いや、そんな事はないだろう。俺も仲間に入れて貰おう。
「ああ、そうしよう」
若林が頷くと、翼と岬が嬉しそうに声を上げた。
「やった! それじゃ、早く俺の部屋に行こう」
「若林くん、俺の肩に摑まりなよ」
岬が若林を支える為に身体を寄せてきた。それを見て翼も、反対側から若林の身体を支えようとする。両側から抱きかかえられて若林は有難く思いつつも、いかにも自分一人が酔っ払っているようで少し照れ臭い気持ちになった。
若林は翼と岬に肩を貸して貰いながら、翼が泊まっている部屋に入った。選手用に取ってある部屋は全てツインルームなので、翼の部屋にも誰か同室者がいる筈なのだが、三人が部屋に入った時部屋は無人だった。翼のルームメートが誰なのか知らないが、若林たち同様に飲みに出掛けてまだ戻ってきていないのだろう。
「若林くん、ベッドに座ってなよ。眠くなったら寝られるよ〜」
翼が二つ並んだシングルベッドを指し示しながら、冗談めかして言った。本当に眠るわけにはいかないが、見れば室内には椅子が二脚しかないので、若林は翼に言われた通りベッドに腰を下ろした。岬が気を利かせて、すぐに室内にあった二脚の椅子を若林が座ったベッドの傍に移動させる。翼は水の入ったコップを持ってくると、若林に差し出した。
「若林くん、はい」
「おう、サンキュ」
若林はコップを受け取り、水を飲んだ。酔っ払って火照った身体には、冷たい水がとても美味しく感じられた。翼と岬は椅子に掛け、ベッドの上の若林の方を向く。こうして昔馴染みの仲間だけで、あれこれと雑談が始まった。
しかし一人ベッドに座っている若林は、冷水の効果も空しく酔いが廻ってしまったようだ。段々と口が重くなってきている。せっかく翼と岬があれこれ話し掛けてくれているのに、既に相槌程度にしか言葉が出なくなっている。すると若林の体調を気遣ってくれたのか、翼と岬は若林には話題を振らずに二人だけで話をし始めた。テンポのいい二人の会話を聞いているうちに、若林は眠気に襲われ瞼が重くなってきた。
(まずいな・・・このままじゃ本当に眠ってしまいそうだ)
自分も翼や岬と話をしたいのだが、このままだと二人の会話に混ざれない。相手が一人だったら、酔っ払って口が重くなっている自分でも話ができそうなのだが。
若林は、どうしたものかと考えた。
岬には悪いが、岬に引き上げて貰って翼と二人になる。
翼には悪いが、岬の部屋に行って岬と二人になる。
いや、もう潮時だ。そろそろ引き上げよう。
・・・と思ったけど、面倒臭いからこのまま寝よう。