぞ。ちょっと休め」
「・・・・・・おまえも、飲め」
俺は口に運ぼうとしていたグラスを、若林の顔の前に突き出した。若林は戸惑っている。
「俺はいい。それより、話を聞かせてくれ」
「素面じゃ話せないと言ったろう。聞く方もだ」
俺の無茶苦茶な言い分を、悩みが深刻ゆえの事だと判断したのか、若林はグラスを受け
取ると、中身を一息に飲み干した。グラスを置いて、俺を見る。
いや、見ていると思うのだが、目の焦点は定まっていなかった。顔色は耳まで真っ赤。俺に
向かって言った言葉は・・・・・・。
「・・・ろ、ろんだぞ。さぁ、は、はなへ・・・」
飲んだぞ、さあ、話せ・・・か? 全然ろれつが廻っていない。たったの一杯で、滑稽なほど
の酔いっぷりだ。
こいつ、酒に弱いのか?
日本人にしては体格がいいので、なんとなく酒も強いような気がしていた。よくよく考えれ
ば、酒に強いかどうかは体格に関係ない。俺の勘違いだったようだ。
若林は身体を乗り出して、両手をついた格好で上体を支えている。それでも身体がぐらぐら
揺れて、今にも倒れそうだ。
俺は若林をソファに寝かせてやった。寝かせてやるや否や、若林は安らかな寝息をたてて
眠り込んでしまった。
なんてことだ。意を決して、若林の家まで来たのに。保護者の見上もいなくて、せっかく想い
を打ち明けられる、いい機会だったのに・・・。
・・・・・・待てよ。
保護者の監視は無い。
想いを寄せている相手は、酔い潰れて、まるっきりの無防備。
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