「それなら、シュナイダーもこっちへ来いよ」
若林がそう言うと、シュナイダーは驚いた様子だった。
 『俺がそっちに?』
 「ああ。こっちは盛り上がってて、抜けられそうにないんだ。このままじゃ、今夜はお前に会いにいけないかもしれない。シュナイダーの方から来てくれれば、俺としては都合がいいんだが・・・」
 『しかし日本人選手だけの飲み会だろう。俺が行ったら場違いじゃないか?』
 「構わないさ。知らぬ仲でもなし、みんな歓迎してくれるよ」
若林は熱心に誘うが、シュナイダーは慎重だった。
 『今日の試合は、俺が勝負を決めたんだぜ? その俺がのこのこ姿を見せたりしたら、盛り上がってた座が白けるんじゃないか』
 「大丈夫だって。もしそんな事になったら、俺はシュナイダーと一緒にすぐ引き上げるよ」
この言葉を聞き、シュナイダーは気が変わったようだ。これからすぐ行く、と言い残し電話は切れた。
 「若林くん、誰と話してたの?」
若林が携帯を仕舞いながら椅子に座り直すと、隣に掛けていた翼が話し掛けてきた。若林はニヤッと笑みを見せ、わざと答をぼかして言った。
 「スペシャルゲストを呼んだんだ。すぐにこっちに来るよ」
 「スペシャルゲスト?」
 「なんだぁー!? 若林、ゲストってコンパニオンのおねーちゃんかぁ?」
斜め向かいに座っていた石崎が、二人の会話を聞きつけ茶々を入れる。
 「今に判るよ」
若林はそれだけ言うと、泡の消えたビールが残っているジョッキに手を伸ばした。

 店に入ってきたシュナイダーがキョロキョロと辺りを見回しているのに気付き、若林は椅子から立ち上がると大きく手招きをした。シュナイダーがテーブルに近付いてきたのを見て、「ゲスト」の登場を知らされていなかった面々は一様に驚きの表情を浮かべる。飲みかけてた酒を吹きだしたり、口に運びかけていたつまみを持つ手が止まってしまったり、見間違いかと目を擦ったり、反応はさまざまだ。
 「シュナイダー!?」
 「なんで、シュナイダーがここに?」
若林は酒の追加注文のついでに店員に椅子を持ってこさせると、自分の隣にシュナイダーを座らせた。そして改めてシュナイダーを皆に紹介し、最後にこう付け加える。
 「俺が呼んだんだ。お前らも、シュナイダーには言いたい事が色々とあるんじゃないか?」
笑いながらの若林の言葉に、座がどよめいた。シュナイダーは今日の試合で自分達を苦しめ、勝利をもぎ取っていった張本人である。当然今日の酒席の話題に何度となく上っていたのだ。
 「とっつきにくそうな顔してるけど、話すといい奴なんだぜ。俺が通訳するから、何でも言ってみろよ」
 「若林、マジかよ〜!」
 「うわ・・・緊張するな。飲まなきゃ、とても話せないですよ」
 「ああ。酒の席だし、お互い気楽にいこうぜ」
若林はそう言うと、シュナイダーにも運ばれてきたばかりのビールを勧めた。
 初めのうちこそ遠慮のようなものがあって話が弾まなかったが、酒が進むにつれて双方緊張が解れてきたようだ。話題は今日の試合以外の雑談にも及び、シュナイダーはすっかり日本メンバーの輪の中に溶け込んでいた。若林がいちいち通訳をしなくとも、片言の英語などを使って直接シュナイダーと話をしている者もいる。
 通訳としてシュナイダーについていなくてもよくなったので、若林はシュナイダーの傍を離れ、呼ばれるままに他のメンバーとまた酒を飲み始めた。しかし居心地がいいせいで飲み過ぎてしまったらしい。眠気が押し寄せてきて、身体を起こしているのも億劫になってきた。
 (俺は、そろそろ限界だな・・・もう引き上げた方が良さそうだ)
シュナイダーはどうしているかと視線を向ければ、翼と岬に挟まれて何事か楽しそうに話している最中だった。シュナイダーと一緒に帰ろうと思っていたのだが、自分の都合で話を打ち切らせるのは気が引けた。
 これからどうしたものかと、若林は考えた。

シュナイダーが話し終わるまで、この場で待つ。

シュナイダーを置いて、一人で先に帰る。

シュナイダーに声を掛け、予定通り一緒に帰る。