皇帝の選択
壁掛けカレンダーの前に立ったシュナイダーは、11月のページをぱらりとめくりあげた。そして手にした赤いサインペンを12月のページに近づけると、7の字を大きく丸で囲む。更にその下の余白部分に、大きくこう書き加えた。若林誕生日 「・・・これでよし」 自分が若林の誕生日を忘れる事など有り得ないが、こうして大事な日を予定に書き込むと、当日までのカウントダウンがしやすくて、その分楽しみが増える気がした。それにしても時間が経つのは早いもので、まだ当分先だと思っていた若林の誕生日まで一ヶ月を切ってしまった。そろそろ誕生日のプレゼントを用意しておかなければ。 大好きな若林の誕生日。何を贈ったら喜んで貰えるだろう? カレンダーの前から離れると、シュナイダーは椅子に腰を下ろし腕組みをして考え込む。昨日、練習が終わった後の帰り道で、若林に欲しい物は無いのかと聞いてみたのだが、若林から具体的なリクエストを聞くことは出来なかった。それどころか若林の態度が「くれるもんなら何でもいい」という等閑とも受け取れるものだったので、シュナイダーは思わず文句をつけてしまった。 『せっかく希望を聞いてるんだから、真面目に考えろよ。それとも、プレゼントいらないのか?』 『何でそうなるんだよ。欲しいに決まってんだろ! シュナイダーがくれるんだから』 若林に想いを寄せているシュナイダーにとって、この台詞は殺し文句に等しかった。 若林は俺のプレゼントを心待ちにしている! その期待に応えなければ!! しかし何を選んだら若林の期待に応える事が出来るのか、肝心の事が判らなかった。若林は裕福な家に育ったらしいから、ちょっとぐらい値の張る品を選んだところで驚かないだろうし・・・ 「いや、プレゼントは金額じゃない。いかに相手の事を想って選んだかどうかだ!」 金額的には庶民価格でも、演出に工夫を凝らしたり相手の意表を突く物を選んだりすれば、若林の思い出に残る素敵なプレゼントになる筈だ! 何を贈ろうか? シュナイダーは瞼を閉じて、若林の姿を思い浮かべた。ハンブルクJr.ユースのチームメートだから、思い浮かぶのも私服姿ではなく、馴染みのあるユニフォーム姿だ。 トレードマークのアディダスキャップに、 キャッチンググローブ。 長袖ユニに黒いロングジャージ。 顔はくりっとした大きな目に、 丸くて可愛い低い鼻、 固く結ばれた口。 脳裏に若林の姿を思い浮かべていたシュナイダーは、パッと目を見開くと叫んだ。 「・・・よし、プレゼントが決まったぞ!」 |