若林は石崎と一緒に飲みに行く事にした。陽気な石崎はさっきの店でも盛んに冗談を飛ばし、座を楽しく盛り上げていた。石崎とは古い付き合いで気心も知れているし、彼と一緒ならば楽しい酒が飲めることは間違いない。お調子者の石崎はチームメートによくからかわれるが、それだけ皆に好かれているのだ。今も石崎と楽しい酒を飲もうと思うメンバーが数人、彼の周りに集まっている。
 若林はその輪の中に入り、石崎に声を掛けた。
 「石崎、二次会なら俺も一緒に行くぜ」
 「おっ、若林、いい店知ってんのか?」
赤ら顔で嬉しそうに聞いてくる石崎に、若林は頷く。すると石崎がはしゃいだ声で言った。
 「やった! 若林のお勧めの店なら、若林の奢りだよな!?」
 「はぁ? バカ言ってんじゃねぇよ」
石崎の軽口を若林が撥ねつけると、周囲が爆笑した。
 その後一行は若林が案内した店に行き、大いに飲み、楽しく騒いで時間を過ごした。そのうちに二次会もお開きとなって、一行はぞろぞろと宿泊先のホテルに向かう。途中までは方角が一緒なので、若林も皆と連れ立って同じ道を歩いているが、飲み過ぎたようでその足取りは大分覚束ない。
 若林と並んで歩いていた石崎が、冷やかすように声を掛けた。
 「なんだぁ? 若林、酒弱ぇーなぁ。そんなんで家に帰れんのか?」
返事をするのも億劫で、若林はただ首を大きく縦に振って応じた。見るからに危なっかしげな若林の様子に、流石に石崎も心配になってきたようだ。
 「本当に平気か? 何だったら、俺の部屋に寄るか?」
 「・・・お前の部屋に?」
 「おう。野郎同士で遠慮はいらねぇからな。ちょっと酒が抜けるまで、休んでいけよ」
親切な言葉を掛けて貰い、若林は石崎の気遣いに感謝する。気がつけば、既に前方には遠征チームが宿泊しているホテルが見え始めていた。若林は暫し考えてから、こう返事をした。

 「じゃ、お前の部屋で休ませて貰うか」

 「じゃ、お前の部屋で昔話でもするか」

 「じゃ、お前の部屋で一眠りするか」